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2位だったけど、次こそは〜第18回日本ミックスダブルスカーリング選手権振り返り

第18回 全農 日本ミックスダブルスカーリング選手権大会(日本MD)がつつがなく終了し、松村・谷田ペアが3度目の優勝を飾りました。おめでとうございます。今回は、私なりにこの大会を振り返ってみたいと思います。

決勝トーナメントの結果

カンヌンでは2位だったけど、次こそは

優勝した松村/谷田は、2次予選の初日に2連敗となり、そこで尻に火がついた状態になりました。その時点でのDSCの数値を考えると、1試合も負けられない状態でしたが、そこから4連勝して優勝まで上り詰めたことになります。最終日が始まる時点では、小穴/青木が全勝でしたが、「小穴/青木に勝てるペアがあるとすれば、松村/谷田の方かな」とは思っていました。決勝は、最終的に予想よりも点差がつきましたが、やはりベストパフォーマンスに近いプレーができたのだと思います。(決勝の話は下で)

今季のカナダでの成績を見ると、確かに小穴/青木の方が上でした。同じ大会に出た時の成績は、同じか、小穴/青木の方が上でしたし、直接対決でも小穴/青木が2勝0敗でした。ただ、松村/谷田の調子が悪かったという印象はありません。出場したすべての大会で予選は通過しています。世界ランキングもトップ10です。日本のペア同士のハイレベルな争いの中で、2番目だったことにより、外から見た時には、実情よりも悪く思われていた部分はあると思います。

これで 🇨🇦ニューブランズウィック州フレデリクトンで2025年4月26日から5月3日にかけて行われるミックスダブルスカーリング世界選手権(世界MD)に日本代表として出場することになります。世界MD代表は2年ぶり3回目で、1回目の2022年は6勝3敗ながら予選敗退となり、2回目の2023年は8勝1敗で予選を1位通過し、準決勝でノルウェー🇳🇴に勝つものの、決勝で🇺🇸ドロプキン/ティーシーに敗れて準優勝🥈でした。「忘れ物を取りに行く」というのは、“次こそは金メダルを取りたい”ということでしょう。今回の世界MDでは、日本代表として五輪ポイントを獲得することも大事ですが、松村/谷田は世界MDでの戦い方、そして、その酸いも甘いも知っているペアです。そういう意味では、「この2人にまかせて、十分な五輪ポイントが獲得できないなら仕方がない」と言うこともできそうです。そして、ここで良いパフォーマンスを見せることで、9月の五輪代表候補決定戦にもつながってくるでしょう。ただ、五輪ポイントの稼げる大会と稼げない大会では、出てくる選手のレベルが変わる国もあります(例えば、スウェーデン🇸🇪)。特に今回はどの国にとっても、ポイント獲得の最後のチャンスです。どのような大会になり、どのような活躍を見せてくれるのか、今から楽しみです。

個人的に気になるのは、本大会までにどういう調整をするのかです。2023年のミックスダブルス世界選手権に出場した時は、日本MDの決勝が2月26日で、時差のない🇰🇷カンヌンで4月22日から大会が始まりました。2022年もスケジュールとしては似たような感じです。今回は12月8日にMD日本代表に選ばれ、世界MDが始まるまでにおよそ5ヶ月弱もあります。4人制の大会には出場しないでしょうから、1月末に2週続けて開催されるMDスーパーシリーズの2大会、そして、4月3日〜6日にあるMDスーパーシリーズ最終戦のプレイヤーズ選手権などが候補になりそうです。

個人的には2月中旬にエストニア🇪🇪で開かれるタリン・マスターズMDをオススメしたいです。🇪🇪カルドベー/リル、🇳🇴スカスリエン/ネドレゴッテン、🇦🇺ギル/ヒューイットなど、世界MD出場が濃厚なペアがすでに出場決定しており、参加承認待ちのチームが18チームもあるというまさに「行列のできるミックスダブルスの大会」です。小笠原歩コーチは、今季、小穴/青木と一緒にエストニアに一度行っており、そこで欧州遠征にメリットを感じていたら、松村/谷田にも参加を勧めるかもしれませんね。(逆に、止めるかもしれませんが)

12月は2位だったけど、次こそは

一方で、今回の日本MDでは決勝で負けてしまったのが、小穴・青木でした。過去の対戦成績を見ると、一昨年の日本MDから数えて、10試合の結果が確認できましたが、小穴・青木の7勝3敗。直近はカナダで連勝していて、相性が良いようにも見えます。ただ、よく見ると、ほとんどの試合は7エンドで同点に追いついていたり、エキストラエンドに入っていたりと、接戦ばかりです。松村・谷田の3勝はすべて稚内での勝利なので、稚内との相性が悪い…と言うこともできそうですが、国内でのMDの試合や合宿は稚内で行われることが多いので、そう見えるだけだと思います。

結果を確認できた10試合分の「松村・谷田 vs 小穴・青木」

最近のカナダでの直接対決では、松村・谷田が後攻で複数点を取れない試合が続いており、「接戦とはいえ、接戦になっていること自体が小穴・青木ペース」というニュアンスのことを以前の記事で書いていました。今回も、負けた試合を含めて、小穴・青木が先攻で複数点を許したのは2次予選のパワープレーの1エンドだけで、他の5エンドはフォース(後攻1点)かスチール(先攻の加点)でした。つまり、相手の複数点を抑えるという部分は引き続き機能していたと言えそうです。

そう考えると、「松村/谷田が先攻、小穴/青木が後攻のエンド」が、勝負の分かれ目になったのだろうと思います。決勝の全7エンドで、松村/谷田の後攻は第4エンドの1エンドだけ。先攻だった残りの6エンドで5回のスチールを決めていて、後攻ラストロックにはどれも難しいショットを残せていた印象です。女性の松村選手と男性の青木選手を比較すると、5投目を投げる能力は青木選手の方が上かもしれませんが、1投目のドローでは互角の勝負が挑めそうな印象があります。先攻1投目からスキを見せずにショットを繰り出していくというのは、MDの基本なのかもしれませんが、5投目に優れた投げ手のいるチームとの試合では対策として有効なのでしょう。

2つのペアのプレースタイルから考えると、極めて単純な言い方をすれば、「松村/谷田がドローで置いた石を、小穴/青木がテイクアウトできるか」という構図になるのかと思っていましたが、松村/谷田のドローの決まり方がいつにも増して良かった印象はあります。特に各エンドの中盤は谷田選手がドローで有利な形を作った印象が強く、小穴選手に投げ勝ったという感じに見えました。そして、青木選手はかなり難しいショットでも発見できて、それを決められる、そんなスペシャルな選手だと思っていますが、難しいショットを決める能力が高いという意味では、準決勝でも松村/谷田の対戦相手の5投目を投げていたのが、同様にその点を高く評価される北澤選手でした。もしかすると、この日の2試合で似たような点に注意して戦えたという運もあったのかもしれません。

今回の日本MDでは、小穴・青木として2回目の2位でした。青木選手は、2位が4回目(第9・10・16・18回)で、3位も2回(第14・17回)と、6回も表彰台に上がっていますが、優勝にはあと一歩届きません。日本カーリング界の七不思議の1つに入れてもいいかもしれません。今回は初戦がSC軽井沢クラブ戦で、そこを(当然ですが)重視したことで、決勝までのペース配分が難しかった部分もあるのかもしれません。いずれにせよ、現時点で、小穴/青木が日本のトップを争うMDペアであることには、変わりがないと思います。

世界ランキング国内最上位になったことから、MD五輪代表候補決定戦には出場できます。日本選手権一発勝負の高揚感が好きな人もいるとは思いますが、シーズンを通して努力して、結果を残したことが、(本来望んだ形とは違うかもしれませんが)報われたことは良かったと思います。「日本MDでは2位だったけど、次の代表決定戦こそは1位になって五輪に出るぞ」という気持ちは、大会前よりも強いかもしれません。五輪に出場したいだけではなく、五輪で良い成績を残したいのであれば、本当は世界MDのような大きな大会を事前に経験しておきたかったのかもしれませんが、MD日本代表として来年2月の冬季アジア大会に参加することで、部分的にはそれを補えそうではあります。また、来年度の強化指定でも「エリート強化A」を維持できる見込みで、まずは9月に向けた準備をし、そこで勝てば五輪に向けて準備をすることになりますが、そのためのリソースはある程度確保できたのだとは思います。(エリート強化Bは、松村/谷田になります。)

グループAで2位だったけど、次こそは

3回目の世界MDを戦う松村/谷田、アジア大会を戦う小穴/青木、この2チームと五輪代表候補決定戦を戦うのが、前回日本MDの優勝ペアであるSC軽井沢クラブ(上野・山口)です。今回の最終成績は5位でした。予選通過もDSC勝負での勝ち上がりで、少し不安を感じさせる結果でした。Ozeki・Aokiが7エンド終了時7-4で勝っていた船木・鎌田ペアに逆転負けを喫していなければ、1次予選敗退でした。

すでに五輪代表候補決定戦への出場が決まっているこのペアにとっては、今回の日本MDは重要度が低かったのかもしれません。連覇しても小穴・青木との決定戦開催はすでに決まっていました。ただ、3組の中で唯一、4人制とのかけもちであるため、バランスをうまく取るのが難しそうな印象はあります。女子は決定戦の出場権をすでに持っていますし、男子もそれを目指して横浜での日本選手権に挑むでしょう。MDと4人制の決定戦をどういう順番でいつやるのかはよくわかりませんが、両方に出る可能性があるのはこの2人だけです。

少し気になるのが、4人制の方でも必ずしも調子が良くなさそうなことです。前回の日本MDに優勝したときは、直前にあった4人制の日本選手権で女子は優勝、男子は2位と、優れた成績を残しており、そこからMDの準備をして優勝したという流れでした。今季、男子のカナダ遠征は、出だしこそ良かったものの、10月・11月は5大会に出場し、ベスト8以上に残った大会がありません。世界ランキングも日本のチームで3番目、今季獲得ポイントは4番目です。女子はPCCCまでで帰国し、今後軽井沢国際やニューイヤーカーリング in 御代田などで調整していくのでしょうが、グランドスラムに出場した4チームの陰にかくれているような印象もあります。横浜にはちゃんとピークを合わせて来るのかもしれませんが、「日本代表じゃなくなったから、自由に活動できる」とロコ・ソラーレが語った反対のことが起きているのであれば、まさにその難しさを感じている最中なのかもしれません。

他に印象に残ったペア

3位になった北澤・臼井ペアは、期待通りの活躍を見せてくれました。準決勝も最後まで接戦でしたし、少し何かが違っていれば、決勝進出していてもおかしくなかったでしょう。ただ、小野寺・前田ペアや山口・上野ペアが今回苦戦したのを見ると、その大会で調子が良ければ、普段4人制を中心に活動するペアでも優勝争いができるのかと思いますが、良いパフォーマンスを繰り返すのに苦労するのかなと思わされました。もし、翌年の日本MDでも良いパフォーマンスを繰り返すのが難しく、数ヶ月後の世界MDでも調子を落とす可能性があるのであれば、昔、MD専門に転向する頃の谷田選手が「MDを専門にやらないと、良い結果が残らないのでは?」と感じた理由の1つになるのかと思いました。ただ、私は完全に4人制だけ/MDだけでなくとも良いと思っていて、例えば、🇨🇦ホーマン/ボッチャーがMDの大会にも2ヶ月に1回ぐらい出場しながら、4人制で好成績を残しているように、もう少しMD寄りで、どちらも良い成績が出るバランスがありそうな気はしています。(カナダの選手と日本の選手は、置かれている環境がかなり違いますが)

今回の日本MDで「新たなスター」が誕生したとしたら、それは田中・佐藤ペアで間違いないでしょう。2024年ユース五輪の代表として一緒に活動して、その流れで組まれたペアなのは、なんとなく想像はついたのですが、当初は強化委員会推薦で選ばれたことに違和感を感じていました。そもそも、6ペアの強化委員会推薦を選ぶ合宿に6ペアしか参加しておらず、「選考」とは名ばかりな状態で選ばれたことでそういう違和感を感じた面はあるので、それは本人たちの責任ではないのですが、新しいパートナーと組んだ敦賀・阿部と田中・佐藤については、そういう印象でした。

ただ、ふたを開けてみれば、前回の優勝ペア・準優勝ペアを下し、松村/谷田にも最後まで追いすがり、4位という結果でした。4位という結果以上に、2次予選で日本のトップペアとひと通り対戦できたことが、この2人にとっての財産になれば良いと思いました。

今季からは、ジュニアMD世界選手権も始まります。今季のジュニアの年齢制限が2003年7月1日以降に生まれた選手のはずなので、2006年9月生まれの佐藤選手はあと4シーズン、2007年9月生まれの田中選手はあと5シーズンもジュニアの大会に出場できます。進学などで練習環境が変わることも想像されますが、もしこのペアで活動を続けたときに4年後どうなっているのかを考えると、末恐ろしい感じしかしません。今回の日本MDの出場ペアでは、敦賀・阿部や大関・青木もまだ今季のジュニアMD世界選手権に出場できるはずです。三浦選手も違う選手とのペアなら、出場が内定している世界ジュニアだけでなく、世界MDジュニアにも挑戦できます。こちらの選考合宿がいつごろ行われるのかは把握できていませんが、「初代ジュニアMD日本代表」が誰になるのかも気になるところです。

最後に、柏木・似里がブロック代表として初めて2次予選に進んだことにも触れておきたいと思います。三浦・佐々木ペアが途中棄権になった影響も多少はあるとは思いますが、松村・谷田以外の3チームにきっちり勝利して2次予選に進みました。お二人とも日本のMD界ではおなじみの選手で、そういう意味では2次予選進出を驚く感情はほとんどないのですが、勝ってもおかしくないと思われるのと、実際の試合に勝つのとでは、大きな差があります。ベテランの域に入る選手かとは思いますが、近年レベルが上がったとも言われるMD戦線で、今後どのブロックから出場して、どういう戦いを見せてくれるのか、楽しみにしたいと思います。

日本MDの出場チーム選考のあり方とは

長くなりましたが、最後に出場チーム選考について思ったことを、書き留めておきたいと思います。前回と今回の競技形式では、出場は全部で18組で、前回の優勝ペアと準優勝ペア、強化委員会推薦が6ペア、ブロック代表が5ブロックから2組ずつの合計10ペアという構成です。

私がよくわからないのは、「4人制と掛け持ちしている選手が、正直なところ、どのぐらいミックスダブルスに興味を持っているのか」です。もちろん個人差はあると思いますが、推薦ペア選考合宿に6ペアしか出ないとなると、手を挙げさえすれば参加できそうな4人制のトップ選手の中では、「両方並行でやりたいと思う人は少ない」ということなのかと推測したくなります。今回出場したペアでも、「両方並行」と言えるほどMDに時間をかけられていないでしょう。かといって、4人制の方の競争も熾烈ですから、それを責める気にもなりません。

実際には、4人制の選手にお願いして出てもらっているような状況なのかもしれないと思うと、事態はさらに複雑です。確かに日本MDのレベルをあげるために、4人制の選手に出てもらうという側面は少なからずあるでしょう。強化委員会推薦が始まってからの方が、世界MDでの成績は良いですし、松村/谷田や小穴/青木が誕生したのも、そういう制度があって、日本MDに出場する機会ができたおかげという気もします。ただ、強化委員会推薦が導入された頃とは少し状況が変わってきた感じも、同時にします。

1つ提案したいのは、世界ジュニアMD代表決定戦との関連付けです。来年度以降どう選考するのかはわかりませんが、強化委員会推薦6枠のうち、例えば、2枠は世界ジュニアMD代表決定戦の上位2組に与えてみてはどうでしょう。世界ジュニアMDの本大会とのタイミング次第な部分もありますが、MDのトップペアとの対戦は、良い経験になるでしょう。北海道ツアーのような国内でMDトップチームが出る一般の大会がないため、MDのトップペアと真剣勝負をするのは、4人制トップチームとの対戦以上に貴重な気もします。

もう1つのアイデアは、2次予選にチームが残ったブロックには、出場権を増やすというものです。今年で言えば、2次予選に柏木・似里が入った中部ブロックからは、次回の日本MDに3チーム出られるようにして、代わりに推薦枠を1つ減らします。以前は前回優勝・準優勝に加えて、推薦ペアは4組で、プレーオフは8枠あったので、ブロック代表が2チーム以上必ずプレーオフに残っていました。しかし、現在は、推薦ペアが6組に増え、反対に、2次予選の枠は以前のプレーオフより少ない6席です。選手は1つでも多く勝ちたいという純粋な思いで稚内に来たのかもしれませんが、もう少し具体的に目標にできるものがあっても良い気はしました。

日本選手権を代表を決める試合に位置付けておくのであれば、強い日本代表を選ぶことと、日本中のチームの目標となる大会にすることを、良いバランスで両立できるのが望ましいと思いますが、決して簡単なことだとは思えません。あまり頻繁に競技形式が変わるのも選手からするとありがたくないのかもしれませんが、最適なバランスを追い求める作業は、今後も続けていっていただきたいと思います。

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