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サビカス 5つの質問を使ったキャリア構築インタビューの実施方法

この記事では、マーク・サビカス博士のキャリア構築理論に登場する「ライフテーマ」を発掘するためのインタビュー(キャリア構築インタビュー)の方法について解説します。

はじめに

キャリアコンサルタントの学習をしたことがある方でしたら、一度はマーク・サビカス博士という名前を聞いたことがあることでしょう。

21世紀を代表するキャリア理論家と言っても過言ではないほどのカウンセリング心理学者、キャリア研究の大家です。

そんなサビカス博士の理論の中でも有名なものに「5つの質問」を使ったキャリア構築インタビューがあります。

あらかじめ決まっている5つの質問を順にしていくだけで、相談者がどんな人生を歩みたいのか、人生の目的(テーマ)が分かってしまい、それに基づいた人生設計ができるという、魔法のようなインタビューなのですが、5つの質問の具体的な使い方については、あまり知られていないように思います。

そこで、今回の記事では、実際に私が行っているカウンセリングの経験や、サビカス本人の書籍から学んだことをもとに、5つの質問の意図や使い方について、できるだけわかりやすく解説していきたいと思います!

カウンセリング導入

どのようなアプローチのカウンセリングを行うにしても、導入部分は重要です。守秘義務の説明や、カウンセリングの流れを説明するパートですが、サビカスの「5つの質問」を使ったカウンセリングを行う場合、これから行われることの意義を特に丁寧に説明するようにしています。

私はいつも、次のような話を導入でしています。

人生の主人公として、自分らしい選択をするためには、主人公であるあなた自身のストーリーを理解することが大切です。そのために、これから5つの質問を使ったインタビューを行います。この流れで進めていってもいいでしょうか。

実際にはもっと詳しく説明していますが、この確認を行ってから、カウンセリングを進めます。

サビカスの質問は必ず5つセットで使う必要はなく、通常のカウンセリングや、雑談の中で、1つの質問だけ単体で使うこともできます。

1つの質問を使うだけであれば、このような導入は必要ないかもしれませんが、1時間~1.5時間のカウンセリングの中で、ガッツリとサビカスのインタビューを行う場合には、通常の「悩みをなんでも話してください」というカウンセリングとは少し異なるため、このカウンセリングの方法と意義を丁寧に説明します。

5つの質問の全体像

それぞれの質問を個別に見る前に、5つの質問の全体像について、理解しておきましょう。下の画像が、全体像を示したものになります。

5つの質問は、それぞれ全く異なる質問のように思えるかもしれませんが、それぞれの質問の間には、つながりがあります。質問から得られたヒントを組み合わせることで、相談者の人生の全体像が、次第に明らかになっていきます。

①~⑤は質問の順番を表しています。そして、その次に書いてある単語は、質問によって明らかになる項目を示しています。例えば「①主人公」というところでは、1つ目の質問をすることによって、相談者の人生ストーリーの主人公の姿が明らかになる、といった具合です。

①まず、相談者の人生ストーリーの主人公はどんな人物か?
②次に、主人公はどんなステージに立っていたいか(身を置きたい環境)
③そして、主人公がいま抱える課題を乗り越えるための人生ストーリーは?
④困難な状況を前に進めるために役立つアドバイスは?
⑤さいごに、主人公が最終的に目指し続けている人生のテーマは?

こういった項目が、5つの質問から明らかになります。

この記事を最後まで読んでから、あらためて全体像を見てもらったほうが、しっくりくるかもしれません。

質問1:ロールモデル

最初の質問で、私はこのように問いかけます。

少し昔のことを思い出してもらいます。6歳前後のころ、憧れていた人物やキャラクターについて、教えてください。実在する人物でもいいですし、なにかの登場人物・キャラクターでも構いません。

この質問の意図は、相談者が幼いころに無数の選択肢の中から選び取ったロールモデルを知ることです。

ロールモデルとは「役割モデル」のことで、相談者自身が自らの「ありたい姿」を投影している存在です。

思い出せる限り、できるだけ早い年齢で、相談者はどのような人物を、理想像として自分自身の中に取り入れたのかを知ることが重要です。

理想的な数としては、3人の人物に対して、3つずつ、どんなところが好きだったか聞けるといいでしょう。ただし、両親はロールモデルとしてカウントできません。なぜなら、両親は自ら選ぶことができないからです。

ロールモデルの性格的特徴は、そのまま、相談者自身の性格、またはありたい姿に直結しています。

例えば、幼いころに好きだったキャラクターは「ドラえもん」で、好きなところは「夢がある」「希望を与えてくれる」「人を助けてくれる」の3つだったとしましょう。この場合、相談者自身も、夢があり、人々に希望を与え、人を助けられる人物になりたいと思い、実際そうなっている場合が多いです。

カウンセラーがいきなり「あなたはどんな人ですか」「どんな人になりたいですか」という自己概念に関する質問をしても、相談者はまず答えることができないでしょう。

しかし、この質問で憧れの人物を語ることを通して、相談者は間接的に自分自身のことや、ありたい自分を語ることになるのです。

質問2:雑誌、テレビ、ウェブサイト

2つ目の質問は、好きな雑誌・テレビ・ウェブサイトなどに関する質問です。私は次のように問いかけます。

では、次の質問に移ります。あなたの、よく見るテレビ、雑誌などについて教えてください。テレビや雑誌を見ない場合は、SNSでも構いません。よく見るインスタグラム、TikTok、YouTubeなど、ふだんどんな情報に接することが多いですか。

この質問を通して、相談者の興味関心、今後身を置きたい環境(職業分野など)について理解することができます。人生のストーリーを展開する場所、人生のステージを描くための質問とも言えるでしょう。

この質問は、ホランドの職業興味検査の代替として行うことができます。例えば、ビジネス系の雑誌をよく読む相談者であれば、興味はE領域、アートやデザインの雑誌を良く読むのであれば、興味はA領域、といった具合です。

こちらも、3つくらいの雑誌を挙げてもらい、それぞれどんなところが好きか、どんな記事に興味を持つか、詳しく聞いていくといいでしょう。

質問3:好きなストーリー

3つ目の質問は、好きなストーリーについてです。次のように問いかけます。

次の質問は、好きなストーリーについてです。あなたの好きなストーリーはなんですか。ストーリーというのは、本や小説のストーリーでもいいですし、ドラマ、マンガ、映画でも構いません。あなたの、好きなストーリーについて、聞かせてください。

この質問では、相談者が人生上抱える問題を解決するためのストーリーを明らかにします。サビカスはこれを人生の「台本」と呼んでいます。

ストーリーというのは通常、なんらかの問題が発生して、それを乗り越える形で展開されます。

例えば、桃太郎の場合、鬼が悪さをするという問題が発生します。その問題を解決するために、桃太郎は、仲間を集めるという解決策を使い、物語を前に進めます。

カウンセラーは、相談者の好きな物語を聞くことで、その物語の主人公がどんな解決策を使って物語を進めているかに注目します。そうすることによって、相談者が現在抱える問題を解決に導く人生ストーリーが浮かび上がります。

例えば、好きな物語はドリームワークスのアニメーション作品『カンフーパンダ』で、好きなところは、「修行をして技を身に着けていくところ」だったとしましょう。この相談者は、新しい技術を身に着けることによって、人生上の課題を解決しようとしていると考えられます。

質問4:好みの名言・格言

4つ目の質問は、好きな名言、格言、モットーに関する質問です。次のように問いかけます。

では、次の質問です。好きな名言、格言、モットーのようなものがあれば、教えてください。

もし、思い当たるものがない場合は、自分で創作してもらって構いません。例えば、「やりたいことは全部やる!」といったような、今の自分にとって、こういう言葉が必要だ、こういう言葉に惹かれる、という格言を作ってもらいましょう。

好きな名言は、問題の渦中にある相談者にとって、最も効果的なアドバスになります。現状を一歩前に進めるための、自分自身へのアドバイスです。

カウンセラーが相談者に色々とアドバイスをすることもできますが、それはカウンセラーの言葉です。この質問で聞くアドバイスは、相談者自身から出現したアドバイスです。

サビカスのカウンセリングにおいて、カウンセラーは相談者自身の言葉を使って、相談者を勇気づけ、送り出します。

質問5:幼少期の思い出

最後の質問では、次のように問いかけています。

それでは、最後の質問です。幼少期の記憶、できれば、覚えている中で最も古い記憶について、聞かせてください。3歳前後、幼稚園に入る前後くらいのものでしょうか。できれば、「よくこんなことをしていた」という曖昧な記憶ではなく、エピソードとして、深く記憶に残っていることで。覚えていることは、ありますか。

この質問は、サビカスのカウンセリングの深淵とも言える、幼少期から現在まで一貫して続く、相談者の人生のテーマを明らかにするための質問です。

心理的に深い洞察に行きつくこともあるため、トラウマを抱えている相談者や、経験が浅く自信がないカウンセラーなどは、扱うことを控えたほうが良い質問とも言われています。取り扱いには注意してください。

この質問も、できれば3つエピソードを思い出してもらい、それぞれの記憶に対して、その時の状況や、感じた気持ちを丁寧に聞いていくといいでしょう。

特に注目すべきは「○○できなかった」というような、ネガティブな記憶です。

この質問はアドラーやフロイトの心理学と密接にかかわる質問なのですが、これらの心理学には、「人は人生の早期にへこんだ穴を埋めるようにして人生を構築する」という考えが含まれています。

サビカスの理論では、人生を「追求」として捉えることが、重視されています。追求されるものはテーマ(ライフテーマ)で、その発端となるものが、幼少期の「○○できなかった」という記憶なのです。

例を挙げてみましょう。

例えば、幼少期の記憶として「幼稚園の劇で主役になりたかったけれど、なれなかった」という記憶を語った相談者がいたとします。この相談者は、人生のテーマとして「主役になる」「主役として活躍する」といったことを追求して人生を歩んでいる可能性が高いでしょう。

この質問は自己分析にも活用できます。自己分析ではよく、幼少期の原体験を思い出すことが重要と言われますが、原体験を思い出しても、本当に今の自分とつながっているのか、ぼんやりとしたことはありませんか。

その理由は、思い出した記憶が、ネガティブな経験と、その反動で生まれる「追求」のストーリーになっていないからです。

追求のストーリーを作ることができると、人生の最も古い記憶と、現在の自分がつながります。簡単には揺らぐことのない、確固たる人生の目的・テーマが発見できます。

5つの質問をつなげる

質問がすべて終わったら、5つの質問で浮かび上がってきた相談者の断片的な人生ストーリーを結合させて、1つのストーリーを作ります。

サビカスの本格的なカウンセリングでは、次回の面談までに、カウンセラーが相談者の人生ストーリーをひとつの物語として文章化して、相談者に提示をした上で、物語の再編集を行います。

慣れてくれば、質問がすべて終わった後に、メモを元に頭の中で相談者の人生ストーリーを組み立てて、口頭でお伝えすることも可能です。

ストーリーの組み方を詳しく解説すると長くなってしまうのですが、簡単に解説すると、次のようなストーリーが出来上がります。

あなたは、幼少期に(質問5)のような経験をしたことで、人生のテーマとして(質問5)のようなことを追求するようになったのですね。(質問5)を追求しているうちに、あなたは(質問1)のような人物になっていきました。そんなあなたは、(質問2)のような場所に、これから行きたいと思っているのではないですか。しかし、それができなくて問題を抱えている。その問題を解決するためのストーリーは(質問3)のようなストーリーです。さあ、(質問4)を大切にして、一歩を踏み出してみましょう。

ちょっと分かりにくいですね。これまでに挙げてきた具体例をあてはめて文章を作ってみましょう。

あなたは、幼少期に(主役になれなかった)経験をしたことで、人生のテーマとして(主役として活躍すること)を追求するようになったのですね。(主役としての人生)を追求しているうちに、あなたは(夢や希望を持ち、それを使って人を助ける)ような人物になっていきました。そんなあなたは、(ビジネスやアートを得意とする人が多くいる)場所に、これから行きたいと思っているのではないですか。しかし、それができなくて問題を抱えている。その問題を解決するためのストーリーは(修行して新しい技術を身に着ける)のようなストーリーです。さあ、(やりたいことは全部やる!)を大切にして、一歩を踏み出してみましょう。

さいごに

私は学生時代から、サビカスの理論を多くの人に知ってもらいたいと思ってきましたが、きちんと解説するとなかなかの分量になってしまうため、手を付けられずにいました。

今回、思い立ったが吉日と思い、記事を書き上げることができて良かったです。

とは言っても、この記事だけで、サビカス理論を深く理解するには限界があります。理論の概要や、質問のテンプレートを学びたい方は「サビカス ライフデザイン・カウンセリング・マニュアル」を。質問の意図や理論の内容をしっかりと学びたい方は「サビカス キャリア・カウンセリング理論」を読むことをおすすめします。



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