【モノの演劇祭】「Der Kandidat」1968年のパリをボードゲームで体感する

10月26日 Schaubude Berlin
Der Kandidat
Marc Villanueva Mir & Gerard Valverde

激動の時代の真っ只中の1968年。その翌年の1969年に、パリのL/Impensé Radicalという出版社が「candidat 候補者」というボードゲームをつくった。ゲーム名とそれがつくられた時代から分かるように、政治上での戦いをボードゲーム化したものだ。ゲーム性としてはチェスと将棋を混ぜたような戦略ゲームとも言えるが、ちょっとしたことがきっかけで、あっという間に盤上の情勢がひっくり返ってしまうという点は異なるかもしれない。2人対戦ではなく、4人対戦で、それぞれお現存する政党の名を冠してプレイする。当時、学生たちはこのゲームをプレイ(遊ぶ/演じる)しながら、政治を語っていたのだと思われる。どうしていきなりゲームの説明をしたのかというと、この演目がほかの観客とともにこのゲームをするというものだからだ。ただゲームをするだけでは演目にならないだろう。アーティストの二人は、このボードゲームを当時の雰囲気を味わえるような臨場感あるものに演出している。

一度の上演に参加できるのは8人、人数合わせのために劇場関係者も参加している。8人なのは、1つの政党に対し、2人1チームで取り組むから。会場は、劇場の裏口から入ってしばらくしたところにある給湯室で、なかに入るとスモークマシンによってやや煙がたかれている。学生運動の激しかった時代にタイムスリップするというわけである。僕らはボードの置かれたテーブルを囲むようにして座った。ボードは重厚そうな石で、コマは大きなボルトの頭の部分から作られている。ボードの下にはマイクが仕掛けられていて、金属のコマを石のボードの上に置いたときの音が、ガツンと響き渡るようになっている。全員が席に着くと、アーティストから今回の企画の趣旨やゲームのルールについて説明された。今日は学生運動の傍ら、アジトでこっそりボードゲームを楽しみながら、政治談議に花を咲かせる学生になったつもりでプレイしてほしいとのことだった。

9×9のマスがあり、四隅の3×3のところに9つのコマが置かれている。それが一つの政党であり、そのなかにはいくつか役割の異なるコマがある。ゲームを始める前、どのチームがどの政党の役をやるか決めることになった。アーティストがもつカードから一枚引くと、そこにはドイツの各政党の党首の写真が載っている。僕のチームは、メルケルのカードを引き、CDU(中道右派)となった。ほかのチームは、Linke(左翼)、CSU(保守)、それからAfD(極右)となった。参加者のなかには僕を含め半数がインターナショナルだったので、現地の人がそれぞれの政党について簡単に説明することになった。AfDになったのは劇場スタッフであり、嫌そうな身ぶりを示しつつもノリノリだった。

細かいルールについては説明しないが、基本的な動きはチェスのクイーンと一緒で縦横斜めの8方向自由に動ける。チェスと違って将棋と似ているのは、殺したコマは死体となって盤上に残り続けることだ。コマによって作用が異なるが、死体となったコマは盤上に残り続けることでほかの政党の動きを邪魔することができる。コマのなかには政党を代表するコマが一つあり、それを殺されると負け、あるいは死体コマで囲まれて身動きが一斉取れなくなると負けである。殺された場合、殺した政党がその党のコマを乗っ取ることができる。また、殺したコマに応じて専用のカードを一枚引くことができ、カードの効果で死体を生き返らせたり、順序を逆転させたりする。予定上演時間は90分で、結局30分ほどオーバーしたが、それはルールの確認やうまい立ち回り方を探るために、みんな慎重にコマを動かしていたためである。

勝負の結果、我がCDUは一番先に負けた。ほとんどの場面において、有利な立ち回りをしていたのだが、CSUとLinkeの連携によって、Linkeに政党コマを殺されてしまった。ゲーム中、誰かを殺すたびに、ファンファーレのような陽気な音楽がかかる。真っ先に勝負に負けた我がCDUはタイムキーパーという名誉ある役割を与えられた。一つの政党が落ちると、そこからの展開は目まぐるしかった。それまでLinkeは圧倒的に不利な状況だったが、CDUのコマを手にしたことによって、情勢が逆転し、最終的にはAfDとの一騎打ちに勝ち、政権を勝ち取った。ボードゲームとしての楽しさもさることながら、ゲームの勝敗に政党を照らし合わせることで、実際の政治が同じような展開を迎えたらどうなるだろうかと想像するとおもしろい。慣れた人なら、政党の特徴をふまえたロールプレイも楽しめるだろう。そういう意味ではTRPG的でもある。

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仁科太一
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