ハンドペーパー
「え。なんでフリックでやらないの?」
彼女が言っているのは、おそらくiphoneの操作方法のことだろう。ボタンを押すんじゃなくて、シュっとするヤツをフリック操作と人は呼ぶようだ。
LINEを返しながら、彼女に返事をする。
「だって、あれよく分かんないだもん」
「『だもん』とか30のオッサンが言わないでくれない?あとピンクのカーディガンとか着ないでね」
ピンクのカーディガンたちよ、来世で会おう。
彼はLINEをやめ、彼女に理由を説明することにした。
「これはね、仕方がないの。俺は昭和63年生まれなの。J-phone世代であり、パカパカ携帯世代なの。だから、ボタンがなくても癖で押しちゃうんだよ。昭和生まれの人は多分みんなそうだと思うよ」
隣に座るおじさんが高速フリック操作をしている。
彼女は気づいてない。よしよし。
「J-phoneってなに?」
「ボーダフォンの前」
「ボーダフォンってなに?」
「ソフトバンクの前」
へー。と言った後、彼女は何かを考えているような、探しているような顔をした。この顔は彼女が彼女の中で大切にしていることを僕に教えてくれる時のサインだ。そしてそれは僕が大事にしていることといつも重なる。
「私、手紙が好きなんだ。手紙ってさ、読む時書いてくれた人の声で読まれる気がしない?だから好き。」
理由がお前らしいな。と言いながら僕はコートの内ポケットに意識を向ける。
今日彼女に渡される手紙。
宛先のいらない手紙。
切手のいらない手紙。
僕らは大切な人にそんな手紙を届けることがある。
”手”紙