バッタの日

今回の話題は、ほぼ完全に記憶に基づくものなので、記憶違いや思い違いがあるかもしれません。ただ、これも記憶だが、参考文献名は覚えているので、一応、明記しておきました。文献は自宅の押入れ奥に埋蔵されていて、確認のために発掘するのもたいへんな作業なので。

さて、しばらく前のニュースで見たのだが、アフリカでバッタが大量発生して、草木や田畑の作物を食い荒らしながら大移動をし、いまやインドの首都ニューデリー近くまで接近しているのだという。時々アフリカや中国などではこの手のバッタ(イナゴ)の大発生が起き、甚大な被害を与える。子供のころに見た、中国を舞台にしたパール・バック女史原作の「大地」という映画でも、バッタが大発生して作物に大被害を与えるというエピソードがあった。生物はどれも、生活条件が好転すると、爆発的に大増殖することがある。神の祝福の言葉「産み増えて地に満てよ」を実践するわけだ。

バッタが大発生すると、過密状態になり、過密状態は強いストレスによって彼らを興奮させる効果がある。その結果、バッタの体色が黒っぽくなるなど変化して、ちょっとしたきっかけで一斉に飛び立ち、狂乱状態となって大暴走を始めるのである。これはもう彼らが疲れきってしまうまで飛び続ける。そして行く先々で草木や作物を食い荒らして甚大な被害を与えるのである。

オクスフォード大の生態学者C・S・エルトン著「侵略の生態学」によると、中国の「万里の長城」が築造された隠れた要因のひとつが、じつはそうしたバッタの大発生によるものだったかもしれないというのである。

万里の長城が築かれたのは、いまのモンゴルあたりの内陸から、北方遊牧民族が度々中国へ侵入してきて、略奪を繰り返すので、その侵入を防ぐ防波堤にするのが目的だったといわれている。問題はなぜ遊牧民がそうたびたび侵略を繰り返したのかということなのである。

中国の古文書の記録によると、遊牧民の侵略はほぼ7年周期で繰り返されたそうである。別の古文書によれば、じつは中国内陸部では、やはり7年周期でバッタの大発生があったらしい。ここに興味深い一致がある。

遊牧民は、普段は羊やヤギや馬といった草食の家畜を飼育しながら移動する牧畜生活を送っているわけである。そこにバッタの大量発生が起こるとどうなるか。飼育動物たちのエサとなる草原の草が、バッタに食い荒らされてしまう。エサ不足に陥った家畜は、栄養不足で衰弱したり餓死したりして、遊牧民たちの生活も立ち行かなくなってしまうだろう。切羽詰った彼らは、生き延びるため、否応なく中国へ侵略して、略奪を働く。そこで防波堤を築こうとなるわけである。

自然の猛威というのは、ときに歴史にあとを残すほどのものとなる。今回のコロナウィルスのパンデミック(感染爆発)も、確実に歴史に残るものとなるだろう。

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