【志考巡遊】イタリアン酒場で泣いた話
皆さんこんにちは。
人道支援家のTaichirosatoです。
【志考巡遊】
1000文字で届ける僕の新しい遊び方
自分の軸となる「志」
日々の思「考」展開
その頭の中を「巡」り
文字で「遊」ぶ
今回も、確実に1000文字超えてきますが、大事な今の僕の気持ちを書き残すことに真正面から行きたいと思います(コンセプトはどこへやら、、)。
正直に、今回の記事を書くのに2か月以上の時間がかかりました。僕にとっても大切な人、自分の気持ちを整え、自身の中に思い出をしまうことが出来ず、それだけ大きな出来事だったのだと思います。基本的に投稿は1回で書き上げるタイプなのですが、この投稿は1度に最後まで書き進めることができませんでした。思い出を辿っては書くのをやめ、また書こうとパソコンに向かっては書くのを止め。これを何度も何度も繰り返しました。
今ようやく、一つの形になったこと、僕がまた前に進むために必要な時間だったのだと思います。
少し長くなりますが、最後まで読んでもらえたら嬉しく思います。
<6140文字 読むのに20分>
僕はイタリアン酒場で泣いた
雨上がりでじめっとした夕暮れ時。
夏本番とはいかないまでも梅雨の匂いとこれから夏が来るぞと言わんばかりの嫌な日本の暑さにうんざりしている僕。
エアコンのきいた呑み屋の席につき、1杯目のドリンクの注文をさっと済ませる。ローズの匂いだろうか。あたたかくていい匂いがするおしぼりが手渡される。
こじゃれた居酒屋街の一角にある、オレンジのランタンがぽつぽつと灯ったヨーロッパ風のお店。ここから今回の僕の物語のページをめくり始めることにする。
金さんと偶然呑みに行くことになったのは、なぜだったのだろう。理由は忘れた。いずれにしても、まん丸の眼鏡をかけ、たんまりと口周りに白髪交じりの髭を蓄えた坊主頭の金さんが僕の前に座っている。これだけの情報だと強面を想像するかもしれない。説明とは裏腹に、金さんの目は細くて垂れていて、世界中の誰が見ても超がつくほど優しい顔をしている。
ホント久しぶりっす。何年ぶりだろう?5年以上は会ってなかったすね。
僕は金さんに数年ぶりに再会し、そう切り出した。
タイチロ、元気ー?噂は聞いてるよー。
いつもインスタ見てるけど、活躍しているねー誇らしいよ。
金さんと僕は、大学病院時代の元職場の先輩と後輩の関係。といっても直接的ではなく、他部署でありながらも男性看護師という狭い世界にいた僕らは大病院の中でもお互いを認識し、何度か金さんに誘われ休日にサーフィンに行ったり、呑みに行ったりと面倒みのいい優しい先輩といった存在だった。
お互い大学病院を離れて職場が変わっても、何かの拍子に人づてで会ったり、共通の知り合いも多いので近況が耳に入ってくるような状況だった。
久々の再会で近況報告をし合いながら、時折思い出話を織り込んではドカッと笑いが起こる。現在の金さんは地元密着型の訪問看護ステーションを立ち上げ僕らが元々働いていた大学病院の地域医療に大きく貢献している。
僕はというと世界のあの国、この国の医療事情を説明する。金さんは へぇー と目を丸くし、顎髭をモシャモシャと撫でながら相槌を打ってくれていた。
何かを思い出したように、金さんは哀く優しい表情になって、一呼吸を置いた後に僕に伝えた。
クロさん、「幸せだった」そう言って、穏やかになくなったよ。
タイチロの話をしたんだ。
頑張っている、すごい、そんな話を何回もクロさんとしたんだよ。
僕は、誰かに褒められたいわけでも、クロさんにそう言ってもらいたいわけでもなかった。
でも、クロさんに僕が世界で医療活動をしていることが巡り巡って伝わって、
タイチロゥ、あんたすごぃじゃん〜
なんかさぁ、そーゆーの聞くとこっちも元気でるのょぉ
なんて、カドのない柔らかい声でクロさんが言っているところを思い出す。
金さん同様、クロさんもタレ目で、クシャッとした笑顔が素敵な、大学病院時代の僕の直属の上司。
クロさんと金さんの間に僕の話が出ていたことを聞いて嬉しい気持ちが僕を包んだあと、もうクロさんにそれを伝える術がないという事実が、僕を悲しい気持ちにさせた。
理解はしていても、事実を飲み込めないことがある。いや、飲み込みたくないという表現の方が正しい。
僕はガヤガヤとしたお店でおしぼりを両目にぐっと押しあてた。
もう、おしぼりのローズの香りはわからなくなっていた。
クロさんとの思い出
社会人1年目。
僕は希望の高度救命センターに配属になり、高校の部活動再来かと思わんばかりの厳しい環境に僕を含めた同期みんなが四苦八苦していた。急性期の医療者として人の命を任されるだけあって、先輩はみな鬼のように見え、24時間張り詰めているものがあった。看護師10年以上の経験がある先輩を見ると後光がさしているのではないかというくらい眩しく見え、彼らの前を通ることですらおこがましいと当時は感じるほどだった。
その当時、救命センターで主任をしていたのが、クロさんだ。
僕がミスをした時、僕の1年間のフィードバックをしてもらう時、事あるごとにクロさんと面談をすることになるのだが、クロさんと部屋で二人きりになると急に救命センターの空気から抜け出し、ふわっと雲に包まれたような感覚になった。
タイチロゥ、今回は何やっちゃったのよぉ。
あんた、がんばなさいよぉ~応援してんだから。
近所のお節介なおばちゃんのような絡みで、逆にこっちが拍子抜けをしてしまう程、クロさんの言葉は優しく僕に毎回勇気をくれたのだった。
1年目の終わり頃。
とある救急学会へ僕が参加した日。
クロさんの姿がないなと僕が会場をキョロキョロしていると、大勢の人混みの中の先の登壇席に「クロ様」と書いた壇上ににクロさんが座っていた。
うそでしょ?と、僕は目ん玉が飛び出そうになった。あんなにいつもは気さくなのに、この人飛んでもなく凄い人じゃないか!とその時改めて感じた事は、何も知らなかった僕の若気の至りとして大切に僕の中にしまっておくことにする。
クロさんの歳が近しい同僚の人たちは、敬意を込めて「ばあさん、ばあさん」とクロさんのことを呼び、慕っていた。
それは決してクロさんが年老いて見えるとかそういうわけでなく、彼女の愛嬌がそうさせているのだと僕は理解している。
何より、僕にとって一生忘れないであろう日がある。
ぼくが救命センターをやめて、海外に行くといった日。
救命センター中の上司から猛烈に反対された。
今となればそれは当たり前のことで、上司としての立場であればとてもよくわかる。
お世話になっている上司に僕が考えていること、将来のビジョン、想いのたけを説明して回っても一向に理解が得られず、暗い気持ちが続いた。
そんな中クロさんのところを訪れ、僕は懲りずに同じ説明をした。
今回もまたなんか言われるんだろうな。そんなマイナスの思考が僕の頭の中をいっぱいにしていた。
いいじゃん、行ってきなよ!頑張ってよぉ~。
クロさんは直ぐに僕に返した。
僕はポカンと口を開け返す言葉がわからず、
え、いいんですか?
と聞き返してしまったほどだ。
実はクロさんはアメリカの大学に行っていたこともあり、国際的な活動には肯定的だったということもある。ただそれだけでなく、組織としてマイナスになることであっても、シンプルに僕を応援してくれたのだった。
この時、僕は二つのことを決意した。
1つ。クロさんに僕の国際活動のことを報告し続けること。
2つ。僕がいずれチームの上司の立場になった時、個人のキャリアを全力で応援すること。
これは今でも僕の核となっているものだ。
それ以降今に至るまで、シップナースとして船で世界中を回ったこと、サハラ砂漠で医療センターを立ち上げ管理したこと、国境なき医師団での活動、全ての国際活動から日本に帰国する度に僕はクロさんの元を訪れ、報告をした。
タイチロゥ、いいじゃん、すごぃじゃん〜
頑張ってるよねぇ~、なんかげんきでたぁ
そう言ってもらえるのが嬉しくて、クロさんの元を何度も何度も訪れたのだった。
最後にクロさんと握手した時
そんなクロさんは、救命センター時代を終えると、救急看護師の指導に回り教育センターで働き始めていた。
それからほどなくして、僕が中東から帰り、いつものようにクロさんを訪ねると、クロさんは車いすに乗っていて、具合が良くないのよぉ、と僕に教えてくれたのだった。
僕らは医療者のプロであるから、その一言が何を意味しているのか、説明しなくてもわかる。そんなことは起こり得ない、認めない。そう思うことでしか、自分を保つ方法がなかったのだと思う。
そしてそれからというもの、僕は今まで以上に大学に足を運び、クロさんに近況を報告するようになった。
アメリカの船の医療の話、中東の医療事情、アフリカの話、どれを聞いてもクロさんは、あんたはすごいねぇ~とニコニコしながら耳を傾けてくれた。
この頃から、入院の話もたびたび聞くようになった。
2023年、僕は一つの大学病院への感謝の気持ちをカタチにしたいというのもあってある決断をした。
それは、看護師国際サミット2023の東海大学での開催。
いろんな議論がなされて、結果的に母校である大学での開催が決まったのだが、そこにはこんな思いもあった、当時のあとがきにも記載されていたので少し紹介する。
2023年のサミットが終わり、年が明け、2024年1月僕のスーダン行きが決まった。
出発前にクロさんに会いたいと、仲良しの別の上司にいうと、すぐにでも会いに行けと急かされ、次の日にはその上司の計らいでクロさんと会うことが出来た。
ベッドに横になり、少し疲れた顔をしていたクロさん。
僕が来たことを知ると笑顔になってくれ、僕はいつもの報告会のように世界の話、サミットを開催した話、これからスーダンに行くことを伝えた。
僕らは30分くらい話をした後、忙しいリハビリの合間をぬってあってくれたことに感謝をつげ、僕は病室を後にしようとした。
次はいつ帰ってくるのぉ~
と、クロさんは僕に聞き、
、うんと、4月くらいですかね
と僕は精一杯の笑顔を作り、答えた。
笑顔だったかどうかも正直わからない。僕はうまく笑えていただろうか。
僕はベッドで横になっているクロさんの元へ歩み寄り、
またね。クロさん。
と握手をした。
10秒間
長い時間だった。
僕には十分すぎるくらいの時間だった。
暖かくて柔らかいクロさんの手。
そこからは、クロさんのやさしさが全部僕の中に流れ込んできたような、そんな気がした。
タイチロゥ、
これからもさ
世界中の困ってる人たち
助けちゃってよ
頼んだよ
死ぬのは怖いけどさ、辛いけどさ、
私の人生、悪くなかったよ
幸せだったよ
手を握りながら、クロさんの目は確かに僕にそう言ってた。
つながる医療と安心
ごめんごめん、この話はもうやめよう。
金さんは、呑み屋の席で僕が突然泣き出したもんだから驚いている。
すいません。いいえ、僕、聞きたいです。
教えてください、クロさんの話。
金さんは僕を気遣い、言葉を選びながら続けた。
家がいい。病院は嫌だよぉ。
クロさんそう言ってた。
たぶんね。これは俺が感じた事だけど、クロさんはさ、病院にいると「医療者のクロさん」なんだよ。病院のクロさんじゃなくて、「私」になりたかったんだと思う。
救急医療に人生を捧げた医療人の言葉が僕の心に響く。
それから金さんは、彼自身の関わり、周りの人たちの葛藤、クロさんの様子などを話してくれた。
俺はさ、心も、体も、死に向かって行くときってあると思うんだよね。
その瞬間を大事にしたい。
救急医療の最前線で活躍した医療者には、死に向かっていく瞬間が来ないように、それに抗うかのように最善を尽くすじゃん。
終末期医療は、その瞬間を優しく抱きしめるような、穏やかな時間となるようにありたい。
鼓動が止まる瞬間ってさ、その瞬間は、打ち寄せる波と一緒なんじゃないかな。体がそこに向かっていくタイミングっていうのがあるって感じるんだよね。
いろんなことをして風が強ければ、波も高くなり跳ね返りも大きい。
それは本人にとっても、関わる人にとっても同じこと。
だから身体がそっちに行こうとしているのに抗わないように、そのタイミングをしっかりと見極めて介入する。
本人も関わる人たちも、穏やかであれるように、俺はできることをしたいんだ。
金さんの言葉には、彼の経験と最後に向かう人へやさしさ、プロとしての情熱があふれていた。
金さんは現在、大学病院時代の経験とコネクションをうまく活用し、同じ地域で訪問看護ステーションを運営。大学病院から家に帰って時間を過ごす「顔の見える、つながる医療」を実現している。大学医療に携わる者として知っている顔へバトンをつなぐ、こんな安心できるつながりはないだろう。
実際のところ僕は、金さんとここで会うまで、金さんがクロさんのケアをしていたことを知らなかった。そしてそれを聞いて、本当に安心した。
ずっと僕の中には、怖かったかな、痛かったのかな、つらかったのかな、くやしかったのかな、そんなことばっかり考えていたから。
もちろんそれもあると思うが、少なくともクロさんが顔の見えるメンバーにサポートを受けられたこと、今までクロさんにお世話になった後輩たちや元職場の同僚たちが彼女の為に全力になったこと、そして最後は安心してたくさんの人たちに囲まれた時間を過ごせたこと。
匂いのしなくなったおしぼりを目にこすりつけた涙の中には「安心」という感情も含まれていたように今振り返ると思う。
また会えるかな
人は二度死ぬという。
一度目は、鼓動が止まった時。
二度目は、忘れられた時。
僕が生きている限り、あなたのことを忘れない。
そして彼らもまたあなたを忘れない。
共に地域の救急を支えた人たち。
あなたが守ったたくさんの命。
あなたが癒やしたたくさんの人たち。
あなたへ伝えたいありがとうは、
言葉にすると足りなくて、表すことが出来ないことがもどかしいのだけど、
タイチロゥがまたどこかで活躍しているらしいと、風の噂に乗ってくることがあったら、やんちゃな若造看護師の昔し話でもして、笑ってくださいね。
あなたの笑顔に
あなたの声に
何度も癒され
何度も何度も勇気をもらった
仕事ができて、得意なことにまっすぐで
それでいて、ぬけてて、おっちょこちょいで、
ふわっと肩の力が抜けてて、人間くさくて。
僕は、そんなあなたのような人になりたいんです。
それいいじゃん、やってみなよぉ
タイチロゥならできるよぉ
クロさんのように、上手にできないかもしれないけど、
そうやって、僕も誰かの背中を押せる人になりたいんです。
タイチロゥ、
これからもさ
世界中の困ってる人たち
助けちゃってよ
頼んだよ
はい、頼まれます。
誰から認められたいわけではないのだけれど、
あなたのクシャっとした笑顔と、 すこいじゃぁ~ん という言葉が欲しくて、僕はこれからも活動を続けると思います。
今も残っているクロさんのあったかい手の感触。
その感触を大切に包み込むように僕の両手を合わせる。
なんとなく元気がもらえるような気がして、両手に顔を近づけてみる。
ほんのりとローズの香りがする。
少し遠いところにいるクロさんに僕の風の噂が届くように
僕は今を誠実に生きることにする
僕の想い、天まで届け。
Best,
Tai (本文 6140文字)
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また次回お会いしましょう。
尚、ぼくの投稿は全文公開にしていますが、有料記事設定しています。
応援し応援される関係になれたらこんなに嬉しいことはありません。
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