【人道支援ハイチ】マスカジュアルティとチームの葛藤〜僕のコトバを贈る〜
みなさんこんにちは
人道支援家のTaichiroSatoです。
日本は少しずつ寒くなってきた頃でしょうか?
今週の出来事と今の自分が思うことを綴っていきます。
ハイチの現状
ギャング抗争、道路の寸断や燃料供給の支配など、様々な混沌が繰り広げられているハイチの今。
僕は一医療者として現地で活動しながら、自分の力ではどうすることもできない大きな流れの中で葛藤し、自分なりの進行方向を模索している日々を送る。
連日繰り返されるマスカジュアルティ(多数傷病者)。
時間を忘れ、駆け抜ける
一般的にマスカジュアルティ(多数傷病者)というのは、あまり頻繁に起こるものではない。
しかしここ3日間、僕の病院では毎日 それ は起こっていて、手術に携わる外科医、手術中や術後を管理する麻酔科医、救急でトリアージや初療をし、術後の管理をする看護師チームは満身創痍だ。
電話がなる
救急室へはしる
既にたくさんの患者が到着していて、誰が重症なのか、どの程度重症なのか、誰からか治療を始めるべきか(この作業のことをトリアージという)瞬時に判断し初療にあたる。
昼も食べず救急室にあふれる患者を処置していくと、
気がつけば時計の針は22時を回っていた。
家に帰り、クタクタになってベットに潜り、
まばたきをすると朝が来て、
マスカジュアルティはまた 起こるのである。
それだけ今のハイチの状況は不安定だと言えるのだろう。
当然僕らのチームの中では(ここでは世界中から集まってきた外国人チームメンバーを指す)自分たちの身をしっかりと守るための厳しい行動制限とチーム内での緊急時の対応の確認などを徹底するためのミーティングも連日開かれる。
決断をする息苦しさ
沢山の患者が一度に運ばれてくると何が起こるのか。
どの患者から優先的に治療をしていくかというトリアージに関しては上で少し述べたが、できるだけ早く重症患者に対応すべくとにかくスタッフを集める。
そして、その患者の殆どが銃創(銃による怪我)であり、治療開始と同時に手術の準備が進められる。
銃創患者の多くは大量の出血によって体の中の血液を失っている失血といわれる状態であり、それを補うために輸血が必要になるわけだが、、
連日のマスカジュアルティで輸血が圧倒的に足りない。
そして明日も明後日もマスカジュアルティが来たら、、
そんなことを考えずにはいられず、少しでも助かる可能性が高い人に輸血がいけるようにするため、
誰に輸血をいくのかを決めなければならない
目の前の 患者たち にどこまで限りあるリソースを使うのかを選択する日々が続くのだ。
夜になりマスカジュアルティの状況は落ち着き、手術が終わり、朝がきて、集中治療室での昨日の患者を診ながら、いい結果も悪い結果も全て僕らのチームは受け止めなければならない。
本当にあれで良かったのか、良かったのだ、あれしかなかったのだ、と飲み込んでも飲み込んでも消化しきれない なにか が僕らの体の中に少しづつ蓄積されていく。
パズルのピース
ここでの集中治療室では、日本で考えると当たり前のように使われる集中治療に必要なの検査器械がない。
道路の寸断により修理ができなかったレントゲン機器は最近になってようやく修理が終わり使用ができるようになった。しかし、血液精密検査(血液ガス、生化はなく、血算、クレアチニンの測定は可能)など、人工呼吸管理や日々の体のコンディションを把握するための精密検査がここではできないことが多く、フィジカルアセスメント、エコーを用いた検査からの情報が非常に大事になってくる。
患者の状態を全て把握するためのパズルが完成することはないが、僕たちは今あるピースを集めて穴だらけのパズルを組み立てていくのだ。
たとえパズルは完成しなくとも、パズルに描かれた絵を予想し、問題を解決するためのBetterをチームでディスカッションしながら導き出していく。
徐々に見え始めるチームの疲れ
僕らのチームには、現地のそれぞれの部署のメンバーに加えて、フランス人の麻酔科医、ドイツ人の外科医、そして、日本人の救急集中治療看護師がいる。
イラクの時にも経験したことだ。
人は、腹が減ると、寝不足になると、疲れると、イライラする。
想像に難しくない。
連日のマスカジュアルティでチームが疲弊し、ギクシャクし始める。
繰り返し運ばれてくる銃創患者たち。
やっと家に帰ったと思えば、電話がなり病院に戻るなんてこともよくある。
普段はとても温厚で笑顔絶えない外科医が大きな声を出し、目の下に大きなくまを作った麻酔科医がイライラを口にし、僕は話を聞く。
みんな疲れてるなぁと肌で感じ、僕にできることを考える。
僕が集中治療室に残るから、とにかくご飯食べて一時間休みな
と麻酔科医を集中治療室から退出させる。
なんかあったら呼ぶから、まずは空腹を満たして少し休むこと。
大丈夫、僕も集中治療のプロだからさ。
とにかく一分でも長く緊張の時間を緩めること。
これは僕がいろんな現場で学んだことであり、
一番嬉しかったサポートでもあった。
チームのギクシャク、イライラ。
それ自体は決していいことではないが、そんな中でも僕はいいチームメンバーだなーと思ったことが2つある。
主語は誰か
ひとつ目は主語。
状況がカオスでも、誰かが声を荒らげても、どんな状況になっても、その会話の主語が患者であること。
この患者に必要なのは、、あの患者には、、
ギリギリのところで戦う仲間たちは、常に患者のことを本気で考えている。だから、それぞれの立場から時にぶつかる。ぶつかること自体は悪くないのかもな、と今は思えるのだ。もちろん、誰かがぶつかっているのを見ているのは心地良いものではないが。
リスペクトと対話への努力
ふたつ目は、相手の立場に立ったリスペクト。
カッとなっている時はなかなか難しいのかもしれないが、それぞれが対話を求めている。
なんであんなことをしたのか、あんなことを言うのか、と思っても後に、本意はどこにあるのか、相手がどうゆう状況なのかを知ろうとし必ず対話の時間をつくっていること。関係をギクシャクで終わらせない、自分から相手を理解しにいく姿勢に、リスペストを感じ、なんだか微笑ましくなる。
僕は彼らの話を聞きながら、自分以外の誰かの立場を想像し、その人はその時何を考えていたのだろうか、とぼそっと口にしてみる。
その時じゃなくてもいい。
あとでもいいから、自分以外の誰かがどんな状況にいるのか、何を考えているのか、最終的に行動として現れる前の見えない相手を想像する時間を自分の中に作れたら素敵なことだなぁと思う。
誰もいなくなった救急室
救急室で、さっきまで自分と話していた患者が、手術に入り、戻れないことがある。
これだけマスカジュアルティが続くと
残念ながら一回や二回といった経験ではない。
銃創は、見た目以上に中の臓器や血管損傷がひどいことが多く、時間の経過とともに失血は進み厳しい状況になることが多い。
そこに追い打ちをかけるように輸血の問題や様々な問題が重なってきて僕らのチームを更に悩ませていることは上で述べた通りだ。
子供も大人も、無差別に受傷し運ばれてくる救急室。
ピーク時は、救急室は彼らで溢れ、床は暗赤色で汚れ、
通路でウロウロする家族やじっと一点を見つめる人たち。
外が真っ暗になり、ピークを過ぎると、
そこは何事もなかったかのように、
床はきれいに掃除され、ストレッチャーだけが並ぶ
「誰もいない救急室」に戻る。
でも、
戻らないものが沢山あるのだ。
ここに到着した時まで、
それまで確かにあった瞳の中の光が
その日の日没とともに濁ったグレーへと没ち
今まで続いてきた彼らの人生の時間が途切れる。
それはもう戻らない。
僕ら医療者にとっては、大勢の患者の中の一人でも
それぞれにとっては、唯一無二。
たった一人、かけがいのない人なのだ。
わかっている、誰もがかけがいのない一人なのだと。
僕らもそれはわかってるのだ。
それでもやってくるバッドエンド。
そこに至るまでの医療者の選択と葛藤。
それに正解があるわけでも、
終わりが来るわけでもない。
贈るコトバ
選択と葛藤。
それを繰り返すことで
少しずつ僕らの体の中に溜まっていく なにか。
それぞれが それ の存在に気付いているのだと思う。
それ に蝕まれないように、
僕らは、小さなことを支え合いながら、
対話を重ね、走り続ける。
一生懸命。
みな、一つの生というものに懸命なのだと思う。
誰かの分まで生きることはできないのかもしれないが
今を生きる人
僕自身もこれからを生きる一人として
前へ進む
どうにもならないことがある
不安も葛藤も
本当に良かったのかという後悔も
たとえチームの仲間が罪悪感や責任を感じたとしても
それでも時間は止まらない
僕らは止まらず進むしかない
苦しいのは変わらないかもしれない
でも、みんなで走っていると思えるだけで
ちょっと楽になれたことが僕にはあったから
みんな、あなたと一緒に走っているよと
僕には伝えることができる
大丈夫
誰も一人じゃないのだから
あなたの隣には、僕らがいる
このコトバを大切なチームメンバーに贈る
Best,
Tai
※投稿内容は全て個人の見解です。
最後まで記事を読んでいただきありがとうございます!
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また次回お会いしましょう。
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✎2022年5月より✎
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