2023-24グランドスラム第4戦「カナディアン・オープン」の私的見どころ
カーリング界の最高峰を決める大会グランドスラムの第4戦「カナディアン・オープン」が、2024年1月16日から21日にカナダ・アルバータ州レッドディアで行われます。日本のカーリングファンにとっては、昨年🇯🇵ロコ・ソラーレが念願のグランドスラム初優勝を遂げた大会でもあり、記憶に新しいところでもあります(あれからもう1年か、という気もします)。前回のグランドスラムである「マスターズ」でも書いてみたので、今大会でもどこに注目して観戦したいと思っているか、書いてみたいと思います。
(写真は御代田で🇺🇸ストラウスの選手たち+🇺🇸C.プライス選手にサインをもらったチーム🇺🇸ストラウスグッズのキャップ。あの選手たちもグランドスラムに出ていると思うと、また見え方も変わります…。)
男女それぞれの予選組み合わせ
まずは、女子から今回の組み合わせを見ていきたいと思います。
女子予選組み合わせ
女子の組み合わせはこのような感じです。2つの表に分けて書いてありますが、全体の上位8チームがプレーオフに進出します。対戦相手の決め方は今大会から変わり、上位vs下位の対決が増えています(詳しい考察は後ほど)。配信カードはこのページによると、19日の🇨🇦ホーマンvs🇸🇪ヴラノー、20日の🇨🇦エイナーソンvs🇨🇦ジョーンズは決まっており、もう1試合は成績次第ですが、🇸🇪ハッセルボリvs🇨🇦ローズになりそうだと予想します。
男子予選組み合わせ
男子の組み合わせはこのような感じです。16チーム中8チームが予選通過するのは、女子と同じです。配信カードはこのページによると、19日の🏴モウアットvs🇺🇸ドロプキンと🇨🇦ボッチャーvs🏴ホワイトが決定済みで、20日の配信は🇨🇭シュヴァラーvs🇨🇦グジューが有力ですが、プレーオフ争いに絡んでいた場合には🇨🇦カラザースvs🇨🇦マキューウェンになるかもしれません。マスターズに続き、カナダチームのいない配信カードが選ばれていて、少し試合選びの方針が変わったのかもしれませんが、🇯🇵ロコ・ソラーレの試合が見たい人には好都合でしょう。
日本選手権につながる戦いを🇯🇵ロコ・ソラーレは見せてくれるか
🇯🇵ロコ・ソラーレは、順に🇺🇸ピーターソン(17日10時半、すべて日本時間、執筆完了前に7-6で勝利)、🇨🇦スターメイ(18日8時)、🇨🇭ティリンツォーニ(19日0時半)、🇨🇦キャンベル(20日4時)と対戦します。🇮🇹コンスタンティーニが不慮の事態により直前で出場辞退したため、出場権判定週に地元アルバータ州ランキング最上位だった🇨🇦スターメイが代理出場することになりました。シンプルな見方をすれば、世界ランキング9位のチームになるはずだった対戦相手が24位のチームに変わったので、勝てる可能性は上がったと考えたくなるものですが、決してあなどれないチームです。
チーム🇨🇦スターメイのスキップは、兄カーステン同様にアルバータ大出身で2019年世界ジュニア🥈銀メダリストのS.スターメイ選手ですが、大学時代からのチームメイトであるリードのP.パプリー選手以外の2人は今季からの新しいメンバーです。とはいえ、新サードのD.シュミーマン選手は大学の1学年先輩なので、元々お互いよく知っていたでしょう。新セカンドのD.ホーズ選手は、昨年まではブリティッシュコロンビア州のチーム🇨🇦ブラウンのセカンドでしたが、パートナーであるT.タルディ選手がチーム🇨🇦クーイーのサードを務めるためにアルバータ州に転籍したため、1年遅れでアルバータ州に転籍してきた選手です。ほぼ同世代の4人で構成されるこのチームは、シーズン開始時のランキング39位から24位までランキングを上げ、今季のカナダ国内ランキングでは暫定5位につけています。10月から12月にかけても、SFM4.0以上の大会で優勝、準優勝(決勝の相手は🇨🇦ホーマン)、ベスト4と好成績を残しています。1つ気になるとすれば、移動疲れでしょうか。ヌナブト準州の出場辞退により、女子カナダ選手権のワイルドカードが1枠増え、最後のラストスパートとして急遽マニトバ州の大会に出場していたのですが、今度は急遽グランドスラムに出場できることになって、大会の決勝を棄権して、車で13時間かけてアルバータ州に戻って来ていました。
そして、移動疲れと言えば、🇯🇵ロコ・ソラーレがカナディアン・オープン後に帰国して日本選手権に出場することにも、周囲からは同じ懸念があります。元々チーム側も避けようとしていたことですが、当初予定していた🏴パース・マスターズ出場を取りやめて、🇨🇦カナディアン・オープンに出場することになりました。来季以降もグランドスラムに出場し続けるには若干ポイント状況が心もとないことも、この決断の一因だと見られますが、日本の他のチームが同じスケジュールで帰国することと比べれば、同じような行き来の経験も豊富ですし、大会があるのも日頃カナダでの拠点としているアルバータ州なので、十分対処できるという判断なのでしょう。グランドスラムで戦うことをシーズンのベースとして考えてきたチームにとっては、慣れないスコットランドよりもいつものペースを崩さないで済む環境なのかもしれません。
🇺🇸ピーターソン(第3戦マスターズ予選最終戦)と🇨🇦キャンベル(マスターズ直前のウエスタン・ショーダウン準決勝)には最近負けているので、決して勝ち星が(いつもに比べて)多いとは言えない今季の負けた思い出を払拭するように、きっちり勝って帰国して欲しいと思います。まぁ、予選で3勝すると、帰国時期が遅くなるのですが…わざわざ予選敗退するために極寒のアルバータ州になんて行かないですよね。
対戦相手の決め方の変更は、どんな影響を及ぼすのか?
個人的に今回一番気になっているのは、どこかのチームよりも、対戦相手の決め方が変わったことだったりします。これまでは、出場チーム選定時の世界ランキングに応じてシード順を決めた場合に、上位シードも下位シードも同じ組に入ったら、同じ相手と対戦していました。下の表の下半分のように、赤の組に入った4チームは、シード順に関係なく、青の組の4チームと対戦していました。この方式が変更され、同じ組に入っても、シード順によって対戦相手が変わるようになりました。下の表の上半分では、表の右上(シード上位vs下位)の試合が増えているのがわかると思います。
普通のトーナメントと同じだと思えば、第1シードが第16シードと対戦するのは当たり前の組み合わせで、新しい方法に問題があるとは思っていませんが、これまでの方式との差は大きく、少なからず結果に影響を与えると思っています。
グランドスラム・サイクルに予想される変化
これまでグランドスラムはよく“サイクル”だと表現されていました。「グランドスラムに出場する→獲得できるポイントが大きい→世界ランキングが上がる→次のグランドスラムの出場権も獲得できる」というサイクルが見られたからです。ただし、ここには但し書きがあります。“獲得できるポイントが大きい”のは、予選を通過した8チームの話で、予選を通過できないと、獲得できるのは10ポイントにも満たないからです。他の大会の予選敗退に比べれば大きいですが、グランドスラム出場レベルの世界ランキングを維持するには1大会あたり20ポイントぐらいは必要で、10ポイントでも足りません。その場合には、グランドスラム出場圏内を目指す下位のチームと同様に、一般の大会で好成績を残さなければいけなくなり、“サイクル”の恩恵を受けられなくなります。
今の世界ランキングはそれなりに力関係を表す精度が高いようで、下位シードで予選通過するのは、これまでも簡単ではありませんでした。各大会8チームずつ予選通過するにも関わらず、“今季下位シードから予選通過したチーム”を探しても、第1戦ツアー・チャレンジでの女子の🏴モリソンや🇮🇹コンスタンティーニ、第2戦ナショナルでの男子の🏴クレイク、第3戦マスターズでの男子の🇨🇦カラザースなど、数えるほどのチームしかありません。今季グランドスラムでは、🇯🇵SC軽井沢男子が最初の2戦には出場できたものの、2戦とも予選通過できず、その後出場権を得られなくなってしまったのは、まさにその出続ける難しさを表しています。
この出続ける難しさは、今回のシステム変更によって、さらに難しくなったと言えそうです。世界ランキング16位でグランドスラムに出場できたとしても、対戦する相手のうち、3チームは世界ランキング1位・4位・8位で、最低でもそのうちの1試合に勝たないと、タイブレークにも引っかかりません。予選を通過しないと、大したポイントがもらえないのは、前述の通りです。
この変更を前向きに捉えるとすれば、世界ランキング上位のチームと対戦するチャンスが増えるということでしょう。特にカナダの上位チームには、ほとんどグランドスラムにしか出場しないチームがあります。女子の🇨🇦エイナーソンや🇨🇦ホーマンは特に顕著で、今の世界ランキングには7大会分までポイントが算入できるのに、今季まだ6大会しか出ていません(それであのランキングを維持できるのがすごいのですが…)。
そういうチームが“グランドスラムの番人”として、下から上がってきたチームの前に立ちはだかり、それを超えた今までよりも少数精鋭なチームがサイクルの中にとどまるというのが、私の予想です。サイクルに残れるチームが少ない分、一般の大会で好成績を収めれば、サイクルに挑戦できるチームはきっと増えるのでしょう。私としては、日本にも挑戦権を得るチームが増えて欲しいのですけどね…。
予選通過チームを予想しながら、各チームの状況をまとめてみる
今回も無謀にも予選通過チームを予想してみたいと思います。本当に素直に選ぶと、シード上位8チームを選んで終わりになりそうなので、それぞれの表で最低1チームはそこから変えるという制約を課しました。
女子の予選通過予想
あえて外したのが🇨🇦エイナーソンと🇰🇷キム ウンジ。🇨🇦エイナーソンはカナダ選手権の前に調整を合わせて来たと感じさせるか、または、このタイミングで大きな不安を感じさせるか、どちらかな気がする。🇺🇸ピーターソンに対して苦手意識があるようなら、タイブレーク経由で敗退しても驚かない。🇰🇷キム ウンジは、🇮🇹コルティナ・カップで思ったより苦戦していて、カナダのアイスに再び感覚を戻す前に🇺🇸ストラウス相手に星を落としたりすると、🇸🇪ハッセルボリや🇨🇦ローズにも負けて敗退する可能性はありそう。(まぁ、🇨🇦エイナーソンも🇰🇷キム ウンジは執筆終了前に初戦勝ったけどさ…変な制約をもうけてしまったなぁ…)
代わりに入れたのが、🇺🇸ピーターソンと🇰🇷キム ウンジョン。マスターズでも予選通過した🇺🇸ピーターソンは、日本選手権と同じ週に全米選手権を控えているが、🇺🇸ストラウスがグランドスラムにも出るようになって、それを良い刺激に感じて欲しい。🇰🇷キム ウンジョンは、軽井沢国際の時の良いイメージに私が影響されているとは思うけど、前回も🇨🇦ホーマンに唯一の土をつけたりしていて(今回も当たるし)、グランドスラム復帰後2戦目で本領発揮してきそう。🇰🇷キム ウンジョンvs🇰🇷キム ウンジのタイブレークなんか見てみたい。
🇨🇦スターメイ(5位、127.88p、アルバータ州)、🇨🇦キャメロン(8位、118.25p、マニトバ州)、🇨🇦キャンベル(9位、117.313p、マニトバ州)の3チームは、月末に決まる女子カナダ選手権のワイルドカード2枠目(今季の4枠目)の候補で、約10ポイントの中に5チームがいる状態の大接戦。🇨🇦ローズ(4位、163.86p、マニトバ州)は州予選で負けても1枠目で女子カナダ選手権出場はほぼ決まり。今大会で予選を通過すれば大きなアドバンテージになるが、私の予想ではどのチームも苦戦しそう。州選手権で勝ちさえば良い…と言っても、相変わらずマニトバ州などで熾烈な州選手権が行われるのは、ここに挙がっているチーム名の数でわかるでしょう…。
🇸🇪ハッセルボリvs🇸🇪ヴラノーの世界選手権代表争いは、計算上は🇸🇪ハッセルボリで決定済み。この大会で優勝しても追いつかない🇸🇪ヴラノーですが、だからこそ、自分で出場権を獲得し、自分で出場もできるグランドスラムで、良いプレーを見せて欲しい。
普段と選手構成が違うのを把握しているのは、🏴モリソンと🇨🇦キャメロン。🏴モリソンは、フロントエンドのS.ジャクソン選手とサードのJ.ドッズ選手が帯同しておらず、前回世界ジュニアでスキップを務めたF.ヘンダーソン選手が代理を務めるので、何番目に投げて、どのぐらい通用するのか楽しみ。🇨🇦キャメロンは、スキップのK.キャメロン選手が不在で、C.キャリー選手が代理。C.キャリー選手が今季代理に入るのは、🇨🇦ジョーンズ、🇨🇭イェッギに次いで3チーム目かな?
男子の予選通過予想
上位8チームからあえて外したのは、🇨🇦ダンストンと🇨🇦グジュー。男子はどうしても先週の「Astec Safety チャレンジ」の結果に引っ張られてしまうが、上位陣で唯一予選通過できなかったのが🇨🇦ダンストン。🇨🇦グジューに悪い所があった覚えはないが、同組の中で🇨🇦カラザースを残そうとすると、🇨🇭シュヴァラーに“ストップ・レトルナス”の期待をしている身としては、他に外せるチームがない。
代わりに入れたのが、🇺🇸ドロプキンと🇨🇦カラザース。女子の🇺🇸ピーターソンと同様に、Tier2優勝により今大会初出場の🇺🇸キャスパーがいる中で、前回の全米選手権であまりふるわなかったドロプキンには良いところを見せてもらって、直後にある今季の全米選手権につなげられるのか、注目したい。🇨🇦カラザースは、B.ジェイコブス選手がフォーススキップに配置変更されて、優勝争いまで行かずとも、安定して好成績が残せそう。
先週優勝した🇨🇦クーイーだが、サードのT.タルディ選手のショットが安定していればこそのクーイーのラストロックという風にも見えた。“先週良かったから今週も良い”というよりは、男子の上位チーム相手に好成績を続けるハードルは高そうというのが、外した理由。(とか言っているうちに、初戦で🇸🇪エディンに勝ちましたけどね…)
カナダ国内ランキングに基づくカナダ選手権のワイルドカード争いをしているのは、以前と同じ1枠とはいえ、男子も同じこと。現時点で“他の州の結果によらず、州選手権に敗退してもカナダ選手権に出場できる”位置にいるのは🇨🇦クーイー(196.75p、アルバータ州)で、それに続くのが🇨🇦カラザース(178.94p、マニトバ州)と🇨🇦マキューウェン(178.63p、サスカチュワン州)。どの週にも州選手権優勝を争う相手はいるが、男子では🇨🇦スルチンスキーや🇨🇦スターメイのいるアルバータ州が最も熾烈な争いになりそうで、保険がかかること自体は🇨🇦クーイーも歓迎だろう。なにより🇨🇦クーイーのいないカナダ選手権なんて、誰が見たいのだろうか?
初出場となるのが🇺🇸キャスパー(シード順16位)だが、その対戦相手は🇮🇹レトルナス、🏴モウアット、🇨🇦ダンストン、🇨🇦クーイー(順不同)という恐ろしい4チーム。久しぶりの出場となる🇨🇭ブルナー(シード順15位)にしても、🇨🇦ボッチャー、🇨🇭シュヴァラー、🏴ホワイト、🇳🇴ラムスフィエル(順不同)という強靭な試合相手ばかり。同じ2勝同士なら、シード順と逆順に勝ち上がらせてあげたいぐらい。
16チーム出場するグランドスラムは今季これで終わり
私の予想が外れて、違うチームが勝ち上がったとしても、ファンとしての期待は裏切らずに、好ゲームを見せてくれるのがグランドスラムの魅力。グランドスラムと言えば、“上位16チームが出場”という印象も強いですが、男女世界選手権の後にトロントで行われるプレイヤーズ選手権(2024年4月9日〜14日)は、男女12チームずつしか出場できないより狭き門。そして、今季はチャンピオンズカップが開催されないため、16チーム出場するグランドスラムはこれで終わりです。
出場チームは世界ランキングの上位12チームですが、判定日は男女世界選手権よりも前にあります。欧州では一般の大会もまだ多少ありますが、日本のチームにとっては、判定日までに日本選手権しかない状態になります。日本選手権でまったくポイントが増えないとは考えづらいですが、現状のままでは判定日の🇯🇵ロコ・ソラーレの順位は出場圏外の13位。今大会で予選を通過すれば、それだけで10位に上がり、日本選手権でもさらにポイントを上乗せして、(仮に世界選手権に出場できなくても)プレイヤーズ選手権出場権争いをより優位に進められるでしょう。日本選手権をもっと大事にしてほしいというような声も一部にはあるようですが、私に言わせればグランドスラム出場チームであることは、おそらくロコのアイデンティティの一部なのであって、アイデンティティ喪失の危機を全力で回避しようとするのは、人間として当然のことだと思えてなりません。そして、それは日本選手権軽視などではないことは、日本選手権の最終結果がどうなっても、見る人に伝わるような闘いぶりで証明してくれるのではないかと期待しています。