伊勢貝マモルの終活③
『あの、本当に悪意というか……そういうのは無いんです、すみません』
「悪意のない住居不法侵入か」
『本当にすみません、こっちには来たばかりで……悪い事とか、よくわからなくて』
『マモル、何をしているのですマモル!早く息の根を止めるのですマモル!』
「黙ってろ死神。で、アンタが魔王だって?」
魔王ルヴァーナ。廻槃界《ニールカーン》の守護者・女神リーネを脅かす恐怖存在であり、越えてきた修羅場の数が違う。故に、真に致命的な局面で彼我の戦力差を見誤るということがなかった。
執拗なまでの隠蔽と隠密の魔法を透かしてあっさり目が合った次の瞬間、魔王の精神は恭順を選択した。生き残るすべは他にないと、万の地獄を生み出してきた経験が告げていた。仁王立つマモルの足元、両膝を揃えてこうべを垂れる。
『マモル!相手は魔王ですよ!悪意が無いどころか悪い事しか考えていないに決まっているじゃないですか!』
ここぞとばかりに「異世界での」悪行をまくし立てる女神を横目に、マモルは俯く魔王に屈み込む。
「だそうだが。反論なら聞く」
『……っふっふはは、ふははははは!』
引きつったような高笑い。あまりの絶望的状況に恐怖が裏返ったか。
『その通りよ!我は手ずから貴様の異世界転生を阻止する為に参ったのだ!』
「具体的には」
『決まっておろう!貴様に死など許さん!せいぜい長生きさせ、必ずや天寿を全うさせてくれるわ!』
勇者、女神、魔王。三者の間を天使が通りすぎた。長い沈黙。通り雨の過ぎた晴れ空に小鳥がさえずる。
「成る程、そうなるか。なるな」
あーなるなる、と一人納得するマモルを不安げに見上げる魔王。怪訝に目を細める女神。
『……え、あの……』
「異世界での事は知らん、関係ない。俺はこの女神に殺されかけたが、お前にされたのはせいぜい覗き見くらいだ」
『え、ちょ、マモル?』
「今のところ俺はお前らどちらにも加担する気はない。お前をどうこうする気も」
『いやいやマモルほら、私の力でワンナイトラヴ』
「お前が何か手を出した瞬間俺は魔王の側に着く」
『ま、マモルさん!我、我の力があればワンナイトと言わず幸せに添い遂げる将来を!』
「何か出来ることがあるのか」
『さっきみたいに気配を消せます!あと来たばっかなのにマモルさんの居場所とかすぐわかりました!』
「うん、そのまま隠れててくれな」
どの道、特別な力を借りるつもりはない。
自分に出来ることなど、ただ"まっつぐ"あり続ける以外に無いのだから。
◇◇◇
わたしにできるのは、くるくると回り続けることだけ。
ここではないどこかで、違う自分になれたなら。
「……わたしにも、違う生き方ができるのかなぁ」
Illustration by しゃく◆wSSSSSSSSk
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