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フィッツジェラルドの小説に登場するような

まえがき

1985年出版自著「グラビア文学」から
ご紹介しています。

1974年創刊の総合男性誌『GORO』
掲載分(1981年7月)です。


本文

フィッツジェラルドの小説に登場するような
ファッショナブルな女ではない。

アーウィン・ショーが描く小粋な
ミス・ニューヨーカーともひと味違う。

どちらかといえば、
レイモンド・チャンドラー好みの女
といったほうがいい。

冷たい銃床。
黒いシームの入ったストッキング。
そしてオールドファッションド・グラスに
無造作につがれたウイスキーと
男の汗をすいつくした
古いトレンチコート。

令子には、
こんなハード・ボイルド・グッズが
よく似合う。

時間的には昼から夜へと
地球が傾斜するときがいい。

そして、晴れよりは曇天。
願わくばスーティンの
絵画の世界にでもいるような、
霧雨がときおり頬をなでさするていどに、
路上を濡らす天候がよい。

夏といえば、やれ海だ太陽だと
はしゃぎまわる筋の男には
令子は似合わない。

時代がかった話かもしれないが
令子を迎えに行くときは
黒塗りのリムジンで、
タキシードを着こんでいくぐらいの
こころ配りはしてほしいものだ。

行く先は海岸通り沿いの
白亜のクラブ・ジャクリーヌ。

世間話などまるで無関係の静寂のなかで、
とぎすまされた神経だけが
行きかう雰囲気が、そこには存在する。

令子の細い指でもてあそばれている
一本の煙草から、
煙が宇宙空間に流れていく。
まわりにいるマネキン人形のような
男と女。

そんな風景のなかで、
令子は輝きを増して、
男の眼に焼き付いてくる・・・・・・。



最後までお読みいただき
ありがとうございました。

田口道明のプロフィールは「こちら」から

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