#42 つむぐ
君と付き合い始めたのは、夏のことだ。
あれから何度の夏を君と過ごしたかな。
「俺さ、花火見んの好きなんだよね。花火ってさ、無料だし、お金持ちでも、そうじゃなくても、みんな同じものを見てるじゃん?そういうのって、なんかよくない?今度一緒に行こうよ」
僕の誘いに君は、真剣な顔して
「あなたが好きな花火を、見にいく人が、私でいいの?」って返事をした。
君の返事は
僕と君との距離感を、近づけてくれた気がする。
人と人との間には、目に見えない距離がある。
その距離を近づけたり、遠ざけたりする力を、言葉は持っているのかも知れない。
今
僕と君との間には、どれくらいの距離があるのだろうか。
「なぁ」
「なにー」
「今年も一緒に、花火、見にいこう」
今度はイタズラな顔して君は
私でいいの?と答えてくれた。
僕らは変わらずに
並んで歩いている。