今井紀明さんと考えた、困っている子供たちに手を差し伸べる社会へ

僕が「マスター」になって
ゲストの方、
若い世代の参加者と
タブーなしで議論をする
「田原カフェ」が、
6月10日の開催で
30回目を数えた。

正直言って、
この「田原カフェ」が
30回も続くとは思わなかった。
運営代表の田中渉吾さんはじめ、
スタッフのみなさんに
あらためて御礼を言いたい。
田中さんの
突っ走る僕を引き戻す絶妙な司会ぶり、
ゲストとの細やかなやり取り、
心から感謝している。

これまで、
実にさまざまな方に
ゲストとしてお越しいただいた。
政治家では石破茂さん、
細野豪志さん、泉房穂さん、
中谷一馬さん……。
また、自らの信念のもと、
独自の活動をする若者たちにも
たくさん話をしていただいた。

30回目のゲストも、
そんな若者の一人だ。
NPO法人D×P(ディーピー)の代表、
今井紀明さん。
大阪を拠点に
不登校、貧困など、
さまざまな境遇にある
10代を孤立させないため、
セーフティネットを作る活動をしている。

大阪で有名な「グリコ」の看板の下、
通称「グリ下」には、
行き場のない子どもたちが
たくさんやってくるという。
そんな子どもたちに
今井さんたちは声をかける。
また、LINEを使って、
困難を抱えた10代の相談にのる。

今期で13期目になる
NPO活動の資金2.7億円のうち、
84%が寄付でまかなわれている。
しかも個人や、
中小企業約120社からの
寄付がほとんどだという。
月額1000円、2000円といった
少額のサポーター制度もある。

「助けを求める先がない。
家はあるけど、ごはんが食べられない。
孤立状態の子供たちが大勢いる。
私たちの調査では、
46.2%の子供が『何も食べられない日がある』
と答えています」と今井さんは語る。
僕が子供の頃に比べたら、
日本はずいぶん豊かになったと思う。
しかし、貧困はなくならないのだ……。

子供の貧困自体は昔からあった。
ただ、かつては地域があり、
助け合うコミュニティがあった。
僕は子供の頃、
家で昼ご飯を食べた記憶があまりない。
だいたい誰かの家で遊んで、
そのままごちそうになっていた。
それくらい、家と家の垣根が低かった。

ところで、
「今井紀明」という名前に
聞き覚えのある方も多いだろう。
2004年、イラク人質事件の
人質3人の1人と言えばわかるだろうか。
「なぜわざわざ危ないイラクに行ったの?」
僕はずばり聞いた。
「紛争で子供たちが、
たくさん亡くなっている。
紛争地での支援の現場を見たい、
見たうえでちゃんと伝えたい、
と思っていたんです」
今井さんは真摯に答えてくれた。

支援活動をしたいと、
19歳の頃から考えていた今井さんは、
お昼ごはんを抜いて貯金をし、
そのお金でイラクに渡った。
そして、あの事件に巻き込まれる。
今井さんは帰国後、
壮絶なバッシングを受ける。
飛び交う「自己責任」という言葉。
手紙や電話で嫌がらせを受け、
突然頭を殴られる……。
ネット上では「自作自演説」まで流れた。

今井さんに当時の話を聞き、
あらためて日本という国の
不寛容さに愕然とする。
対人恐怖症になった今井さんは、
2年ほど家に引きこもる。
しかし、高校時代の担任の先生が
親身になってくれたことで、
少しずつ外に出るようになり、
大学にも進学できたという。

今井さんは言う。
「もう一度、『生きていてよかった』と思えるまで、
15年ほどかかりました」。
僕も高校のとき、
不登校になりそうになったことがある。
「何のために勉強するんだろう?」
その問いにぶちあたったのだ。
ある先生は、怒ったように、
「いい大学へ行って、
いい会社に入るため」としか答えなかった。

しかし、別の先生はこう話してくれた。
「一回しかない人生を
生きる理由ってなんだ?
一生かけてやりたい何かを
見つけることが必要だ。
やりたいことを見つけさせるのが、
ほんとうの教育なんだ」。
先生は僕の疑問に向き合い、
親身に話してくれたのだ。

その先生に会っていなかったら、
僕は不登校になっていたと思う。
今井さんも僕も、
先生に助けられた。
それを「幸運」としてはいけないのだ。
どんな子供でも、
困るときがある。
間違うときがあり、
行き詰まるときがある。

幸運ではなく、必然として、
そうした子供たちに
手を差し伸べる大人がいる。
そんな社会にしなくてはならない。
今井さんと話して、
強くそう思った。
そして、失敗を許さない、
不寛容な社会であってはならない。

行き場のない子供たちは、
東京にもたくさんいる。
その東京の未来を左右する
都知事選が終わった。
現職の小池百合子さんが強かった。
ただ、石丸伸二さんが
無党派層の支持を集め、
2位と健闘した。

Youtubeでの配信、
SNS上での拡散……。
これからの選挙のあり方を
存分に見せてくれた。
こうした選挙活動によって
浮動層の投票率が上がり、
おもしろい変化が起こることを期待したい。