私がマーク・サビカスの「キャリア構築理論」を激推しする理由
私は、数多くいるキャリアの理論家の中でも、特にマーク・サビカスの理論に惚れ込んでいます。
なぜ私がそれほどまでにサビカスの理論をオススメするのかについて、ここで解説していこうと思います。
※他の理論家との比較をしたい方は以前書いた記事をご覧ください。
1 クリエイティブである
私がオススメする理由はいくつかあるのですが、まず1つ目は、クリエイティブであるという点です。
キャリア理論は、「適性診断」の時代から「キャリア教育」の時代を経て「物語構築」という流れで進化をしてきました。その中で「物語構築」に焦点を当てた近年のキャリア論はどれも主観的でクリエイティブな側面を重視する傾向にあります。
なかでも、サビカスのキャリア構築理論はずば抜けて文学的・物語的側面が強いと感じています。サビカスは5つの質問を通して人生の物語を構築するアプローチで有名ですが、その質問の一つ一つに、物語を構成するためのヒントが詰め込まれています。これはまた別の機会で解説したいと思います
2 自己分析の方法を詳しく論じている
2つ目はほかの理論と比べてもかなり強い部分であると思います。
私が大学に入ってから抱いている関心事として「本当にやりたいことはどうしたら見つかるのか」「変化の激しい時代に、私たちは何を拠り所にして生きていけばよいのか」というものがあります。サビカスの理論は、この関心事について一つの答えを提供してくれました。
これらの疑問は、一般的に「自分探し」と言われているものです。「自己分析」とも言われています。しかし、自己分析は何をすればいいのか。何を理解すればいいのか。どうしたら堂々巡りから抜け出せるのかという部分について、明確な答えを与えてくれる人はいないでしょう。
サビカスの理論は、こうした誰もが抱えるであろう悩みに対して、カウンセリングの実証的視点から答えを与えてくれます。これはすごいことです。その辺にいる「なんちゃって自己分析マスター」とは訳が違うのです。なぜなら、キャリア構築理論はキャリアカウンセリング100年の歴史と研究が詰まった自己理解方法だからです。
サビカスの理論がどれほど自己理解を重要視しているかという点については、代表的な訳書(Savickas 2015)の第二章のタイトルが「自己とアイデンティティの構成」であることからも分かります。この本はアイデンティティについての抽象的な概念の説明に終始するものではなく、具体的に自己を構成するには何を問い、どう組み合わせればいいのかということを丁寧に解説してくれています。少し難しい部分もありますが、素晴らしい本です。
3 最もベースとなる理論の応用版である
キャリア論に少しでも触れたことがある人は、ドナルド・スーパーの存在をご存じでしょう。キャリア論の大家と言える人物です。職業カウンセリングがキャリアカウンセリングという言葉に置き換わった背景にもスーパーの存在があります。キャリア心理学に与えた影響は絶大です。
私はスーパーがキャリア論の土台を作り、その余白となる部分を後の心理学者たちが埋めていったと言っても過言ではないと思っています。それだけ、スーパーの理論はキャリア論で主要な考え方が盛り込まれているのです。しかし、問題点は彼の理論をどう実践したらいいのか分かりにくい点です。
例えば「仕事を通して自己概念を実現することが大事である」とか「役割の統合が重要である」とか言われても、それ、具体的にどうやってやるの?という疑問が尽きません。
そこで、スーパーの基本的な考え方を引き継いで、より実践的な理論に集大成させたのがサビカスです。サビカスのキャリア構築理論は、キャリア論の基本を押さえながら実践的でもあるのです。
4 変化の激しい21世紀のニーズに答える
サビカスが自らの理論について著述するときは、いつもライフコースが個別化した21世紀の時代背景に対応するキャリア支援が求められているというお話から入ります。
変化の激しい時代に生きる個人は、会社の提供する大きな物語に従って人生を設計することが意味をなさなくなりました。その代わりに、ひとりひとりが個別に自らの人生をデザインすることが求められています。
このような時代のニーズに答える形で生まれたのがキャリア構築理論だと言えるでしょう。そのため現代の人々が抱える課題について大変効果的な解決策になりえると考えています。
5 構造化されている
これは主にカウンセラーのメリットなのですが、キャリア構築理論では構造化されて5つの質問を用いてカウンセリングを行います。これは大変大きなことで、これまで熟練者の勘や経験に頼って行われてきたカウンセリングのハードルを下げ、再現性の高いものにすることに寄与していると言えるでしょう。
実際、私も大学生で実務経験がないところからカウンセリングの練習を始めていったわけですが、キャリア構築理論のような分かりやすい構造化された質問がなかったら、かなり心もとない実践活動になっていたことでしょう。向き不向きはあるのでしょうが、初心者に扱いやすい理論だと感じています。
それぞれの質問で何を聞き取るのかが明確で、ナラティブ・パラダイムという聞き取り戦略があるという点もカウンセラーにとっては大きな力になります。
6 一方でデメリットもある
ここまで様々にサビカスの理論を褒めちぎってきましたが、実践する上でのデメリットは何でしょうか。真っ先に思いつくのは、既存の相談場面で実践がしにくいという点です。既存の相談現場というのは、大学のキャリアセンターや人材紹介企業のような場所です。このような、すでにカウンセラーが活動を行っている場所では、新しい理論としてキャリア構築理論を取り入れることは難しく、頑張っても部分をつぎはぎするような使い方になってしまうのではないでしょうか。少なくとも、既存の相談場面では純粋なキャリア構成カウンセラーの活躍できる場所はないでしょう。
キャリア構築理論に詳しい元金城大学教授の宗方先生は、以前講座で「サビカスの理論は、既存の場で行うのではなく、志あるカウンセラーが発信して実践の場を作っていくことが重要」といった趣旨のことをおっしゃいました。私も含め、この理論に可能性を感じる者たちでキャリア支援の新しい形での実践を広めていくことができたらいいなと考えています。
おわりに
サビカスの本を読んでいたら、どうしてもその良さを自分の言葉で伝えたいという思いが出てきてしまい、猛烈なスピードでこの文書を書き上げてしまいました。
そのため至らない点や伝えきれないことがたくさんあると思いますが、それは、また追い追い、書きたい!と思ったときに共有していこうと思います。末永くよろしくお願いいたします。
<参考文献・おすすめ書籍>