どうして若者は選挙に行かないのか/行けないのか
若者の投票率について、いろいろな意見を見ますが、とりあえず思うのは「どうしてみんな投票に行くようになれたのだろう」ということです。「選挙行けよ!」というメッセージが増えるのも大事ですが、どうして若者が選挙に行かないのか/行けないのか、ということも考える必要があると思います。
ここでは、僕の選挙に関する体験をまとめました。言いたいことは、僕にとって選挙は身近なものではなくてハードルの高いものだった、選挙に関心を持つようになれたのは、たまたま仲良くなった友人が選挙に行くやつだった、ということです。
▶︎ノンポリ気取ってた大学デビュー
大学1、2年のころ、僕は政治には全く関心がなくて、ノンポリであることをカッコいいとすら思っていたイタいヤツでした。大学デビューの勢いで、サークル入って、バイトして、授業の内容以上に、一緒に学食に行ける友だちをつくるとか、あわよくば彼女ほしいとか思って暮らしてました。
選挙を意識したのは、大学2年か3年のころ、友人の一人が投票しに行くと話したことがキッカケでした。このとき、僕はその子に言われるまで、選挙があることや自分に投票権があることに全く気づいていませんでした。そのときは、何とかその子に気づかれないように話題をそらすので精一杯でした。
そのときは気恥ずかしさもありましたが、それ以上に、どうしてその子は投票するという行為にたどり着けたのだろうという疑問がわきました。昔から僕は人の話を聞くのが苦手で、クラスメートのみんなが知っていて僕だけが情報を聞き逃していたということがよくありました。選挙もその類いのことだろうと思いました。伝わるべき情報を聞き逃していたのだと。
このころから、Facebookをはじめたこともあって、政治に興味を持ちはじめました。隙あらば友だちとも政治の話をしました。しかし、内心少しビクビクしていました。これだけ政治について意見しているのに、肝心の選挙に行ったことがない。しかも、選挙のやり方について知らないのです。自分でググって調べましたが、小難しい用語の羅列でクラクラしました。たしかに手順は書いてありますが、実際にどういう作業をすることになるのかサッパリ分かりませんでした。
▶︎投票ってどうやったらできるのか知らなかった
それから数日して、父親と会ったとき、今さら聞くのは恥ずかしいだろうと思いながら、「投票はどこに行けばできるのか」「どういう手続きが必要になるのか」と聞きました。すると、父曰く、実家にそれっぽい書類が届いていたということでした。
「どうして連絡してくれなかったんだ」と最初思ったんですが、僕はとりわけ政治に興味あるそぶりを見せてこなかったし、何より家庭の状況もあったので、父がわざわざ僕に連絡してこない理由もよく分かりました。
実家とは母が住んでいる家のことです。僕が高校2年のとき、父と母は別居し、僕は父と一緒に住むようになりました。父と母はときどき連絡を取り合っていますが、気軽に会う仲ではありません。ですので、選挙に関する書類が実家に届いても、僕のところまではやってこなかったのでした。ここでようやく、投票するのは自分の住民票がある地域なのだということを理解しました。
▶︎はじめての投票はドイツだった
何だかんだで生まれてはじめて投票したのは、3年前にボン大学に留学していたときでした。そのとき、たまたま日本人の留学生に政治に関心の高い人がいて、彼を中心に在外選挙制度を利用することになりました。みんなで制度のやり方を勉強して、手続きを済ませ、一緒に日本大使館へ投票しに行きました。
そのときは誇らしい気持ちでした。自分はちゃんとしたやり方で政治に参加した。しかも、国外にいるのに、ややこしい手続きも乗り越えて自分の意見を表現したのだと。
日本に戻ってからは、住民票を父親と住んでいる家に移して、期日前投票を利用して投票しました。案外簡単なんだなとも思いました。
▶︎今回の選挙、投票できず
さて、今回の選挙ですが、僕は投票できませんでした。これは完全に僕のマヌケのせいです。
先月くらいだったと思いますが、大使館から在外選挙のメールが届きました。メールには在外選挙のやり方が書いてありました。在外選挙では、直接投票する在外公館投票と郵便投票とがあります。いずれの場合でも、在外選挙人証というものが必要です。そして、この登録申請にはおよそ2カ月かかるとのことです。申請書を在外公館に送り、それが外務省へ、そして市役所へ届き、そこで在外選挙人名簿に登録され、市役所から外務省、在外公館、そしてようやく自分の手元に在外選挙人証が届きます。
そこまで調べたとき、「ああ、やってしまった」と思いました。在外選挙人証はその土地に3カ月以上居住してからともありましたが、3カ月未満の内から申請は可能ということでした。つまり、ドイツに来てからさっさと申請しておけばよかったのです。
3年前はできましたが、それは友人に頼っていたからできたのでした。在外選挙をするには具体的にどういう手続きが必要で、そのためにはどういう予定で動かなければいけないのかということを忘れていた。あるいは自分では分かっていなかったのです。
▶︎どうして選挙に行かない/行けないのか考える
今回、投票できなかったことを残念に思いますし、ほかにも申し訳ない気持ちや恥ずかしい気持ちもあります。とりわけ、「選挙行けよ!」みたいな投稿を見ると、余計そう思います。
しかし、同時に、「選挙行けよ!」のメッセージがどれだけ効果があるのだろうか疑問にも思っています。僕はたまたま選挙に関心のある友人に恵まれたので、選挙に行かなければと思いますが、大学デビューしたてのころの僕のようにノンポリをカッコいいとか思っている人に対してはどう響くのでしょうか。あるいは、選挙のやり方が分からないことにやや負い目を感じている人にはどうでしょうか。
若者が選挙に行かない/行けない理由として、いくつか思いつくものがあります。
一つは、小中高の学校のロジックと選挙のロジックが矛盾することです。学校から課される問題には正しい答えがあります。授業以外でも、生徒は先生が求める正しい振る舞いを忖度して行動します。つまり、学校のロジックには必ず正しい答えが存在します。それに対して、選挙には正しい答えはありません。自分のもっている知識や思想でもって選択しなければなりません。いじわるな言い方をすれば、自分で選択することこそが正解です。このとき、これまで自分の外側にあった正解を、自分に内側に求めなくてはいけません。これはある種のパラダイムです。
もう一つは、大学デビューするときに地元を離れ、一人暮らしをする人が多いということです。僕は住民票を移していなかったので、自分が投票する主体だということすら気づきませんでした。僕のように、住民票を移していなかった学生は多いと思います。それこそノンポリだったら、見知らぬ土地で誰が当選したって構わないと思うことでしょう(僕もそうでした)。
前者をメンタルの問題、もう一つをアクセスの問題と考えることにします。若者の選挙(政治)離れを嘆く方にお願いしたいのは、この二つの問題について、どうしたら解決できるのかを一緒に考えてほしいということです。
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