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透析患者の消化器系悪性腫瘍について
とても勉強になった論文の紹介です!
本記事では一部を紹介しますが、
ぜひ以下の論文を見ていただけますと幸いです!!
https://jsn.or.jp/journal/document/59_5/610-614.pdf
それでは論文の一部を抜粋します!
透析患者の悪性腫瘍について
透析患者の悪性腫瘍が一 般人口と比較して多いかどうかは標準化罹患比(standardized incidence ratio:SIR)で評価
standardized incidence ratio:SIR
人口構成の違いを除去して罹患率を比較するための指標
ある集団の罹患率が、基準となる集団と比べて
どのくらい高いかを示す比と理解することができます
日本は海外に比べ消化器系悪性腫瘍の頻度が高い?
わが国の透析患者 には消化器系悪性腫瘍の頻度が高いとされるが
831,804 例 の透析患者を平均 2.5 年追跡調査した
Maisonneuve らの報告によると
消化器系悪性腫瘍の SIR は
欧州が 0.9,
米国, 豪州が 1.2
とそれほど高くなかった
Maisonneuve P, Agodoa L, Gellert R, Stewart JH, Buccianti G, Lowenfels AB, Wolfe RA, Jones E, Disney AP, Briggs D, McCredie M, Boyle P. Cancer in patients on dialysis for endstage renal disease:an international collaborative study. Lancet 1999;354:93̶99.
わが国では海津らの報告によれば
肝臓癌が最も SIR が高く(男性 5.8,女性 4.7)
次いで大腸癌(男性 4.7,女性 3.8)
胃癌(男性 2.5,女性 2.4)であった
海津嘉蔵. 維持透析患者における消化管悪性腫瘍の疫学.
臨床透析 2006;22:1123̶1129.
上・下部消化管内視鏡が代表的なスクリーニング検査
日本の透析患者では消化器系の悪性腫瘍の頻度が高く
胃癌や 大腸癌の早期発見のためには便潜血検査や
上・下部消化管内視鏡が代表的なスクリーニング検査となる
上部消化管内視鏡
上部消化管内視鏡は
現在ではそれほど患者に負担をかけることなく
施行できる点で年 1 回程度の施行が望ましいと思われる
下部消化管内視鏡
一 方、大腸癌のスクリーニング検査として下部消化管内視鏡
は有用であるが、患者に対する負担が大きいことが問題となる
したがって、便潜血検査が陽性の場合には下部消化管内視鏡
を施行することが推奨される
便潜血検査は侵襲 がなく容易に施行できるため,スクリーニング検査として は少なくとも年 1 ~ 2 回の施行が望ましい
透析患者にお いては,便潜血検査は腸管粘膜の炎症に起因する粘膜から の出血,抗凝固薬の使用,尿毒症による血小板機能の低下 などから偽陽性となりやすいことを考慮する必要がある。
しかし,透析患者の大腸癌に対するスクリーニング検査は
予後改善にはつながらないとの報告もある。
Chertow GM, Paltiel AD, Owen WF Jr, Lazarus JM. Cost-effectiveness of cancer screening in end-stage renal disease. Arch Intern Med 1996:156:1345̶1350.
また,アメ リカ腎臓学会では 2012 年に,平均余命が 5 年未満の透析患 者に対する癌のスクリーニング検査は生存率改善にはつながらず
Terret C, Castel-Kremer E, Albrand G, Droz JP. Effects of comorbidity on screening and early diagnosis of cancer in elderly people. Lancet Oncol 2009;10:80̶87.
費用対効果は高くないことから,「平均余命が少ない透析患者で症状がないようであれば,悪性腫瘍に対す る定期のスクリーニング検査は行わない」ことを推奨している。
Williams AW, Dwyer AC, Eddy AA, Fink JC, Jaber BL, Linas SL, Michael B, O’Hare AM, Schaefer HM, Trachtman H, Weiner DE, Falk AR;American Society of Nephrology Quality, and Patient Safety Task Force. Critical and honest conversations: The evidence behind the “Choosing Wisely” campaign recommendations by the American Society of Nephrology. Clin J Am Soc Nephrol 2012;17:1664̶1672.
しかしながら,わが国の透析患者は米国に比べて 生命予後は圧倒的に良く,Pisoni RL, Bragg-Gresham JL, Young EW, Akizawa T, Asano Y, Locatelli F, Bommer J, Cruz JM, Kerr PG, Mendelssohn DC, Held PJ, Port FK. Anemia management and outcomes from 12 countries in the Dialysis Outcomes and Practice Patterns Study (DOPPS). Am J Kidney Dis 2004;44:94̶111.
悪性腫瘍に対する定期のスク リーニング検査は有効ではないだろうか
と論文では記載されている
腫瘍マーカーも悪性腫瘍のスクリーニング検査として広く用いられている
しかしながら,透析患者では腫瘍マーカーは
腎機能正常者と異なり高値を呈する症例もあり
判定には注意が必要である。
健常者の基準値を用いて問題ないのは
AFP(α-fetoprotein)
CA125,PSA(prostate specific antigen)
などである
CEA(carcinoembryonic antigen)
CA 19-9,SCC(squamous cell carcinoma)
NSE(neuron specific enolase)
などは 高値を呈することが多く
透析患者の新たな基準値が必要となる
腫瘍マーカーとは
腫瘍マーカーとは、がんの種類によって
特徴的に作られるタンパク質などの物質です
がん細胞やがん細胞に反応した細胞によって作られます
がんの有無やがんがある場所は、腫瘍マーカーの値だけでは
確定できないため、画像検査など、その他の検査の結果も合わせて
医師が総合的に判断します
「腫瘍」は、体内の細胞の一部が突然変異して増殖し
しこりのようになった状態
良性と悪性(ガン)があります
体内に腫瘍ができると
がんの種類によっては健康な時にはほとんど見られない
特殊な物質が作られ血液中に出現してくることがあります
この血液中に出現してきた物質を「腫瘍マーカー」といいます
この腫瘍マーカーのチェックをする検査が「腫瘍マーカー検査」
この検査は採血検査で行われ
主にがんの進行度や治療効果の判定に用いられています
腫瘍マーカーの値
良性の疾患や加齢、感染症、薬物の喫煙などの影響で高くなることもあり
逆にがんであっても腫瘍マーカーの値が高くならない場合もあります
検査の数値が高いからといってがんが確実に存在するわけではなく
反対に検査の数値が低いからといって
完全にがんを否定できるものではありません
また、腫瘍マーカー値自体の動きも
正確にがんの動きを反映しているわけではありません
例えば、値が5上昇したからと言って、
5だけがんが進行したわけではありません
したがって、
腫瘍マーカー値の上下のみでがんの存在を判断できる
ものではないと言えるでしょう
腫瘍マーカーの値はあくまでガンかどうかの可能性を判定する目安のひとつ
腫瘍マーカーの研究も魅力的
肝がん発症の危険、転移の危険に関わる
血液成分(血液マーカー)の同定に成功
今回の研究成果から、血液中の微量LG2mの存在は肝臓ががん化する過程、遠隔転移を起こす過程において生じる何らかの異常を反映している可能性が示唆される
今回の知見からは将来的にC型慢性肝炎患者における肝がん発症の予測因子や、肝がん患者における遠隔転移の予測因子として血液中のLG2m測定が活用されることが期待
Serum Laminin γ2 Monomer as a Diagnostic and Predictive Biomarker for Hepatocellular Carcinoma. Taro Yamashita, Naohiko Koshikawa, Tetsuro Shimakami etc,Hepatology First published: 20 February 2021
↓論文情報
https://aasldpubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/hep.31758
今後見えてくる情報
今回は透析患者の悪性腫瘍について
自分の中でまとめました
基本的なことはわかったので
腫瘍マーカーを利用することで
透析と内視鏡領域のつながり
マイナンバーカードの健康保険証利用やお薬手帳の電子化(電子処方箋)
電子カルテ 透析関連データベースシステムの導入により
透析患者様の内視鏡スクリーニング関係の
腫瘍マーカーの適切な判断基準等の論文が
できることを切望します
透析患者においては,便潜血検査は腸管粘膜の炎症に起因する粘膜からの出血,抗凝固薬の使用,尿毒症による血小板機能の低下などから偽陽性となりやすいことを考慮する必要があったり
透析患者の大腸癌に対するスクリーニング検査は
予後改善にはつながらないとの報告もあります
そのような問題にこそ IT と 臨床の知識が必須だと思います
腫瘍マーカーやその他の大量のデータから
背景因子の似た患者を集め
適切なタイミングを出せる仕組みを
皆様と一緒に作れるかもしれません
それには多くの業界の方の理解が重要だと思います