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【志考巡遊】ショーケースから見える世界

割引あり

皆さんこんにちは。
人道支援家のTaichirosatoです。

【志考巡遊】
1000文字で届ける僕の新しい遊び方

自分の軸となる「志」
日々の思「考」展開
その頭の中を「巡」り
文字で「遊」ぶ

8月から、某団体のEditorial Productionで修行をしながら定期的に活字と向きあい思考を文字化する日々を送ってきた僕ですが、その効果は今までも続けてきた講演活動にも活かせてきたような気がする今日このごろ。

僕にとって「伝える」ことのイメージは、
相手に情報を手渡す のではなく、
相手の前にそっと情報を置く
それを相手が 自ら 手に取る過程を作る感覚。
例えるならフレンチレストランで次々出てくるコース料理やワインをサーブし、料理がもっとおいしく、楽しくなるように説明するウェイターのようなもの。それを各々が自分のタイミングで自分なりの楽しみ方で、食す。
僕はそこに至るまでのプロセスを作る役割なのかもしれません。

言葉で、文字で、伝える練習をしている僕は、いろんな角度から文字で表現できるように、日本語の引き出しを現在勉強中です。

今回は、日々の出来事の中でちょっとしたことを綴っていきながら、自分の文章の幅を増やしつつ、読み手の皆さんに楽しんでもらえたらと思います。
では、久々の【志考巡遊】。ゆっくりコース料理のように味わってもらえたら嬉しいです。

2024年12月。大学講義に向かう途中、立ち寄った場所での一幕。


【志考巡遊】 ショーケースから見える世界


なんと、肌寒い。
地球温暖化なんてさておいて、日本中が札幌になったんじゃないかと思うくらいに身震いする寒さの中に俺は立っている。
ここが何階であるのか俺にはわからないが、地上より少し高いこの場所から見える景色は、
日々何の代わり映えもなく、人々がせわしく行き交う、
渋谷スクランブル交差点をスタバの窓から見下ろしているような、
そんな感覚で毎日俺はそれを見ている。
俺の1日はこうやって、いつもと何も変わらず通り過ぎる。

喧騒のなか生き急ぐ人々。

ひい(壱)、ふう(弐)、みい(参)、よう(肆)、、、
行き交う人を数えながら、
現代人は何をそんなに焦るのだ、と思う。
俺は古き良き日本を好み、俺の名付け親は忘れたが、自身の名前も古き日本を感じられる節があるから案外、気に入っているものだ。

現代人に紛れて日々少しずつ、俺は前へと進む。
だが一歩二歩進んだからといって特になにかが変わることはない。

ちっ、誰も俺のことなんか気にしちゃいねぇや。

冬の寒さなのかなんなのか、慣れてきたはずの寒さにブルっと身震いをし、
愚痴の一つや二つも言いたくなる。
しかし、言ったところで世界は俺の為に何をしてくれるわけでもない。
俺には世界を変える力も、スーパーヒーローのような勇気も行動力もない。

ちっ、なるようになりやがれ。

俺はここからじっと世の中を傍観し、世の中に流され、何もしていない。
でも、それでいいとも思っている。
何もしないという選択。いいんだ、これでいいのだと自分に言い聞かせ、
ただただ時間が過ぎていくのを待っている。
誰も傷つけず、俺自身も傷つくことはない。
それでいい。

ふと目の前のドアが開き、あたたかい空気がふわっと俺の方に流れ込む。

久々の暖気に俺はほっとした。

見た目は大学生だろうか?
グレーのパーカーを着た青年が立っている。
青年の左手には、セブンのレジ前に置かれているAquoのガム。
どうやら彼の嗜好品のようだ。

青年は疲れているのか、考えことをしているのか。
人道支援だとか、グループワークだとか、動画再生は15分間だとかブツブツ言いながら、キョロキョロすることもなく、一目散に目的を果たすべく歩みを進めていく。

ちっ、生き急ぐ現代人か。

青年は、呪文のような堅苦しい大学の講義内容を復唱し、発せられる言葉の一つ一つが学のない俺には耳障りで気分が悪い。
俺は、何かに秀でた優等生でも、劣等生でもない。
かといってクラスで尖ったヤンキーでもない。
いたって平均的で普通だ。

俺自身、それでいいと思っている。
やや手頃な存在ではあるのだと思うこともあるが、特別であると俺自身を思えたことは生まれてこの方ただの一度もない。
夢も希望も、きらびやかな未来も、
平均的で普通な俺には到底おこらないものなのだと、いつも自分にいい聞かせている。

ちっ、偉そうにしやがって。

自分とは違う世界に居そうなこの青年に腹が立つ。

俺は、先っきまでの寒気から逃れ、ひと肌の暖を取りつつ、この青年を左側から、じっと観察する。

どうやら青年は、Aquoのガム以外に何も目的は無いようだ。

ほどなくして、俺の視界に見慣れたピンクとエンジ色の服の右胸に
「7Eleven」と入った制服が見える。

いつもはガラス越しに見える制服と
見慣れたベテラン30代女性が、
俺の方から近づくことになった今日は、
色鮮やかに、そしてちょっとだけ魅力的に見えた。

青年が右手に持っているものを、
スッと、カウンターに差し出す。

日常的に行われているであろうその動きには
無駄一つなく、洗礼された所作であることが見てとれる。

俺とAquoがぎゅっとくっつくように押し当てられ、
青年と制服の女性の行く末を、
ごくっと唾を飲み込み静観する。

青年の右手の先には、
カウンター上に置かれたケータイ。
対面の制服の女性の両手に握られているのは、
赤い閃光を放つキカイ。
それはまるでX-Menさながらだ。

静けさだけが通り過ぎる。

青年は俺とAquoを左手に握ったまま、
何かを待っている。
忙しいはずの現代人の作り出す
この「間」が俺にはたまらなく不思議だった。

今まさにレジ打ちされようとしているケータイ。
しかし、そこにバーコードはない。

制服の女性は ぴっ と赤い閃光をケータイに浴びせようと、そぶりを見せる。
その瞬間、なんちゃってね、と手を止め、
 はっ と短く息を吐きながら青年に微笑む。

俺には、この笑顔の意味が全く分からなかったが、

青年は はっ と笑顔になってしゃべりだした。

「すいません!自分のケータイをレジに出してました。。」

先ほどの静けさの後とは一変空気が変わり、
ははは、と2人の笑い声が聞こえてくる。

ここで俺とAquoは左手から離され、さっきまでケータイがあったところに輸送され、赤い閃光を浴びた。

この閃光は見た目の迫力のわりに、
熱くも冷たくもなく、
実はちょっとくすぐったい。
俺の脇腹にあるバーコードの部分が、こそばゆかった。

「これから講演で、いろいろ考え事してて、スイマセン。この2つは、いつも買うんです。僕の講演の必需品なんですよ。」
青年の声が聞こえてきた。

平凡な俺の毎日。
とある場所から世界を眺めるだけの日常。
そんな俺が誰かから必要とされていることもあるというのか。

赤い閃光とは違った種類のくすぐったさが俺の身体を走る。
この青年のことは、馴れ馴れしくてどうも好きになれない。だが、

ちっ、今日の講演うまくやれよな。

俺は俺なりの下手くそな方法でブツブツと独り言を言ってみる。
誰かのために自分があるということを
時には知ってみるのも悪くない。

俺は少し時間をおいて考える。
もしかしたら、自分で気が付いていないところで
誰かのためになっていることもあるのかもしれないってことか。

ちっ、そんなことあるわけないか。

今日の俺はちょっとだけ晴れやかだ。


俺の名前は「いろはす」。


Best,
Tai     (本文 約2354文字)

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