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ところで、デジタルによって世界は良くなってるんだっけ?【Web30年史】2018-19

デジタルデザインの未来をWeb30年史から考える。今回は2018年〜2019年ごろの出来事を中心に振り返ります。

欧米を中心に巻き起こるコンサルVSエージェンシーの争い。マーケティングプラットフォーマーの戦いも激化。アーキテクチャが重要になり、実装技術と実行力も必要になっていきます。

人々の生活はじわじわと変容していきます。インスタ映え・パラレルワールド的な考え方が徐々に進行していく中、プライバシー問題、GDPRが施行されます。「Make the world a better place! 」と言ってテックベンチャーが成長したけれど、世界は本当に良くなっていっているのだろうか、クライアント企業は本当にやりたいことができているだろうか。

その頃FOURDIGITは…
FOURDIGITは、NTTデータの少額出資が決まりサービスデザイン領域で共同のプロジェクトが増えていきます。海外のプロジェクトを経てブランチを作ることを決めたり、CREATIVE SURVEYもSansanと一緒にやることになったり、じわじわと変化していきました。


コンサルVSエージェンシー

アクセンチュアやデロイトといったコンサルティング会社は、デザインを取り入れることで、新しいデジタルの時代に対応していこうとしました。コンサルティングとは相談される役割なので、ビジネスにおいてデザインが重要な役割を担い始めている中では、コンサル会社もデザインのことを知らないわけにはいきません。だからこそ当初は、「コンサルするためにはデザインが必要」という位置付けだったように見えました。

そうしてアクセンチュアやデロイトはデザイン会社を取り入れていく中でどんどん吸収し、一大グループのようになっていきます。

それは当初のコンサルに必要というレベルを超えて、今までエージェンシーが担っていた部分、つまり企業の広告宣伝費を受け取る役割を持ち始めようとしました。

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2017年、カンヌでは、コンサルティング会社がクライアントと共に華々しく、そして大量におしかけていったそうです。それは、2018年も同じような光景だったとDIGIDAYでは書かれています。

いわゆるエージェンシーの役割が、コンサル会社に取って代わられようとしていました。

ただ、逆もしかりです。

エージェンシーがコンサル機能を持つパターン、コンサル会社がエージェンシー機能を持つパターン、デザイン会社がコンサルティング力を持つパターン、その間に位置するマーケティング会社など。

「顧客が誰に相談するか」というポジションの取り合いは、特に欧米を中心に加熱していきました。


Adobe や Salesforce

マーケティングプラットフォームの争いも過熱します。

大きなプレイヤーはAdobeとSalesforceです。もともとAdobeは、クリエイターにはおなじみ、PhotoshopやIllustrator、Premire やAfter Effects、Flashというクリエイターツールの企業だったのですが、2009年のオムニチュアという解析ツールのチームを買収したことでデジタルマーケティング領域に参入しています。

そこからECやら広告領域などを補強していき、2018年にMarketoというマーケティングオートメーションをマージさせてプラットフォーム化します。

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Salesforceは、もともと顧客データベースツールでした。そこから営業ツールとして発展し、ECや解析ツールなどを買収統合していきプラットフォーム化していきます。

売上を作るという意味ではセールスフォースの方が得意領域なので、コマースプラットフォームはSalesforceが一歩リードという感じの様相です。実現はまだのようですが、SlackもSalesforceが買収する流れになるようで、ビジネスSaaSツールの覇権争いはまだまだ続きそうです。

他にもSAP、MicrosoftやGoogleも同様です。今後このあたりはShopifyなど使いやすいEC、CMS、DBなど、もう少し戦国時代が続きそうです。


これらの流れを見ればわかると思いますが、統合プラットフォームとはいえ買収を重ねて補完し続けた結果なのです。ツールやプラットフォームとしてきれいに統合されてないことも多い。

SaaSツールは、メンテナンスやアップデートが常にされるので、開発するよりも圧倒的に良い反面、ツール提供側の理屈でアップデートをしたり、プラグインが使えなくなったりすることがあります。

ここで必要なのは、テックに関するリテラシーです。

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悪く言いたいわけじゃないですが、統合型のプラットフォームは「何でもできるすごいやつなので、これさえあればもう思考停止してOK」という導入のされかたをしてしまう印象があります。

当たり前ですが、何でもできるツールは難しい使い方を覚えなければなりません。使い手側の問題を軽く見てしまいがちになると、業務に定着するためのコストが異常に高かったり、この使い方だと現場にフィットしない、などがあるのが当然です。そこをあまり見ずに「あの企業もいれているらしい」などで導入を決めてしまうということになります。

プラットフォーム以前にも、使えもしないマーケツールを導入していることがよくありましたが、その傾向はむしろ強まっていったように感じます。


インスタ映えとパラレルワールド

今のところSNSは、Facebookはおじさん、Instagramは20-30代、TikTokはもっと若者、って感じでしょうか。YouTuberは当たり前になってきたし、世代によって人間関係のつながりかたが全然違くなってきました。

インスタ映えは2017年に流行語にもなり、カルチャー的に映えるものや映える場所が人気になりました。

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もうみんなどこ行ってもスマホしか見てないし、アプリの中の自分の方が大事なような。

SNSが登場したときには、はじめてアイデンティティがネット上に存在するという体験でした。それがFacebookによって実名になり、いいね、をもらえることが大事になり、インスタで映える自分を演出したりする。


今は休止していますが、Design meets Research というイベントを開催していた時があります。リクルートの坂本さんと立ち上げたイベントなんですが、そこでサイバーエージェントの方が印象的なことを言ってました。

学生たちにはスクールカーストってのが昔からある。今のカースト最上位は、映える子で美人で顔出しでTikTokなどを使う。2軍たちもそれに追従する。でも、そこじゃなくて、もっと普通の子たちの層があって。そういう人たちがアバターを作って仮想空間でサービスを楽しんでくれている。(意訳)

ちなみに、サービスはアバターが集まってアイテムをあつめたり、会話したりするサービスで、今の「あつ森」のようなものですかね。

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コミュニケーションの世界を選ぶ感じなんだな、と感じました。そりゃあ全員がインスタ映えしたいわけじゃない。むしろ、SNSは自分と違うアイデンティティ、自分なりのパラレルワールド的な捉え方で使っていたりします。


いき過ぎたアドテク、プライバシー問題、GDPR

Web広告が盛り上がり、広告テクノロジーがどんどん進んでいくことで、広告最適化の名のもとに個人情報をデータとして扱うことを危険視する動きが出てきました。

たしかに、とあるサービスのWebサイトを見ただけで、そのサービスの広告があらゆるメディアで出てくるなんて不思議だし、どっかで見てんのか?ってことになる。そうなんですよね。見てるんです。

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Webサイトを閲覧すると、あなた「A」というサイトを見ましたね、というフラグがつく、そうするとその情報を共有している広告ネットワークに加盟しているメディアやサイトは、「A」の広告、または類似する「B」広告を出してみよう、という判断をします。

こういうのをリマーケと呼んで、アドテクノロジーの一種です。


これが例えば、スマホのGPSを取得して共有していい、ECで買ったものも取得して共有していい、カード使用履歴も取得して共有していい、ってエスカレートしていくとどうなることでしょう。


もう少し平たく言うと、
買ったもの・使っているアプリ・見たサイト・行った場所・いるところ・SNSで発言したこと・写真・どこかのサービスに登録している個人情報、こういうのは既にネット上のデータとして存在します。

これらの情報を取得した企業がデータを売買したりして、データを持った企業が統合して使っていいよ、となったらどうなるでしょうか?


企業にとっては、今後もその情報は必要となるし、データ処理の精度も上がっていくでしょう。GPSなんかも今後、精度が上がって数センチ単位で判別可能になるそうです。もうプライバシーもへったくれもなくなります。

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ちょっとこれヤバイな……やりすぎじゃない?ということで。


そういうのを断る権利がありますよ、あなたの情報はあなたのものですよ、というのを決めたのがGDPRです。

最近サイトを見るとやたらとあなたのクッキー情報を使っていいですか?って出ますが、あれはGDPRの影響です。クッキー情報の規制が強まるとサードパーティクッキーを活用したアドテク勢はやばくなり、ファーストパーティをどうやって蓄積するかという形に変わっていきます。これもプラットフォーム化の要因になっているかもしれませんね。

まぁ、つまり、広告の過剰な追い込みや、個人情報の管理や取得に厳しくなるという流れです。


本当に提供したいものは何か

アメリカで激化するコンサルティングVSエージェンシー、マーケティングプラットフォーム、人々の変化、いきすぎたアドテク、プライバシー問題。圧倒的に強いように見えるGAFAMやBATH。

彼らが提供しているのは、検索システム、モバイル端末、コンテンツプラットフォーム、サーバー、コマース、コミュニティ、といったものだ。要するにソフトウェアとそれにまつわるもの。

これらは便利ではあるけれども、実際に健康になったり、服とか靴でもないし、旅行でもない、おいしいラーメンでもないし、スイーツでもなければ、すてきな絵や音楽でもない。

でも、たしかに普段の生活はアップデートした、ように見える……。

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以前、FOURDIGITで開いたイベントがあって、当時WIREDの編集長だった若林恵さんがSXSWに行った時の話でこんなことを話してくれていた。

SXSWでIT企業の偉い人たちが本気で話していることがあって、つまり「デジタル技術によって世界はよくなるはずじゃなかったっけ?」「結果的に生まれたのがトランプ大統領?」ってことなんだけど、要するに世界はマシになっているのか?を真剣に話さなければならない局面まできてる

というような主旨でした(ニュアンス違ったらすみません)。

これはCOPILOTの定金さんが言ってたことだけど「エストニアの政府が進んでいて進んだネット国家みたいに言われるけど、あそこまでやらないと誰も国のことを信用してないくらい怪しまれているからやってるんだよ」。

テクノロジーが世界を変えるわけない。
世界をよくしたいから使えるテクノロジーを使うんだということですね。

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プライバシー問題もテック企業の勝ち方も貧富の差も、ビジネスで勝つだけでなくて、本当に何がしたいのか、というものは、すごく重要な観点になっていきそうです。


前段に戻って、コンサルVSエージェンシー、マーケプラットフォームの戦い、いき過ぎたアドテクもそうだけど、何か違和感のようなものを強く感じます。

大量にリソースと技術を投下されて作られたテックプラットフォーマーが強いことは別にいいのだけれど、企業が本当に提供したい顧客体験から遠ざかってしまうのでは、いったいなんの意味があるんでしょうか。

本当に提供したいことに向き合えているんだろうか。そのためにテクノロジーをどう使うべきなのか。デジタルの領域におけるデザインで解くべき大きな問いはここにあると思っています。


旧Webデザイン時代の終わり

2019年クリエイティブの会社、BIRDMANが買収されました。そして、Netyearも公開買い付けでNTTデータに子会社化されました。海外では、アクセンチュアがDroga5を買収、さらにアクセンチュアは日本でFjord TOKYOを立ち上げます。

BIRDMANもちょっとびっくりしましたが、Netyearも衝撃でした。Net YearはIMJとともにかなり強い時代もありました。ウェブが普及していった時代に活躍していた数多くのウェブプロダクションも、変化する流れが強まっていきました。

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旧Webデザイン時代は、独立系プロダクションはたくさん、代理店子会社プロダクション、という業界でした。今はそこに、コンサル会社・SIer・マーケ系・ツール系……いろんな業界から、多方面に広がる形で広がっていきました。

日本の市場でも欧米に引き続き、コンサル会社は勢いを止める感じがしません。アクセンチュアも日本でFjordも作り始めたという体制なので、本格的に代理店から広告宣伝費を狙いにいくのかもしれません。このあたりは今メディアでも情報が多いですが、今後も続報がありそうです。


ジョナサン・アイブがAppleを去る

ジョナサン・アイブと言えば、iMac、iPhone、iPod、iPad、iWatchというか、今のAppleのプロダクトを手がけてきたデザイナーです。スキュモーフィズムからフラットデザインにしていったときにはソフトウェア面も監修していました。そして、副社長にもなったわけです。

もうね、イギリス勲章ももらっちゃうし、あらゆる栄誉を受け取っています。

そんな彼がAppleをやめるというニュース。びっくりしました。で、彼の新しい会社がLoveFromって言うんですけど、サイバーエージェントのゲームかな、って思って二度見しましたよ。

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スティーブ・ジョブズがこの世を去ってからもAppleは企業としてとても好調です。

目新しいイノベーションがなかったとしても、すでに圧倒的なプラットフォーマーであり、スマホ・モバイル・アプリ市場の地位は高い位置に常にありました。ティム・クックもどうやらいい人っぽいし。でも、ジョナサン・アイブにはいて欲しかったなぁ。

ジョナサン・アイブの本はとても素晴らしい言葉がたくさんあるのでおすすめです。彼のデザインに対する姿勢、チーム内でのデザイナーのあり方、は感動的でもあります。おすすめです。


次回予告

とうとう2020年。オリンピックイヤーであったはずの2020年。確実に歴史に刻まれる年になるでしょう。新型コロナウィルスの影響は、社会に大きなインパクトを与え、仕事や働くということを考えさせ、抑圧された生活や経済の不況、あらゆるものに大きなインパクトを与えます。

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