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FP&Aの役割と機能 #57

今回は、これからの企業経営において重要な存在になると思われるFP&A(Financial Planning & Analysis)の役割とその機能について考えていきたいと思います。

米国系の企業やグローバル企業等では、CFO(Chief Financial Officer)の下に「管理会計」や「経営管理」のプロフェッショナルとしてのFP&Aを置くことが一般的だと言われます。

〈管理会計による経営管理のイメージ〉

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※「CFO最先端を行く経営管理」P162

FP&Aとは、経営・事業チームの一員として企業の財務に関する中長期的な計画の立案や業務管理のために必要なデータの集計・分析・予測などを行い、企業の意思決定および業績目標達成を支援する職種・機関です。

簡単に言えば、企業内で経理・財務の知識・スキルをベースにして、「経営管理」を行う、または支援する職種・機関のことです。

FP&Aは、財務会計・管理会計・コーポレートファイナンスの知識・スキルだけにとどまらず、ビジネスモデルを理解し、デジタルスキルを駆使すると共に、人をモチベートして結果を出すソフトスキルも求められる非常に難易度の高い業務だと言われています。

実は日本の企業には基本的にこのFP&Aに相当する職種・機関はありません。

もちろん、これは日本の企業が「管理会計」や「経営管理」をしていないという意味ではなく、FP&Aのようにこれらを一元的に管理している職種・機関がないということです。

日本の企業では「管理会計」は主に経理・財務部門が担っていますが、一般的にその他の部門においても「管理会計」に用いるKPI(Key Performance Indicator)を所管していることが多く、「管理会計」が複数の部門にまたがって行われているのが通常だと思います。

また、「経営管理」については、主に経営企画部門が担っていますが、経営企画部門では、役員に対する秘書的業務と中期経営計画の策定や予算編成業務などの経営管理的業務の両方を行なっているのが一般的で、その中でも社長室のような秘書的業務の比重が大きくなっている場合も多いように思います。

この日本企業の経理・財務部門を中心としてその他の部門にも分散している「管理会計」と経営企画部門の行う「経営管理」の両方の機能を有するのがFP&Aという職種・機関と理解してもらって良いと思います。

このようにFP&Aは、戦略立案や計画策定から関わり、予算編成と進捗管理、戦略実施状況のモニタリング、事業部または機能別組織に対する業務遂行サポートまでと経営管理全体を取り仕切っています。

前述の通り日本の企業では、これらの機能は経営企画部門や経理・財務部門、あるいはその他の部門に分散され、さらに経理部門は決算業務の機能も担っているので、より非効率な状況が生まれています。

ちなみに、米国系の企業やグローバル企業には、日本企業にあるような経営企画部門に相当する組織はないようです。

FP&Aの担当者は、「ファイナンシャル・コントローラー」と呼ばれ、本部だけでなく、各事業部・部門にも配置されています。

FP&Aは、会社の隅々まで神経系統を張り巡らし、会社全体の「管理会計」に関わる業務を取り仕切り、各事業部・部門の業務執行をサポートすると共に、これらのコントローラーを本部のCFO部門のコントローラーが統括することで「経営管理」を行なっています。

〈FP&A組織のイメージ〉

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※「CFO最先端を行く経営管理」P114、115

個々のコントローラーは、具体的には「マネジメント・コントロール・システム(MCS)」を用いて業務を行います。

MCSとは、

①計画とコントロールに関する意思決定を行い、②従業員を動機付け、③業績を評価するために、情報を収集・利用する技法の論理的な体系

と定義されます。

MCSの目的は、「組織目標の達成」にありますが、 やるべきことを整理すると、以下の4つにまとめることができます。

1. 組織の目的を明確に伝達する。
2. マネージャーや従業員が、組織目的を達成するために自分たちが要求されている特定の行動について理解できるようにする。
3. アクションの結果を組織に伝える。
4. マネージャーや従業員が組織の目的を達成できるように動機付ける

〈MCSの概念図〉

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※「CFO最先端を行く経営管理」P140

個々のコントローラーの役割は、この「MCSを設計し、運営すること」にあると言えます。

FP&A組織のメリットは、FP&Aが各事業部・部門に積極的に関与することで、それぞれの戦略実行や事業計画に基づくKPIが会社全体の財務諸表にどう影響するのかが、当該部門長や担当者に理解されやすくなり、双方の関連性を高めることができるようになることがまず挙げられます。

特に複数の事業を行なっている場合は、その効用は高いかもしれません。

また、各事業部・部門に対して、財務目標に直結する行動を促し、部分最適から全体最適への意識転換、それぞれの部門長の経営者意識の醸成などに繋がる等のメリットもあると思います。

つまり、FP&Aが全体をコーディネートすることによって、より業績の向上、企業価値の向上に繋がりやすくなるということです。

日本においてもかつてこのFP&Aの導入が検討されたことがありました。

1950年代に通商産業省によって、アメリカ式の事業部制とコントローラー制度を日本企業に導入する試みがなされました。

具体的には、アメリカで発展してきた「管理会計」を導入するため、1951年に『企業における内部統制の大綱』、1953年に『内部統制の実施に関する手続き要領』 の答申が通商産業省の産業合理化審議会から出されました。これらの答申では、 コントローラー制度の確立、内部統制組織の整備、予算統制の導入など、 米国管理会計の導入が強く推奨されました。

しかし、この通商産業省による度重なる答申にも関わらず、コントローラー制度は日本企業に根付きませんでした。

当時は導入に対して経理部からの反発があった一方で、経営参謀役設置への要望などにより常務会が設置されると共に、ゼネラル・スタッフとしての経営企画部門がトップ・マネジメントの経営全般にわたる機能を補佐するものとして発展したことがその理由だったようです。

また、日本では株式等の直接金融よりも間接金融のメインバンクシステムが中心であっため、財務会計が企業経営の指針としてそれほど重視されなかったこともその背景にありました。

BSよりもPLの方を意識する文化もこのようなことが影響しているのかもしれません。

しかし、今後はFP&Aの存在が日本企業においても必要になると思います。

現代は多くの事業がグローバル競争にさらされており、これまでのような非効率な企業運営では、効率性を重視しているグローバル企業との競争に勝ち抜くのは難しくなります。

何より、経営目標、財務目標、戦略、計画、組織体制は一体であるべきで、環境変化が激しく、その上成熟経済下というこれまで以上に企業運営が難しくなっている現代においては、これらの整合性をより意識しなければ組織目標の達成は困難になると思われます。

今後は日々の環境変化を捉え、「管理会計」に基づき会社全体の状況を把握し、実施状況と経営目標とのズレを早期に発見して、すぐに軌道修正を図るなどの「経営管理」の取り組みが重要です。

その役割を果たすFP&Aの需要は大企業、中小企業問わず今後益々高まっていくと思います。したがって、早期にFP&A組織の体制構築を行うと共にFP&A人材の獲得・育成にも取り組んでいく必要があります。

参考文献:
「CFO最先端を行く経営管理」昆政彦、大矢俊樹、石橋善一郎 著(中央経済社)


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