怪僧池口恵観さんと考えた、「戦争」と「利他」
私は10代の頃から、
「宗教」に強く関心を持っていた。
滋賀県内の禅寺に修行に行ったこともあるし、
天理教の合宿にも参加した。
しかし、生来理屈っぽい人間である。
「人はみな生まれ変わると言うけれど、
じゃあなぜ人口は増えるんですか?」
など質問攻めにして、
追い出されてしまった。
以後、特定の宗教の信者ではない。
ただし、信頼している一人の僧がいる。
池口恵観。
高野山真言宗の大僧正である。
名だたる政治家、スポーツ選手、
経営者たちが、
恵観さんのもとを訪れる。
恵観さんはなぜ多くの人を惹きつけ、
心の拠り所となっているのか。
先日対談をし、改めて伺ってみた。
恵観さんは言う。
「政治家や経営者、
どんな成功者であっても、
実は孤独な存在です。
誰にも相談できない悩みを聞いてほしい、
ということを宗教家に
求めるのかもしれません」
恵観さんと私の出会いは、
さかのぼること半世紀近く前、
妻・末子がガンにかかったことがきっかけだ。
ガンはかなり進行しており、
ある方の紹介で、
わらにも縋る思いで、
恵観さんを訪れたのだ。
当時末子は、
縁があった宗教関係の人たちに、
「感謝が足りないから病気になる」
などと言われて、
気が滅入ってしまっていた。
しかし恵観さんは、
ただひたすら拝んでくれる。
末子は恵観さんに加持をしていただくと、
「身体が軽くなる」と喜び、
表情も明るかった。
恵観さんは、
「私は、ただただその方が、
健康になっていただければと、
お加持をするだけです」と言う。
その祈る心こそが、
末子の心を明るく、
体を軽くしてくれたのだろう。
その後がんばって
9年間も生きてくれた。
医学が進み、治る病気は増えた。
しかし人間にはやはり、
こうして祈ってもらったり、
ただ気持を聞いてもらう存在が、
絶対に必要なのだ。
人間は理性だけでは
救われないのである。
だからこそ経営者も政治家も、
恵観さんのもとを訪れる。
恵観さんは長年、
シベリア、ハワイ、
アウシュビッツなどを訪れ、
戦没者の慰霊を行っている。
すごい行動力だ。
恵観さんは8歳で終戦を迎えた。
生まれ育った寺の近くには、
特攻隊の基地があり、
たくさんの特攻隊員たちが
お参りに来たという。
彼らは恵観さんをかわいがってくれ、
出撃の日は、
特攻機が寺の上で旋回して、
南の空へ消えて行ったという。
終戦を迎え、
「あの兄ちゃんたちが
どんな思いで飛び立ったかと思うと、
涙が止まりませんでした」と語る。
平和のために祈り、
病の人のために祈る。
その根本には「利他」の心があると、
恵観さんは言う。
「自分を考える前に、
まず人の幸せを考えるべきなんです。
みんなが幸せになるように」。
戦争や犯罪が
この世からなくならないのは、
まさに「利他の心」がないからだ。
利己主義から戦争が起こるのだ。
恵観さんは今年88歳、
私ももうすぐ90歳。
子供の頃体験した戦争というものは、
いつかなくなると思っていた。
ところが一向になくならないのである。
恵観さんは、
「平和のためにひたすら祈る」という。
僕はジャーナリストとして、
「戦争はダメだ」とひたすら発信する。
実は似ている。
求めるものは同じなのだ。
恵観さんは、
中国の仏教界とも交流ある。
もし「台湾有事」が起こりそうなら、
止めるために中国に行ってもいいと言う。
その時は、僕もむろん一緒に行きたい。
体を張ってでも止める。
戦争をする日本を、
二度と見たくはない。