論理の構造化 #48
組織におけるコミュニケーションの重要性については、以前お話しました。
では、その組織におけるコミュニケーションにおいて、特に押さえておくべきポイントはなんでしょうか?
今回はその点について考えてみたいと思います。
1.コミニュケーションの目的
ビジネスにおいて、自分の要望だけを伝えるコミュニケーションは稀だと思います。
通常は、受け手に理解・行動してもらう、さらには第三者に対しても説明責任が果たせるようにしてもらうために(受け手が別の第三者に説明することを想定)、明確に理由を説明し、納得してもらうことが必要になります。
ビジネス上の主張は、提案、指示、通達、依頼などの形で他人(上司、同僚、部下、取引先、一般消費者、監督当局など)に伝えることになりますが、それには説得力のある(=言っていることが明快で、納得できる)コミュニケーションが必要であり、以下の要素が不可欠となります。
①「聞き手(受けて)が知りたいこと」にダイレクトに答えており、かつ明快である
②反論の余地が生れてしまうような、論理のヌケ・モレ・見落としがなく、全体の枠組みに納得感がある
③単なる事実の羅列ではなく、イシュー(問い、命題、考えるべきこと)に向かってそれぞれの事実から何らかの意味合い(解釈)が引き出されており、かつ、解釈を裏づける正しい根拠が整理されて示されている
2.論理の構造化
自分の考え・主張を他者に説明する場面においては、「論理を構造化」して納得性を高めていく必要があります。
上記の説得力のあるコミュニケーションに必要な3つの要素の中では特に②と③の場面が「論理の構造化」の主眼となります。
「論理の構造化」とは、自分の主張や要望の理由付けを分かりやすく説明するために行うものであり、通常、演繹的論理展開、帰納的論理展開を組み合わせて「ピラミッド型」に整理します。
そうすることで、相手にも分かりやすくなり、また自分の思考の完成度のチェックもしやすくなります。
これを「ピラミッド・ストラクチャー」といい、論理性を重視し、かつクライアントの意思決定を支援するコンサルティングファームなどでは、ライティングの標準的なスタイルとして用いられているようです。
「ピラミッド・ストラクチャー」とは、以下のような論理の構造をピラミッド型に可視化したものをいいます。
このピラミッド構造は、メインメッセージである言いたいことの「結論」を頂上に置き、それを支える「根拠」であるキーメッセージを順次その下に配置していく構造になっています。
これにより、相手に明確な根拠を示しながら、言いたいことが言えると同時に、相手も理解しやすくなります。また、自分の考えの論理性もチェックすることができます。
以下は、「A社の株に投資すべきか?」というイシューに対する言いたいこと(結論)のピラミッドストラクチャーの例となります。
3.ピラミッド型に構造化する手順
ピラミッド型に「論理を構造化」する際には、一般的に以下のような手順・ステップを踏みます。
まず、①の「イシューの特定」が重要になります。そもそも、何に答えるべきなのかがズレていれば、その後の主張も全てズレていくことになるので、特に注意が必要です。
次に、②の「考える枠組み」を考えますが、その際には、「何に答えればその問いに対して答えたことになるのか」の考慮・判断すべき事柄の論点セットを抜け漏れなく押さえていくことが大切になります。この段階で論点に抜け漏れが出てくると、受け手に「あの点については検討したのだろうか」という疑問を持たれ、主張の説得力がダウンしてしまいます。
③は「結論」を導き出すと同時にその「根拠」を明らかにしていくステップです。論点ごとに分析・解析した情報に対して「So What?(だから、何が言える?)」と問いかけ、キーメッセージを導き出し、そのキーメッセージの集まりからメインメッセージ(結論)を導き出していきます。
しかしながら、この段階のキーメッセージやメインメッセージ(結論)は仮説となっていることも多いので、論点の情報を再整理しながら、キーメッセージやメインメッセージ(結論)とそれを支える根拠としての論点情報とを結びつけながら、「Why?(なぜ、そう言えるのか?)」「True?(本当にそう言えるか?)」と問いかけて、メッセージに対する論理構造をチェックしていきます。
以下が、作成手順を整理したものになります。
事例として、「A事業からの撤退の是非」をイシューとしたピラミッドストラクチャーを以下に示します。
メインメッセージ(結論)の根拠については、3C(市場、競合、自社)の論点で枠組みを、さらにその下の論点については、例えば、市場においては、マクロ(規模、成長性)とミクロ(顧客層)という論点で枠組みを考え、全体としてMECEとなるように論理を構造化しています。
このように、「メッセージを根拠がしっかり支えている」という感覚が大事になります。
4.「主張とその理由づけ」に汎用的に求められる要件
どのピラミッドストラクチャーでも「主張とその理由づけ」に汎用的に求められる要件は、以下のとおりとなります。
これらを意識することで、より論理的な主張となり、説得力を高めることができると思います。
① 伝えたいこととその理由に整合性がとれていること
(チェックポイント)
☑︎伝えたいことと根拠との関連性が薄くなっていないか
☑︎受け手にとって妥当性に欠けるものが理由となっていないか(主観や個人的な経験など)
☑︎根拠としての具体性に欠けていないか(ビッグワードでは説得力は低くなる)
☑︎具体例が主張とずれていないか
② 伝えたいことを説明するために必要な要素が過不足なく導き出されていること
(チェックポイント)
☑︎根拠となる要素に漏れがないか
☑︎フレームワークが押さえられているか(「守破離」を意識)
上記のことは当たり前のことだと思われるかもしれませんが、意識していないと自分では大丈夫だと思っても受け手はそう感じないことがあります。
したがって、いつもこれらの要件が満たされているかをしっかりチェックする姿勢が求められます。
5.ピラミッドストラクチャーのメリットと応用
ピラミッドストラクチャーのメリットは大きく2つあると思います。
<ピラミッドストラクチャーのメリット>
① 本人が、論理の妥当性をチェックしやすくなる
② 考えを伝えられた人が、相手がどのような論理に基づいてその結論を出したのか、容易に理解できる
また、ピラミッドストラクチャーの応用としては、次の点が挙げられます。
<ピラミッドストラクチャーの応用>
頭の中で論理展開がピラミッド型に構造化されていると、そのままあらゆる表現形式に落とし込むことができる
メモやレポートといった文書だけでなく、プレゼン資料のようなスライドやスピーチなどにもすぐに転用が可能である
ピラミッドストラクチャーを文章化するときは、適切な接続詞を補って、読み手に各情報の関係をより分かりやすく伝えることを心がける必要があります。
6.具体例
以下の金城君のメールをピラミッド型に「構造的」に書き直すという事例を考えてみたいと思います。
●金城君のメール
以下のような事実からもうかがい知れるとおり、わが社の近年の新商品不発は構造的な問題であり、何らかの対応策を打たない場合、競合にさらなる後れを取ることは必至です。
① わが社が近年発売してヒットした新製品の実に8割は、ユーザーからの声や不満がきっかけとなっている
② 当社の「顧客相談窓口」には、マーケティングのわかる人材が配置されていない
③ 顧客の生の声は、主にアンケートハガキで吸い上げている
④ それ以外の顧客情報は、主に営業担当者へのヒアリングによっている
⑤ 当社の「顧客相談窓口」では、クレームは大きなもの以外はその場で処理され、他部門に報告されない
⑥ 顧客の要望や購買パターンは、かつてないほど多様化している
⑦ 競合のX社は、「お客様相談センター」を抜本的に組織改正し、経営資源の重点配分を始めた
⑧ Y社は大々的に、顧客の声を載せる掲示板をウェブ上で開始した
⑨ 顧客ニーズの変化の速さはすさまじい
⑩ 不発に終わった当社製品の大半は、開発部門の独りよがりの思い入れ製品である
このメールの内容では、10もの項目が列挙されているため、どこがポイントか分かりづらくなっています。また、このままだと重要な見落としがあるのではという心配も出てきます。
ですので、前述のピラミッドストラクチャーの作成手順に従い、ピラミッド型に論理を組み立て、それをメモ化することで修正することを考えます。
修正メモとオリジナルのメモとで、どのように変わったでしょうか。
●金城君のメールの修正メモ
顧客とインタラクションし、マーケットの生の声を吸い上げる仕組みを、至急強化すべきです。
■ これまで以上に顧客の生の声を吸い上げ、それに対応できる仕組みが必要です。
製品開発には顧客の声を反映させることが必須であることは言うまでもありません。たとえば、わが社が近年発売してヒットした新製品の実に8割は、ユーザーからの声や不満がきっかけとなっていますし、不発に終わった当社製品の大半は、開発部門の独りよがりの思い入れ製品です。その一方で、顧客ニーズを的確にとらえることは難しくなってきています。顧客の要望や購買パターンは、かつてないほど多様化していますし、顧客ニーズの変化の速さはすさまじいからです。
■ 顧客とのインタラクションの仕組みづくりに力を入れ始めた企業が目立っています。
競合X社は、「お客様相談センター」を抜本的に組織改正し、経営資源の重点配分を始めました。Y社も大々的に、顧客の声を載せる掲示板をウェブ上で開始しています。
■ 顧客とインタラクションする仕組みが十分にできていません。
わが社の「顧客相談窓口」は、戦略的に活用されていません。たとえば、マーケティングのわかる優秀な人材が配置されていませんし、クレームは大きなもの以外はその場で処理され、他部門に報告されません。かつ、わが社の顧客とインタラクションは限定的なものになっています。顧客の生の声を吸い上げているのは主にアンケートハガキであり、それ以外の顧客情報は、主に営業担当者へのヒアリングによっています。
7.まとめ
ビジネス上のコミュニケーションにおいて必要な「論理の構造化」についてのまとめです。
①ビジネス上のコミュニケーションに必要な要素
• 「聞き手(受けて)が知りたいこと」にダイレクトに答えており、かつ明快である
• 論理のヌケ・モレ・見落としがなく、全体の枠組みに納得感がある
• イシューに向かってそれぞれの事実から何らかの意味合い(解釈)が引き出されており、かつ解釈を裏づける正しい根拠が整理されて示されている
②論理の構造化
• 自分の主張や要望の理由付けを分かりやすく説明するために行う
• 演繹的・帰納的論理展開を組み合わせて「ピラミッド型」(ピラミッドストラクチャー)に整理する
③「主張とその理由づけ」に汎用的に求められる要件
• 伝えたいこととその理由に整合性がとれている
• 伝えたいことを説明するために必要な要素が過不足なく導き出されている
④ピラミッドストラクチャーのメリット
• 本人が、論理の妥当性をチェックしやすくなる
• コミュニケーションの相手方が自分の主張の論理を理解しやすくなる
以上、ビジネス上のコミュニケーションの参考にしてください。
参考文献・引用:
「[新版]MBAクリティカル・シンキング」グロービス(ダイヤモンド社)
「MBAクリティカル・シンキング コミュニケーション編」グロービス(ダイヤモンド社)