結末
『寝言でしょー(友だちだった頃の呼称と違う)の名前呼んでたよ、ってママに起こされた笑』
『明日やっとしょーに会える、幸せだ。』
『あー好きだなー』
目眩がした。
十中八九クロだとは思っていたが、一縷の望みは無残にも打ち砕かれた。
マッチョって呼んでたのに、なんかしょーって呼んでるし。
覚悟していたとはいえ、ダメージは大きい。
あの子のこれらのツイートに対して、マッチョも裏アカウントで返信している様子があった。
別れて数日でこれか。
ちゃんゆいは「殺しちゃえ」みたいなことを言った。
相も変わらず、2人とも"あくまで友人"のスタンスだったので、それからまた泳がせた。
そして、『私のどういうところが好き?』的などういうやり取りをしているのか推測しやすい彼女のツイートのストックをいくつか用意できた。
あの子にあらためてLINEで「友だちとして関わっていく前にもう一度聞くね、本当に何も無いのね?」と問うと、『何も無いよ。』と返ってきた。
隠し通すつもりだという覚悟を察し、マッチョを家に招いて、1VS1で話すことにした。
「あの子はああ言ってる。しつこいようだけど本当にそう?君自身あの子に好意は無いの?」
『本当に何も無いよ、今は好意は無いけど先のことは分からない。』
「今は本当に何もないって信じていい?」
『本当に。』
マッチョは私の目をまっすぐ見て、そう言った。
「そっか、なら信じるよ しょー」
「またなんかあったら話聞かせてねー!」
『ごめん。』
「何が?もう用は無いから帰りたかったら帰っていいよ。」
『夏休み明けてから、付き合ってる報告をしようと思ってた。』
「何の話か分かんないなあ。でも今日話したことはあの子には内緒ね?」
『分かった。』
彼自身、何故バレたのかはおそらく分かっていない様子だった。
鍵が付いているアカウントにフォローが行く時点でいささか不自然なのに、辛い時botの存在はあの子にとって話題に値することではなかったのだろう。
翌日、あの子は無言かつ乱暴に私が貸していたカーディガンを投げつけるように渡し、去っていた。
『このカーディガン燃やしたい。』というツイートをしていたので、何故か分からないが私を敵視し始めたようだ。
数日後、再びマッチョを家に招き、タネを明かすことにした。
「こういう経緯で辛い時botを作りました。」
『ずるいなぁ。』
「ずるいって何が?」
『そうやって鍵のついたアカウントを突破するのは良くないよ。』
「フォローバックしたのはあの子自身の意思だよ。良くないのはあの子の頭じゃない?あと真っ直ぐな目で私を見て嘘を突き通そうとして友達の彼女を奪うカタチをとった君に対しては、特に怒りとかはないから。かつて私もしたことだし、自分を棚に上げて責めるつもりはないよ。でもまぁとりあえず2人で仲良くしてよ。因果応報だけど、私はあの子の顔も見たくないから、彼氏として頑張ってくれたまえ。夏休み明けに告白する予定だったのにごめんね。俺からグループのみんなに言っておくからさ。辛い時botも用済みだから今すぐ消すよ。」
と、屁理屈を並べた。
皮肉を込めて言ったが、マッチョに対して怒りはほとんどなかった。半分本当で半分嘘という感じだ。
そうして、私の大学生活はじめての恋は終わった。
時は流れ、4年生になった。
マッチョとあの子は結局2年半ほど付き合ったらしい。
大学院進学希望のあの子は、マッチョと交際中に大学院生の先輩と何度も肉体関係を持ったという話を人づてに聞いた。
しかし、その大学院生はあの子のことをセフレ的なポジションに置いているらしい。
マッチョと別れてそいつと付き合いたいが、なかなか振り向いてくれず、歯がゆい思いをしているそうだ。
マッチョは今でもその事を多分知らないと思う。
純さんは地元の大学院へ行くらしい。
どこの大学もそうなのかは分からないが、大卒で就職希望の場合、卒論は必修ではなく、ゼミ論を提出すれば卒業が認定された。
大学院に進学する場合のみ、ゼミ論と論文が必修だった。
純さんは言った。
『卒業したら、多分君も俺もあの子と関わることはないと思う。』
―あの子は大学院進学希望なので、純さんに論文作成のコツやヒントなどを時間をかけて一緒に考えていたらしい。
『俺が福岡へ帰る前に面白い話をしてあげよう。』
―時は純さんの家で、パソコンを開いてデータを開いて試行錯誤しながら論文を書き進めていたらしい。
『この間、あの子が俺の家に来てね』
―準備もろもろも含めて、論文作成は時間を要するので、泊まりになることもあった。
『中に出していいよって言うから、生でヤリまくっちゃった。』
おわり
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