セカンドハーフ通信 第52話 ユッカとの長い付き合い
ユッカとの長い付き合い
30年近く前、近所の花屋から20センチくらいの丈の白いプラスティック鉢にはいったユッカを買ってきた。ユッカは短く切られた太い幹から枝をのばし、すっと細長い葉を何枚も伸ばしていた。そのころ、私は3年間の海外赴任から帰国し、電機機器メーカーの研修部に所属していた。
それから4〜5年がたったころだろうか、ユッカははぐんぐんと育ち、いつの間にか1メートル近くにまでなった。そんなある日、誤ってユッカの大きな枝をぽきっと折ってしまった。ユッカは短く太い幹を10センチほど残して棒のようになってしまった。私は研修部を離れ、いくつかの部門を経て、子会社の経営企画部門にいた。
仕事に忙殺され、しばらくユッカのことをそのままにしていたところ、太い幹の一番下、ほぼ土と接するところから小さな芽が出てきた。もうこの木はだめになってしまったと、わたしは半ばあきらめていたが、ユッカの方は、どっこい俺は生きているぜといわんばかりに復活の芽を出してきた。そしてその芽はあれよという間に20センチくらいに伸びて、再び、初めて会った時と同じく20センチくらいに復活した。私は結婚し、新しい事業の立ち上げ会社に参加していた。
その後もユッカはどんどん伸びていった。10年が過ぎ、気がつくと1メートルくらいになった。元々あった幹は既に枯れてしまい、そこから生えた枝が幹に変わって大黒柱になった。私は長く勤めた電機機器メーカーを辞めて外資企業に転職していた。
出会いから20年を過ぎた頃からユッカはゆっくりと成長するようになった。既に背丈は150センチくらいまで伸び、堂々と立派になった。20センチで買ったかわいいユッカの姿はもはや想像できない。私も外資企業での勤続が5年を過ぎ、充実した生活を送っていた。
今年になってユッカの鉢を変えた。だいぶ大きくなっていたのに、鉢は10年以上同じもので随分窮屈そうにしていた。体の大きさにふさわしい素焼きの立派な鉢に植え替えると、全体のバランスもとれ、堂々たる姿になった。私は会社を辞めてセカンドハーフの生活を始めた。
ユッカとの暮らしはこれからも続く。我々は長年苦楽を共にしてきた同志だ。東京から軽井沢に連れて行くつもりだが、冬の寒さをどうしのいでいくか相談しなくてはいけない。