真実

「どういうこと?」と引きつった顔であの子に聞いた。
腹部を擦りながら『お腹痛い!お腹痛い!』が最初の言葉だった。
そんな三文芝居をただただ無言で見つめていると、『あなたのことで相談に乗ってもらってただけ、本当に何も無い。ただの友だちだよ。』と答えた。
前科、と私が表現できる立場なのかは分からないが、そのことが脳裏によぎった私は、「お前からマッチョに電話かけてみろよ。」と、怒り気味に言った。
開口一番、あの子は電話越しのマッチョに『バレた…。』と言った。
『バレた』という発言で嘘をついていると確信した私だったが、とりあえず信じたテイを装った。

私と電話を代わる。
彼もまた、あの子と同じように、何もやましいことはない、と答えた。
このアクシデントで終電が無くなってしまったので、とりあえず泊めた。
講義が無く一日中空いていたらしいが、翌朝帰ってもらった。

私は一人で登校し、空きコマの時間を使って、同じグループの友だちである、ちゃんゆい と はーぴょん に昨夜の出来事とずっと隠していた夏の日の不貞について話した。
その時知ったのだが、この2人はあの子のことをよく思っていなかったそうだ。
私の目が節穴であるだけなのか恋は盲目というやつなのかは分からないが、いろんな人に対する陰口がひどかったらしい。
私に関しては、頻繁に胸を揉んでくるのをやめてほしい、などといった事実の陰口もあったが、500円貸したのに踏み倒された、など全く身に覚えがない虚構の陰口も混じっていた。
500円程度で何を喚いているのだ、とも思った。

二人も、「あの子は黒だと思う。」と言った。
ならば証拠を集めよう、そう思った。
マッチョを詰問するのが手っ取り早い気もしたが、私は器用ではなく、失言を誘える自信が無かったのでその方法は捨てた。二人も他人事ながら面白そうに考えてくれた。
お互いしかフォローしていない、いわゆるTwitterの鍵のついた裏アカウントがあるのを思い出した。
ツイートではなくてLINEでやればいい話なのだが、私はLINEで他愛も無い話をするのが好きではなかったので、他愛も無い話がしたい時にいろいろ都合が良かったのだ。
しかし、別れが決まった瞬間に向こうからブロック解除された。
あの子は悲劇に酔う傾向があった。
私は夢に向かって頑張っている、精神的な病を抱えているけど負けずに頑張ってます、といったアピールが顕著だった。
そういった空リプライをたびたびそのアカウントで発揮していたので、その都度リアクションして宥めていた。また、「匂いのついた洋服嗅いでるの幸せ。」とか私が喜びそうな空リプもしていたので、このアカウントは使えるかもしれない、と考えた。

そこで、インターネットから拾ってきた偉人の名言や、我々が適当にそれらしく見えるように考えた格言を自動でツイートする"辛い時bot"というアカウントを作成し、あの子の裏アカウントをフォローする作戦を練った。
ツイート数が極端に少なかったりすると、さすがに疑われると思ったので、しばらく寝かせた。
メンヘラっぽいアイコンのアカウントをフォローしたり、逆に2人にメンヘラっぽいアカウントを作ってもらって、フォロワーになってもらったりして、あの子が食いつく要素をふんだんに盛り込んだ。

時は満ち、フォローリクエストを送ってみたら、ほんの数分で承認された。
こんなクソみたいなトラップ(?)にまんまと引っかかる元カノに辟易しつつ、嬉しさ半分で数週間ぶりにあの子のアカウントを覗いてみた。

つづく

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