日本では話題にすら上がらない、アメリカ最先端の万華鏡キャリア理論
1.はじめに
先週、ウェルビーイング関係の集まりで、キャリアの話をしていたところ、ある方から「キャリアはさまざまな側面があってルービックキューブみたいね」という話が出ました。
これを聞いて、僕は以前ゼミで呼んだある論文を思い出したのです。それは「万華鏡キャリア」(カレイドスコープキャリア/kaleidoscope career)という新しいキャリアの概念でした。ほとんどのキャリア論はアメリカで生まれ、少し時間をおいて日本に入ってきます。その中でもこの万華鏡キャリアという視点は最先端のもので、日本で出版されるキャリア論の書籍ではまったく言及されていません。ですので、少しは需要があるかもしれないと思いこうして文章にしてみました。キャリアに関する新しい知見を学びたいと思う方は、ぜひお読みください。
2.カレイドスコープキャリアの概要
最初にカレイドスコープキャリアと出会ったのは、ゼミでCareer and Career Development (Mulhall, 2014)という文章を読んでいるときです。その文章の中には、次のような説明がありました。
万華鏡キャリアモデルは、万華鏡の比喩を用いて、個人が意思決定を行う際に3つのキャリアパラメータに焦点を当て、それによって継続的に変化するキャリアのパターンを反映させることを説明しています。
では、その3つのパラメータとは何なのでしょうか。
これらのパラメータは、自分自身に忠実であることを意味する「オーセンティシティ」、仕事と仕事以外の要求のバランスを意味する「バランス」、刺激的な仕事やキャリアアップを意味する「チャレンジ」である。
さらに、このキャリア理論の位置づけについては、以下のように書かれています。
この表現は、プロティアン・キャリアやバウンダリーレス・キャリアの延長線上にある概念ではなく、キャリアを検討するためのオルタナティブなレンズを提供することを目的としています。
つまり、カレイドスコープキャリアはこれまでのキャリア論では説明できなかったことを説明できる、全く新しいキャリア概念であると考えていいでしょう。
3.カレイドスコープキャリアから得られる示唆と実例
最初にカレイドスコープキャリアの論文を読んで、ゼミ内での関心が高かったので、その次のゼミではタイトルにカレイドスコープキャリアが入った論文 (Kirk, 2016)を読むことになりました。
この論文では、万華鏡のイメージについて具体的に書かれています。
万華鏡のメタファーは、万華鏡のガラスチップが回転して新しいパターンを形成するように、個人が仕事と仕事以外の生活のさまざまな側面を回転させて、人間関係や役割を新たな方法でアレンジすることで、キャリアのパターンを変化させる様子を反映しています。
では、万華鏡の比喩から人生に対してどのような示唆が得られるのかというと、
個人はライフスパンの中で、様々なニーズや制約に対応するためにキャリアパターンを常に調整しており、ライフステージに応じて異なるパラメータの強さが変化していることが示唆されています。
ということです。例えば論文には子供を持つ母親の例が載っていました。その母親は、子供が自立するまでの間は仕事と家庭の「バランス」が大事な要素であり、子供が独立したら、海外勤務などの「チャレンジ」の要素を取り入れるようにするということです。
3つの関係性についてですが、僕は「バランス」が最も鍵になる概念ではないかと思いました。「チャレンジ」をするには一時「自分らしさ」を犠牲にしなければならないかもしれません。その「バランス」を調整するのがカレイドスコープキャリアとは考えられないでしょうか。
充実したキャリアを送るためには、仕事とプライベートの両方で、自分らしさ、バランス、チャレンジの「ベスト・フィット」を達成することが重要と考えられます。
引用文献
Kirk, S. (2016). Career capital in global Kaleidoscope Careers: The role of HRM. The International Journal of Human Resource Management, 27, 681–697.
Mulhall, S. (2014). Career and Career Development. In Harney, B. and Monks: Strategic HRM: Irish Research and Practice Edition: First Chapter: Career and Career Development. Blackhall Publishing Editors:
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