セカンドハーフ通信 第46話 病院での講義

病院での講義

熱海でお付き合いしていた元大学教授のE先生に会いにいった。楽しみにしていた再会であったが、先生は体調を壊されて病院での面会になった。先生は自宅で吐血されたという。我々が熱海に到着した頃には緊急の検査がおこなわれる直前だった。

お会いした時はしっかりした様子で一安心だったが、その後、検査のために軽い麻酔をおこなったためか意識朦朧となっていた。次にお顔を拝見した時には、検査で移動するためストレッチャーの上であった。奥さんと我々はそばから様子を見守るという状況になった。

先生は、運ばれるストレッチャーの上で両手を広げ講義を始めた。なにを言っているかわからないが、黒板に文字を書き、その説明をするそぶりを延々と続けている。それは頭が朦朧としている中で無意識に行われている行動だった。

昔の仕事を、身体と心はいつまで覚えているものなのだろう。それが突然、心の奥の方から蘇ってくる。記憶は単なる記憶では終わらない。

私がこのような状況になったら朦朧とする意識の中でどんなことを思い出すのだろう。


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