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【読書記録#22】甲子園は通過点です

スポーツは勝つことを目指すだけにあるのではない。他にも大切なことがある。そんな当たり前なことに現場はしがらみや雰囲気によって気付けずにいます。今回は勝利至上主義からどうやって決別できたのかそのきっかけを知りたくて本書を手に取りました。

一番印象に残ったのは2章【「甲子園」に取り憑かれた鬼軍曹の改心】。明秀日立の金沢成奉監督のコロナ禍による指導の変化について書いてあります。内容の抜粋と感想を以下にまとめます。

「甲子園」に取り憑かれた鬼軍曹の改心

※REALSPORTさんの記事にこの章に書かれているほとんどがインタビュー形式で掲載されていました。
https://real-sports.jp/page/articles/471049641064923963

■決別のきっかけはコロナによる「甲子園」中止

「たかだか、甲子園がなくなっただけで、この喪失感はなんだろうって思ったんですよね。僕らがなぜ、野球の指導をやっているのか。野球を通じて人間形成をする、社会に役立つ人間を作るというのが我々の指導をする目的であったはずなのに、甲子園が中止になると、何もかも失ったような気持ちになっていた。僕らはいつの間にかそっちのほうへ向かっていたのかなと。」

長時間トレーニングで全ては「甲子園のために」と言い聞かせれば選手はついてきたと言います。それは高校野球の指導者大方共通しているそうです。

しかし、コロナで甲子園が無くなると、選手の1割の選手が「やる気がでない」とグランドに顔を出さなくなりました。

「勝つために努力を続けることで、子どもたちが自らの力でどのように考えて、行動して、起こった結果に責任をどうとるか。これを『自立』と言ってきたが、これまで確実にできてきたことが、甲子園の目標が無くなったことで、子どもたちを導く問題に直面したのです」

「手がつけられないようなヤンチャ坊主は金沢に預けろ」と評判になるほど、どんな性格や経歴でも気にせず選手を受け入れ、練習量を多くして叩き上げて常勝軍団にのし上げるスタイルの金沢監督。でも

「モチベーションとして甲子園を目指すのはいいことだと思っていましたけど、なくなってみると、甲子園がないと選手を奮い立たせられないのは問題やなと気付かされましたね。」

と言います。

確信に変わった「代替大会」

高校野球は2年半という短期で結果を残さなければいけないという切迫した事情があります。そして、目標が達成されたとしてもそれが当たり前になり、目標のハードルは高くなります。期待に応えれば応えるほど指導者を覆う精神的なプレッシャーも大きくなります。

これはどのスポーツ現場も同じで、分かっているようで気付いていない盲点だと感じます。

そんな中「代替大会」が開催されます。試合ごとの選手の入れ替えを可能にする独自の方式で、金沢監督は「選手全員を試合に出場させるため」の采配を振るいました。これは金沢監督の野球観からすると、考えられないことだったそうです。

それまでは、「メンバー組」と「練習補助班」に分け、「練習補助でもしっかり役割を果たすことでチームを強くする」という大義名分が念頭にありました。しかし、夏の代替大会を迎える過程で、メンバーと補助班の垣根を取っ払ったところ多くの選手の成長を見ることができたそうです。

「今まで、公式戦の試合に出したこともないような選手が二塁打を打って、セカンドベース上でガッツポーズをしているのを見た時は、本当に泣きそうになりました。『勝ちたい、勝ちたい』という想いだけが俺の全てやったんやろうな、と。試合中に選手を応援している自分がいたんですよね。試合の勝敗を度外視して闘いを楽しむ空間がありました」

大会中、全員出場が叶わないかもしれない窮地に追い込まれたときには初めてバッターのヒットをベンチで祈ってみたそうです。

「ベンチで祈るように見るなんて、こんなことは今まで経験したことがなかった。でも、結局は、これまでも選手は一生懸命頑張っていたけど、我々大人がその時間を削いていたのかな、と。教育ってこういうことなんやろなって」

決別からの着手

「代替大会」を終えて、これまでの方針を一変。練習休養日と選手自身だけで運営する練習日を設定しました。

「これには勇気がいりました。僕の中では休まないのが美学だくらいに思っていましたから。休みを作ったことはもちろん、選手たちだけで運営する日を作ったことで、選手と面談をしたり、対話する機会が増えました。そうすることで選手たちが自発的に考えられるようになりました。今までは僕が考えていたことを、キャプテンが先に選手たちに言い出すようになったり、変化が生まれてきたのです。」

とはいえ、選手たちが考える現在の方針には一つ問題が生じます。選手が考える力と試合で勝つ力は同時並行では培われないということです。事実2020年秋の県大会では2回戦で敗れている。主体性を育んで、チーム力に繋げるには少し時間がかかる。

「秋の大会が終わったくらいから強くなりました。全然負けてない」
「バランスを取ることが指導者には必要なんだということなんです。考えるようになったのは月日が経っても価値が下がらないものが、我々の取るべき教育、指導なのかな、と。目標は日本一ではなく、真の日本一です。」
「今の指導スタイルで甲子園に行ったら、これまでに負けへんくらいのチームになっている気がする」

感想

スポーツ指導はジレンマが付きまといます。「勝つことか」「全員が成長することか」というチーム指導のジレンマです。でも、その中で最適解を導き続けることが僕たち指導者の役割なんだと改めて感じます。

コロナはスポーツ指導に変化をもたらしてくれました。そして大会のレギュレーションによってさらにスポーツ指導の目的や喜びや楽しみを見つけることに繋がったと思いました。

今後益々スポーツ界がよりよい変化をしていくには、大会運営を変えていくことが一つの手段かと2章【「甲子園」に取り憑かれた鬼軍曹の改心】にて捉えた次第です!

にしても金沢監督の変化に脱帽します。人は変わることが難しいですが、指導者界のトップを走る方が変化したことは多くの方の影響を与えたと思います。

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