組織は「デザイン」の広がりに対応できるか? 【Web30年史】2021
「デジタルデザインの未来をWeb30年史から考える」。今回は2021年の出来事を中心に振り返ります。
引き続きのコロナ禍。リモートワークを一部または全社で取り入れる会社も増加していきました。リモートオフィスやオンライン会議ツールなどが当たり前になり、地方在住者の就労、対面営業の減少、コミュニケーションロスやメンタル不調者の増加など、メリット・デメリット両面で様々な影響が出てきました。
コロナ禍によるデジタルサービスの成長は、急速なデジタル人材需要を生み出し続けており、特に新規デジタルサービスの構築経験やBTD(ビジネス・テック・デザイン)を繋げることができる高度人材の需要増加が加速しています。
Facebookは、デジタルワールドの充実化を促進するためにメタバースに振り切ると宣言し、2021年10月に社名をMetaに変更しました。WEB3という概念が登場し、デジタルを中心とした資本主義の力学は変革の時期に入りそうな予兆がそこかしこにあります。そういえばオリンピックあったよね!
TOKYO2020(開催は2021年)
東京2020オリンピック。この言葉が晴々しい雰囲気を少し失ってしまったように感じるくらいには、東京オリンピックは色々な意味で色々あった。エンブレム問題・新国立競技場問題・史上初の1年延期・無観客開催・それに伴うチケット問題・関係者入国時の水際対策などなど。関係範囲は広く、デザイン分野も例外なく色々と絡んだし、すべての業界を巻き込んでほんと色々大変だった。しかし開催できる・できないというレベルの話から、最終的には選手たちのエネルギーがSTAY HOMEの部屋まで届き、世界を感動でつつみ勇気づけるなんて。ありがとう。
リモートワークの広がりとデジタルデザイン市場
新型コロナウィルスは2021年も引き続き人々の生活を大きく変えていきました。働き方改革という概念が浸透し、オフィスの解約、リモートワークへの切り替え、地方への移住など、「ニューノーマル」が進行していきました。
リモートワーク事例が増えたことで、成功例も失敗例も広く共有されるようになりました。それぞれにメリット・デメリットがあり、それを理解して選択すること、その選択に対応することが重要になってきていると感じます。
デジタル業界は引き続きコロナ禍の恩恵を受けることになり、デジタル分野の新規事業立ち上げやネットショップ開設などもかなり盛んになっていきます。デジタルデザイン会社も一時的にコロナショックを受けた企業は多くあったようですが、比較的早く立ち直り、2021年は安定して成長した会社が多かったように感じています。Goodpatch、サンアスタリスク、カヤック(クライアントワーク部門)、ORO(DX支援部門)など、クライアントワーク部門は総じて良い成績に着地したように見受けられます。
デジタルデザインマーケットは変化の多い年でした。2021年の初頭に、BirdmanがグループインしたAdotは、社名変更と1社統合を行い、株式会社Birdmanになりました。Web業界で多数の実績を誇るStudio Detailsは、2020年に上場したGoodpatchのグループに。アクセンチュアグループに入ったDroga5の東京オフィスが5月に開設。ベイジはクラスメソッドと資本提携。どれも業界内のインパクトは大きく、引き続き変化の最中。我々FOURDIGITもSHIFTBRAINと資本業務提携を行いました。M&A業界の方に話を聞く限りでは、デザイン会社へのオファーは増加傾向にあるとのことです。
広告クリエイティブ・デジタルマーケティング業界・デジタルデザイン業界・SI業界・テックビジネス業界、それぞれが類似する提供価値を持っています。互いに領域をせめぎ合いつつ、人材を奪い合いつつ、高付加価値が確保できる体制を作りながら、デジタルマーケット全体の成長に寄与していきたいです。
The War for Talent
2002年に書籍化されたマッキンゼー式ピープルマネジメントのタイトルです。どんな本か一言でいうと、「良い人材を確保せよ!よい人材を育てよ!」というものです。上記マーケットの話にも通じるところですが、この人材争いが一層広がってきています。体感値としてひしひしと感じている方も多いかと思います。
デジタルテクノロジーの広がり、世界を牛耳るほどの巨大企業の誕生、Winner Takes All、優秀なエンジニアは300倍〜10000倍の価値がある(300倍はGoogleの意見・10000倍はビル・ゲイツの意見)など…。ソフトウェアビジネスにおける優秀人材のレバレッジが最高潮に達すると、ハイレイヤー人材の獲得競争がどんどん激しくなっていきます。デジタルマーケットの拡大と人材ニーズのアンマッチは今後も起こり続けると予想され、人材獲得のためのあらゆる手段が生まれてくるでしょう。
デジタルデザインの世界にも、この波が押し寄せてきています。Business ・Technology・Designを掛け合わせることのできるBTD人材の価値は今までになかったほど高まり、デザインの考え方を理解していることはビジネスにおいても非常に重要視され、人材市場でも高いニーズがあります。ただしBもTもDもそれぞれ簡単ではないジャンルのため、ニーズがあるにせよ実際に経験がある人がほとんどいない…という状態になっています。そういったハイクラス人材はフリーランス化し、数々の会社の仕事を掛け持つことも当たり前になりました。ハイクラス人材だけでなく、デジタル人材は広く不足しています。転職の活性化、フリーランス化、副業化、リモートによる地方の人材活用などもさらに発展していくと予想されます。同時に社内教育や人材育成もますます重要視されるでしょう。デジタルサービスの開始と継続のための内製化が次のテーマになると考えられます。
公共は変われるか?
デジタル庁の発足をはじめとした公共のデジタル施策は、コロナ禍で大きく前進しました。公共サービスのオンライン化が一気に進んだ印象です。同庁によると、コロナ対応関連だけでなく、あらゆる行政サービスを変化させていく予定だといいます。
先日、デジタル庁の方が登壇するオンラインセミナーを拝聴しましたが、ステークホルダーの多さの中でスピードを出すのが大変、という趣旨のことをお話しされていました。
フォーデジットも公共のプロジェクトに参画していますが、ステークホルダーの多さやスピードが必要というだけでなく、届けるべきユーザーの違いを大きく感じます。災害対応や虐待防止などのプロジェクトでは、「1人でも取り残さないように」という観点になります。マスの中からユーザーを獲得する営利サービスとは違う、公共ならではの視点が必要とされます。
これらを踏まえて、すでに実行フェーズに突入しました。本当に公共は変われるのか?国民のニーズを満たし費用対効果を達成する、インフラ・セキュリティ・アーキテクチャ・デザイン・サービスは生み出せるのか。そして地方を支えている自治体は、デジタル化することで雇用の問題も発生するでしょう。デジタル円をはじめとする国家による公共サービスのデジタル化は、新しい業界変革を起こしそうです。
AR / VR
FacebookがMetaになり、メタバースとVRの世界は大きく注目を浴びました。MetaのVRコミュニティ「Horizon Worlds」は2021年、100倍に成長したそうです(2022年2月30万ユーザー)。かつて2016年に1600万アカウントを突破した「Second Life」に比べるとまだまだ数は少ないですが、VRのハードウェアがまだまだ浸透しきっていないことを考えると可能性はありそうですね。
ARではポケモンGOが有名ですが、現実との混じり合いが始まっています。ナイアンテックは明確に「メタバースはディストピアへの入り口にもなりうる」と警告しています。
マイクロソフトのHoloLensは、現実拡張ARでリアルワールドとバーチャルワールドの行き来ができるMR(Mixed Reality=複合現実)デバイス。さらに、NFTに代表されるブロックチェーンの活用はバーチャルワールドの通貨やアイテムの価値を維持するための基盤となり得ます。これらの技術革新が融合されて、分散型であるWeb3の概念がベースとなった世界観が作られていくのかもしれません。
こうやって書くとゲームっぽい話ですが、VR・AR技術はあらゆる分野で応用されています。実際に行きづらい場所をシミュレーションすること、例えば避難訓練や運転、不動産や家具の配置など、身近な生活への活用はすでに始まっています。プロフェッショナルの領域では、3Dモデルを用いた医療学習として心臓のモデルを用いたトレーニングや手術のシミュレーション、ヘッドセットを用いたバーチャルオフィス、バーチャル会議なども。今後もゲームの世界ではなく、もっと現実と融合した形で進化していくと考えられます。
こうなってくると、3DCGや物理エンジンを活用した技術者の活躍の場が広がっていきます。これまでのゲームデザイナーやゲームプログラマーが、ゲームだけでなくあらゆる分野で必要とされていきます。実際、フォートナイトでお馴染みのEpic gamesが開発したリアルタイムエンジン unreal engine はあらゆるプラットフォームに移植が容易で、映画や教育などさまざまな用途に応用されています。Epic gamesは、AppleやGoogleとガチ揉めてるところがあって、根底にある思想の違いを感じますが(笑)。このあたりはどういった技術が躍進するか、決着はまだ先かもしれません。
スクリーンの変化より機能面に着目
ハードウェアの変化として、AppleのPCはM1プロセッサやiMacのカラーバリエーションがG3ぶりに復活しました。ワークフロムホームの普及に伴って、家庭におけるPCの存在が大きくなったことが影響していると考えられます。ただ、2021年はスクリーンそのものに変化を及ぼす事象がなかったからか、スクリーン上の表現にはあまり変化がなかったように思います。ビジュアルコミュニケーションでは順当にWebGLや動画活用、UIデザインではマイクロインタラクションやUIフローの改善が多く見られた印象です。
UIデザインやマイクロインタラクションは、「アプリ」が出現してから長い月日を経て、修練されてきています。今や新しいインターフェイスモジュールは出現せず、むしろ誰もが見たことがあるものであることが重要になってきています。インターフェイスの進化はインターフェイスでなくなること、とも言われますが、今後はインターフェイスを無くす方向に舵が切られていくと思います。メタバースが壮大な実験場になるかもしれません。
キャンペーンサイトやコーポレートサイトなど、情緒的な役割が大きくKPIを明確に置きづらいWebサイトは、予算を大きく割くような強い需要としては減ってきています。スクリーン上の表現よりも、DXのニーズに伴うプラットフォームの導入、自動化、コンポーネント化など、基盤のアップデートを求められることが増えました。これらは高度なスキルが必要とされる領域なので、高度なスキルを持つ人材やチームに対する需要に対して、供給が追いついていない状況が顕著になっています。
SalesforceやAdobeなども含めた土台システムのアップデートは、運用面でトラブルになることもあります。コンポーネントに影響を受けずローコードで自由な画面を作れる領域を残したばかりにデザインプリンシパルが崩れたり、アップデートが反映されないモジュールができたり、運用面の負荷が上がってしまい結果的に負債を積み上げてしまうなども考えられます。ローコード・ノーコード化、テンプレート利用、広告運用クリエイティブなどの、技術や知識が無くてもカバーできる領域が増えてきていますが、その使い所の見極め方や土台の設計が重要になってきています。
Cookieアラート、個人情報
GAFAを始めとするテックジャイアントたちの情報の寡占化が進み、情報量があまりにも多くなり、個人の人権を侵害するほどになりました。映画「Don’t Look Up」には、まるでスティーブ・ジョブズとビル・ゲイツを足して二で割ったような人物が出てきますが、その人物が主人公を脅して言うには、自社のサービスでユーザーの行動や言動を把握するだけでなく、AIによって未来も予測し生涯収入や死に方までわかっていると。映画では強烈な風刺が入ってますが、実際にでき得るようなことです。
情報独占によりあまりに力を持ちすぎる企業と国家の戦い。権力の集中と分散の戦いのようになってきました。日本でも、2022年4月の個人情報保護法の改正や欧州のGDPR対応などに先立ち、サードパーティクッキーの規制をさらに推し進める感じになってきました。企業はこぞって、Webサイトに「Yes / No」や、アプリに「トラッキングを許可」のポップアップを出すなどの対応を始めます。
デジタル体験の中に、「個人情報について確認を取る」ステップが差し込まれた感じです。Webコミュニケーションの一部を、「個人情報について確認を取る」ために使わなければなりません。そしてほとんどの場合、それはユーザーに取っては邪魔であり、突然意味が分からない選択を迫られる体験です。この体験はまだ最適化されていないように思えます。
まとめ
デジタル技術の発展とともにデザインも発展してきますが、ビジュアルやUIが良ければいいという時代はとうに過ぎ、プロダクト品質やサービス提供のオペレーションも含め、サービス全体を見据えたデザインが必要とされています。さらにプロダクトマネジメントやOps領域の内製化も今後進んでいくと見込まれ、業界は組織から構造的に変化していきそうです。
「デザイン」の力を生かす領域の広がりにどう対応できるかが、個人のスキル、組織のケイパビリティ、それぞれにおいて重要になっています。デジタル人材のニーズが高い状況が続くため、スキルがあれば良い待遇を得ることもできます。人材の流動性含めて、さまざまな時代の変化の中で何をすべきか、どんなチームを目指すのか、を問われていると感じます。