要するに、デザインはビジネスに不可欠!ってことです。【Web30年史】2015-16
デジタルデザインの未来をWeb30年史から考える。今回は2015年〜2016年ごろの出来事を中心に振り返ります。
デジタル広告は当たり前に。広告ではない領域も大きく成長し始め、Digital Transformation(DX)といった言葉や〇〇Tech という活動も大きくなり、デジタルデザインの場はどんどん広がっていきます。AIも活発になり、オンライン・オフラインの垣根がなくなり、自動運転などのセンサー技術がどんどん進化。デジタルデザインも品質と魅力の総合的なクオリティを求められ、対応するための技術や考え方も進化します。
生活の中でWebやネットの比率が高まるにつれ、倫理との戦いが始まりました。キュレーションサイトの大量閉鎖、フェイクニュース、プライバシーなどの問題が起こりました。
その頃FOURDIGITは…
FOURDIGITはこの頃、人材派遣会社の事業買収などが終わったころ。デジタルデザイン事業も成長し、手を広げた事業と子会社も増えましたが、次の組織としての方向性の転換を考え始めていました。社内のゴタゴタが起こったり、落ち着かない日々でした。
インタラクティブはもう称賛されない?
2000年前半に始まったインタラクティブ広告を称える賞の数々が、この時代に影を潜めていきます。
一時期はWebに関わる人たちの栄誉の一つであった、Tokyo Intaractive Ad Award は別のアワードに移管され、Yahoo! Interactive Ad Awardも2015年に役割を終えて幕を閉じています。
2015年にモバイルのトラフィックがPCを超えます。スマホの普及が進み、モバイルでインターネットを見たり検索したりするようになりました。
想像に難くないですが、この時代では以前のネットサーフィンのように、インターネットをなんとなく回遊するというのはありません。「何かを探すため」「情報を得るため」「(予約とか購買とか)はっきりした目的のため」。なんとなく見るものはすべてSNS(FacebookやInstagramやTwitter)やYouTubeになりました。なんとなく見ている人たちを引きつけるためのクリエイティブやインタラクティブといった要素の出番はほとんどないわけです。
もう一つ、インパクトを生むものが、もはや画面上の表現ではなくなってきたことです。2000年当初のWebはまだ目新しくて、PC上で新しい表現をすることそのものが興味を引く対象になっていた。今はどうでしょうか。デジタルが当たり前になった人たちに、スマホをいじってSNSを使いこなしている時代に、こんな表現できるよ、といっても「別に…」ってなります。気持ちを動かす場所は、画面上の表現だけでは厳しくなります。
こういった要因によって、WEBの表現だけを称えることの重要性が下がってしまったのでした。
Flashの終わり
同時にインタラクティブの時代を支えていたFlash技術もWeb標準の技術に移り変わり、完全に終焉を迎えます。2020年にサポートも終了するという決定もあり、FlashやFLEXでの構築されたアプリケーションやコンテンツを作り替える必要がありました。
ただこの時代ではすでに、Web標準技術が進んでいて、HTML、CSS、JavaScript にて構築やリプレイスすることが可能になっていました。Adobeもそれを見越してお役目の終了を決定、2017年に発表をしたように思えます。
FOURDIGITもFlashコンテンツをHTML5で書き換えるという案件に携わったことがあります。Flash時代は2004年ぐらいから始まり約10年ほどの期間、Webコンテンツをメインで支えてきたものだったので、担当したFlash to HTMLコンバート案件もボリュームがめちゃくちゃ多かった。こういった事案は業界の各所で一時的に起こったことでしょう。
画面の外にあるテック
インタラクティブ表現がということだけでなく、技術やビジネスやソリューションも、単にWebサービス、Webアプリ、というだけでなく、画面の外につながっていきました。〇〇Techという動きも相まって、アプリで決済、アプリでポイント、アプリで〇〇……、生活にまつわるあらゆるところで、主にスマホアプリでの活用が増えていきます。
Google Home
Apple Wacth をはじめとするウェアラブルデバイスも浸透していきます。スマートスピーカーの音声アシスタントなども発売されていきました。
もはやスマホを使わなくても声で天気も分かるし音楽もかけられる。デバイス競争と音声認識などの基礎技術競争は激しくなりました。
特に第三次AIブームでAIが実用化されていく中で、Google、Siri、Amazonのアレクサ、などが実際に活用されていきます。音声インターフェイスを使いこなしている人がどのぐらいいるのか知りませんが、まだちょっと空中に向かって話してる感じが不気味ですよね。
テレビでOK Google!って叫ぶCMが話題になったり、色々とカオスなことも起こりましたが、人にとって馴染み深い声が操作に使われるという進化はわかりやすい。
Go Go Go
世の中に衝撃を与えたGOもありました。一つ目は、AlphaGOです。
今までは、チェスで人間に勝った事例がありましたが、囲碁の世界チャンピョン(人間)にAIが勝利しました。AI=人工知能なので、勝手に考えて勝つわけです。
人間の思考力や想像力も含めて、特定のルールの中ではAIに敵わないように思えた出来事でした。何か特定のフレーム、繰り返しやルール化しやすいものは、すぐにAIにとって変わられてしまう、ということを突きつけられたように思えます。
一度は聞いたことあると思いますが、「AIで、なくなる職業」みたいなものがバズりはじめました。
次のGOは、Amazon GO です。
無人のショップ・コンセプトがAmazonからリリースされました。Amazonのアプリは今やほとんどの人が持っています。入店管理やセンシング、決済技術を活用して自動化し、入店して勝手に商品を持っていくと買ったことになるリアル店舗ができました。
EC体験のスムースさをリアルに落とし込むとこうなる、というモデル。この頃すでに、お店に行って買うよりもAmazonの方が楽、という人も多かったと思います。
最後のGOは、ポケモンGOです。ポケモンGOの流行はすごかったですね。
今までの位置ゲームを完全に塗り替えた感じがします。実態はGPS情報とスマホゲームの組み合わせでしかないけれど、これだけ人を移動させたゲームはなかったと思います。社会現象にもなり、鳥取砂丘に人が集まる、名も無い公園にうろつく人たちなどが出現しました。
ちょっと余談ですが、インターネットが5000万ユーザーを獲得するのにかかった時間は約7年だそうです。ポケモンGOは5000万ユーザーまで13日。情報の流通スピードと普及の速度、デリバリーのインフラがここまで整ったと言えます。5000万人という国レベルの人口が、13日で同じアプリをインストールして、同じ遊び方ができる時代。なんということでしょう。
デザインのあり方も変化
Web標準技術の発展と、目的の中心が情報取得と使用になると、デザインのあり方はより進化した役割分担が見えてきます。人の興味を引かなければならない領域は広告やそれにつながるデジタルマーケティングの活動に集約され、使用と継続させる領域はUI/UXデザインやカスタマーサクセスの活動に寄っていきました。
さらに、デジタルデザインとはいえビジネスの一部なので、何に対して必要になのか、どういう効果を出せばいいのか、という部分が重要です。ビジネスにおける成果を目指して行くわけですが、いわゆるデザインの「良いもの」という定義は難しくなり、多様になっていきます。
DXのように、デジタルをどうビジネスに活用するか、という問いに立つと、個別最適でなく全体最適や戦略性が求められていきます。全体最適のデザインは、ビジュアルやUIでなく、UXデザインやグランドデザイン、サービスデザインという形で求められていきました。
つまり、デザイナーが経営やビジネスのあり方そのものに関わっていく、ということです。
FOURDIGITも様々なプロジェクトに広がり携わっていきました。コーポレートブランディングという色合いが強かったJALコーポレートサイト、マーケティング文脈との接続が求められmountさんと構築したTOYOTAサイト、サービスデザインやUXデザインなどに比重が強かったイギリスの電力実験PJなど。
それぞれ、WebサイトやWebインターフェイスというアウトプットですが、その中身も目的も担当部署も予算も色合いも全く異なりました。
UXデザイン?それはデザインのことでは?
“UX”や”デザイン”という言葉に変な期待があったり、捉え方がバラバラだったのが顕著だったもこの時期だったと思います。相変わらずUXはバズワードでしたが、デザインはビジネスで重要!と分かりやすく提唱したのが、ジョン・マエダでした。
SXSWにて彼は「Design in Tech Report 2015」を発表します。ジョン・マエダは、自身も素晴らしい実績を持っていて、MITメディアテックラボを率いたり、デザインとテクノロジーの融合については第一人者と呼べるオピニオンリーダーです。
SXSWは、デザインやテック、アートなどに関わる人たちが集まる一大フェスで、そこで発表したのが、このレポートです。
要約すると
・14社のデザイン会社が買収されてるぞ
・共同創業者にデザイナーがいるチームのスタートアップはアツいぞ
・デザインは金になる=ビジネスとしての成長キーだ
・DESIGN / TECH / BUSINESS の融合が重要だ
・素晴らしいデザインは、(いわゆる)デザインだけじゃないよ
デザインが、クラシカルなビジュアルデザインとして捉える考え方は今でもありますし、見た目のことを「デザインが……」という言い方は表現として定番です。
ただ、ジョン・マエダが言いたいことは、デザイン・デザイナーの役割がビジネス上大きく必要不可欠になっていること。
創造性やアイデアを持ちデザインだけでなくビジネスとテックとデザインを融合できるデザイナーの価値が高いのである、ということでした。
これは今に始まったことではなく、昔からデザインはビジネスにおいて重要な位置を占めます。企業と顧客の結びつきにおける良いストーリーこそが、事業推進やブランド価値に帰結するからです。
しかし、いわゆるクラシカルなデザイナーができることと言えば、コンセプトや方向性を定め、最終的にビジュアルデザインの品質を高めることだけでした。それでもインパクトを与えることができていたデザイナーは本当にすごいと思います。
段階的にじわじわと顧客の接点はデジタルが中心に変わり、企業と顧客のストーリーは、デジタルのタッチポイントで積み上げられます。
ジョン・マエダのセッションで伝えたいことは、デジタルプロダクトやデジタルのコミュニケーションを担うDesign in Tech がこれまでになく重要性を増して行く。ビジネスソリューションとしてのデジタルデザインは、顧客体験のほとんどを占めちゃうよ!ということです。
2009年のティム・ブラウン『Change by Design』や、2010年のISO9241-211の定義などに続いて、ジョン・マエダによって、リアルな実績がレポートされたことによって、ビジネスにデザインが大事!という色合いが濃くなっていきます。そして、デザインとテックとビジネスを融合したところにデザインの価値が最大化するのだ、という認識が広まっていきます。
フェイクニュースとキュレーションサイト
今までの流れの中でもありましたが、世の中の既存メディアとインターネットの情報のあり方が変化していきました。
Webはすでに民主化されて、情報はユーザーが自由に発信する。誰が何を発信してもいいわけですし、嘘や冗談を書いたりしても、あくまでも個人個人の自由です。
検索エンジンは、できる限り有益な情報を重要だと思われる順序で提示します。順位の表示ロジックは公表しないけれども、大枠の方針は公表されていました。
キーワードの出現割合とか、タイトルだとか、全体でどのぐらいのボリュームでコンテンツが作られているのか、など。あくまでプログラムが判断するため、なんらかのロジックがあります。
一時期のブラックハットSEOの進化バージョンで、このロジックを悪用する人たちが登場します。
残念なことに、アプリゲームで大きくなりメガベンチャーとして成功していたDeNAのメディアでした。WELQという医療系のメディアは人の健康にも関わる医療系の情報でありながら、信憑性や第三者の確認も無視して大量に記事を生産していました。
不当なやり方であることも認識していたにもかかわらずメディア運用をしていたことも判明してしまった。
トラフィックを稼ぐことはビジネスとして重要なのは当然ですが、中身でなくSEOを重視するあまり一線を超えてしまった例です。
Webの情報の信憑性を疑うような出来事は、2016年のアメリカの大統領選でも起こります。
〇〇がトランプ氏を支持!といった記事がそれっぽく量産され拡散してしまいます。インパクトがありセンセーショナルなフェイクほど、タイトルだけで拡散してしまったり、内容や事実を確認する前に広がっていきます。
フェイクニュースを拡散したと疑惑をかけられたトランプ氏は「ネットの情報はすべてオピニオン(意見)」と言い切ってしまった。
事実を事実として証明するのは、本当に難しい時代になってしまいました。そして、風評が一度流れたら、事実よりも強いインパクトが出ちゃうのも特徴です。
Webの情報にフェイクが含まれているからといって、Webの活用やコミュニケーションが止まることはありません。
2017年にはニュース閲覧の手段は、Webがトップになりました。
情報は新聞やテレビに変わってWebやアプリで取得します。ただし、正しい情報かどうかは、ユーザー側で判断しなければなりません。そして、その真偽の判断はどんどん難しくなります。時にはまるで本物が喋っているように見えるディープフェイクの技術が混ざっていることもあります。
様々な組織や国家的な動きも情報の信頼性というのは、とても重要なものです。情報の信頼性が失われるということは、社会に対して漠然とした恐れのようなものが生まれてしまいそうです。こういうのって戦争の前触れみたいで怖いですね。
今までもいろいろな事件がありましたが、インターネットの世界ではこういった出来事も重なって、なるべくクリーンでフェアにしていく流れが加速していきます。
次回予告
2017年にかけて、欧米から始まったデザイン会社への買収運動がどんどん広がっていきます。
すでにデザインはビジネスの中心的存在の一つになりつつあり、そのケイパビリティが着目されていきます。当然ながら、その波は日本でも広がり傾向をどんどん強めていきます。
デジタル活用のニーズに伴って、SaaSツールなども発展し、UIやビジュアルデザインがシステム的に構築される方法がどんどん進化してきました。