シアター・マダム・バッハの『World Image 〜地球は宝箱〜』を見て
2017年8月4日 グランシップ 6階交流ホール
『World Image 〜ちきゅうは宝箱〜』
シアター・マダム・バッハ(デンマーク)
グランシップの6階に吊るされた鳥かごのようにしてある交流ホールはそれだけでワクワクするような空間である。広々とした空間内は暗く、その場真ん中辺りには、さまざまな形の大きな傘がいくつか置かれている。演者は二人いて、語りがメインの人と演奏がメインの人とに分かれる。この劇は他の作品と異なり通訳の人が付いており、必要に合わせて日本語に通訳してくれる。このときの日本語は、同時通訳のような情報を伝えることを重視したものではなく、あらかじめ児童劇ふうに翻訳されたものであった。
二人の演者は地球儀を回して、もっとも美しい世界へ旅しよう!と言う。各傘は地球の各地域を表しており、それぞれの場所で、傘を組み合わせたさまざまな仕掛けが用いられて、美しい世界の特徴が表現される。ほかの作品に比べると際立った身体表現はなく、むしろ個々の仕掛けがおもしろい作品だった。いろんな傘が集まっているところを、半円を描いてぐるりと囲むようにして観客席が用意されている。
奥に置かれた白い傘は北極である。大きな白い傘の裏側には、小さな白い傘がいくつも逆さに掛けられている。小さい傘の表面に引っ張るところがいくつか付いていて、そこを引っ張ると傘の中に入っていた白い砂がさらさらと落ち、そうして何本もの砂の柱をつくる。その柱は語りに導かれて、ふだん見かける雪ではなく、塩の砂漠の砂柱として見える。北極のことはよく分からないが、単純な氷ではなく、塩の砂漠というイメージが新鮮だった。そこにオーロラが現れる。スモークマシンが焚かれ、そこにオーロラの光が当てられる。光は白い傘の下のスモークのところにも映るが、スモークを超えてホールの壁にも映る。
次に、その隣にある熱帯雨林を模した緑の傘のところに行く。その傘は半分テントのようであり、その下はジャングルのようにごちゃごちゃとしている。開いた傘の縁からは緑色のツタが垂れ下がっていて、そこを元気よくアリンコが行き来する。演者の一人が箱のようなものを持って観客席の前に座る子どもたちのところへやってくる。その箱を開くと、中は翡翠色に光っている。そのとき演者が何を話しているか忘れてしまったが、その箱の中身が森の生命でも表していたような。
今まで見てきた(訪れた)場所は、白一色や緑一色であった。今度はカラフルなところに行きたいと言う。どこだろう。それがなんとアジアである。観客席に一番近い位置に置かれた傘は、お守りのような伝統的な手芸ふうにデザインされている。全体的に赤い色をしているが、細々と数え切れないほどの色に満ちており、あちこちに鈴が垂れている。演者がその鈴を鳴らすたびに、「赤、青、黄色、スミレ色、etc…」と色の名前が叫ばれる。そうだ、色にはそれこそ色んな名前があるのだった。今度は細々とした手芸に仕掛けられた音声装置のスイッチを入れていく。それぞれには、ミンミンゼミ、ツクツクホーシ、人の喧騒などが録音されている。傘が回され、それぞれの音が混ざり、走馬灯のように夏の音が駆け巡る。その夏は日本の夏というよりもや」アジアの夏という感じがした。
最後に真ん中に太い骨組みだけの傘が運ばれてきた。柄のところに紐がまとめられていて、それを引き延ばして他の傘と連結させる。紐きは都会の建物を型どった紙がくっついていて、そこに車やら人やらが映写されていく。都会というだけあって、文明的な光が強調されたのだった。
この都会の傘で、このパフォーマンスは終わる。傘を組み合わせて世界をつくるというアイデアはおもしろく、途中いくつかの仕掛けも好奇心をくすぐられた。けれど個人的には話の展開があまり気に入らなかった。北極からジャングルへ、アジアへ、そして都会の街へ。「美しい世界へ旅しよう!」と言いながら、どんどんと人が住める環境に移動していき、思い浮かぶイメージもより具体的なものになっていった。むしろ展開が逆である方が、イメージが広がっていくような気がした。
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