コミュニティと脱車社会についての講演を聴いて
2018年9月23日(日)胡桃堂喫茶店
まちは変えられる~なぜ世界の都市は公共空間再編に取り組んでいるのか~
国分寺駅から少し歩いたところにある胡桃堂喫茶店。コーヒーの値段は少々高いけれど、落ち着いた雰囲気の店内は読書するのに最適だ。今回のイベントはクルミド出版の企画で、カフェ研究家の飯田美樹さんのお話を伺うというものだった。このクルミド出版社というのが、クルミドコーヒーというカフェからはじまった出版社であり、ここ国分寺にある胡桃堂喫茶店は、西国分寺にあるクルミドコーヒーの2号店である。クルミド出版のホームページを見ると、カフェ研究家の飯田さんとは会社設立の前から付き合いがあることが分かる。
今年の1月にも、カフェ研究家の飯田さんが登壇したそうで、そのテーマは「充実したパブリックライフを送るにはどんなことが必要なのか?」「カフェがパブリックライフに与える影響」についてだった。飯田さんは高校生のころ環境NGOに関わり、社会変革の発端となりうる場に興味を持つようになった。大学ではフランスに留学し、そのときにパリのカフェにたびたび通った経験から、カフェが社会変革となりうる場であることを知った。環境問題とカフェの二つは、一見すると全く関係なさそうだけれど、飯田さんにとって深くつながっている。
今回のテーマは「なぜ、世界の都市は公共空間の再編に乗り出しているのか」というものだった。その答えには大きく二つの軸がある。一つは生活の質(Quality of Life)、もう一つは環境問題である。やはりこの二つの問題はつながっていて、質のよい生活ができる都市というものは環境にも優しい都市(Happy City = Eco City)でもあるという前提がまず提示された。そんな都合のいい話があるか、と思ったが、話を聞いていくうちにその意味がよく分かった。
生活の質が高く環境にも優しい都市。そんな都市とは対極にあるのが、現在の車中心社会である。飯田さんの話の前半は主に、車中心社会の問題点と、いかにして車社会から脱却するか、という内容で進んだ。今でこそ道を人が行き交うフランスやイタリアの都市も、かつては車中心社会によってすっかり廃れていたそうだ。車中心社会に対して諸都市が行ってきた対応は大きく分けて二つある。一つは車中心社会に適応しようともがくこと、もう一つは車を都市から追い出すことである。日本はもちろん前者だ。後者の、車を都市から追い出すとはなかなかラディカルに聞こえるかもしれないが、それだけ車の弊害は大きい。
では、車の弊害にはどんなものがあるのか。環境問題からいえば、大気汚染、それからエネルギー問題がある。車は一人を運ぶにはあまりにも非効率だ。それから車に乗る人が増えると、どうしても渋滞の問題が出てくる。例えば京都ではバスは時間通りに来ず、渋滞にはまると動けなくなる。そうなると都市としてのスピード感がなくなり、経済的にも非効率である。そして今回のテーマに大きく関わるのが、車は人を分断するということだ。車が通る場所(道路など)は轢かれる可能性があるから人は気軽に通れない。車は道の真ん中を通り、人は端を歩くことになる。このとき、端ともう一方の端のあいだには分断があり、気軽に行き来できなくなる。そうやって空間が分断されてくると、あまり人が行かない隙間のような空間が出てくる。そういう場所では犯罪が起こりやすくなる。こうして考えてみると、いかに車中心社会が、環境的・経済的・社会的に多大な悪影響を与えているのかがよく分かる。
次に、車中心社会から離れるために実際に行われている諸都市の取り組みいくつか紹介された。まず一つが、中心部に入る車に通行料を求める、あるいは勝手に車で侵入したものから罰金を徴収するというもの。イタリアの古都市は、基本的に車の侵入が禁止で、罰金。ロンドンは罰金ではないものの、高い通行料が徴収される。その代わりに、徴収したお金でバスなどの公共交通が整えられている。次に紹介されたのが、バス専用の道路。信号も優先的に青になり、台数も多いため、利便性がかなり高い。それから、トラムの充実と、自転車道の整備、レンタサイクル充実など。自転車はもっともエネルギー効率の高い乗り物であるし、自家用車で移動するところのほとんどは自転車で移動可能である。さらに、自転車が普及すると、肥満人口が減り、社会保障費の負担が減り、財政的にもうれしい。
さいごに豊かなパブリックライフに必要な7つの要素が紹介された。これは飯田さんが、ヤン・ゲールなど、数々のパブリックライフに関する書籍を読んでまとめたものである。
1. 歩行者空間が面(エリア)として用意されていること
車が通ると、それだけで人が通らない隙間ができてしまう。人が気ままに歩ける場所を、線ではなく面で確保する必要がある。
2. 座れる場所が用意されていること
座れる場所というのは椅子ではない。花壇や階段など、座ることもできる場所が望ましい。どれだけ人が来たか、ではなく、どれだけ長く滞在したかが、都市計画では重要。
3. ハイライトがあること
「あれがあるから行ってみよう」と思えるもの。にぎわいがにぎわいを呼ぶ。分散させず、ハイライトに凝集させること。
4. 端(エッジ)から人の活動を眺められること
人は後ろに誰かいると落ち着かないもの。まずはエッジから人が埋まり、それから人が出てくるようになる。
5. エッジに連続性があり、あたたかみがあること
意訳すると歓迎感。自分がここにいていいと思えること。
6. 朝から夜まで多様な人々を受け入れること
5とつながる。多様な用途が集まっていること。ゾーニングだと、例えばオフィス街に子どもの居場所はない。
7. 飲食物を販売する店があること
300円くらいで食べれるものがあるとよい。また何か実演があるとよい。1軒くらい、ちょっと高級感のあるお店があると、「いつか行ってみよう」となる。
カフェ、とりわけオープンカフェは、上に挙げた要素を満たしている。カフェが素晴らしいのは、飲み物代を払うことでその場にいるエクスキューズになること。何の目的もなくても、カフェにやってくることはできるし、一杯のコーヒー代さえ買えば好きなだけそこに留まっていられる。車中心社会から歩行者中心社会へと移行することは、生活の質を高め環境にも優しい。それには優れた公共空間が必要不可欠であり、そのもっとも重要な役割を果たしているのがカフェということだ。
ヨーロッパの諸都市の例が挙げられていたが、それらの都市だってかつては車中心社会であった。そこから転換することができたのは、とくべつ革新的な市政が率先的に行ったというわけではなく、NGOなどの個人の草の根的な運動があったからだという。結局、まちをつくるのは市民のほかはあり得ない。
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