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それって儲かるの?デジタルは、リッチからリターンへ。【Web30年史】2009

デジタルデザインの未来をWeb30年史から考える。今回は2009年の出来事を中心に振り返ります。

2008年の秋口から起こったリーマンショックの影響がこの年で大きくなっていきました。単純に経済環境が悪化しました、ということではなく、デジタル業界やWebの構造、役割自体に大きな変革をもたらしたと言えると思います。
さらに、この頃は技術的な変化も起こっていた時期です。いわゆるスタイリングやビジュアルのデザインに仕上げていく過程の中で、どういう技術変化が裏側にあったのかというのも大事な観点です。その点にも着目していきます。

その頃FOURDIGITは…
FOURDIGITも2009年の終わりごろには、デザインに対する考え方が変わっていったように思えます。リーマンショックは足元を見つめ直す機会にもなりました。いろいろと揉まれながら、少しづつ前進していったような感覚です。


リッチでなくリターン

前回も触れましたが、経済的な打撃を受けた後ですので、費用の使い方はインパクトよりも実質的な成果、リッチよりもリターンを求められるようになっていきます。要するに、それって儲かんの?です。

Webはリッチなクリエイティブ表現の場所ではなく、経済活動に高度に組み込まれていきました。

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デジタルマーケティング関連の言葉も用語も一気に増えていきます。個人的な印象ですけども、「PV・UU・CV・CVR・CTA・CPC・LPO・EFO・KPI・KGI」なんかもこの時代に言葉として流通し、当たり前になったように思えます。


あらゆる手法で連れてきたユーザーを、いかにして本当の顧客に変えていくのか?PDCAを回すためにアナリティクスはより重要になり、ページの解析だけでなくクリックアクションやスクロールアクションの解析なども始まりました。ビジネスの成功に向けてWebを戦略的に活用しましょう、そのためにはモニタリングして課題を発見し、解決していくサイクルを回しましょう、というわけです。

解析

この頃FOURDIGITは、Webコンサルティングの会社との仕事が増えていきました。数値と課題解決をベースにしたプロジェクトの進め方には圧倒的にニーズがあり、単に作るだけのプロダクションとしての仕事とはかなり差がありました。

特に大きな予算を扱うプロジェクトは、単にものづくりだけでは太刀打ちできないところからスタートします。「こんな感じのクリエイティブとインタラクション」ではなく「リニューアルによってCVR1.3倍、CPC40%削減を目指しましょう」という話の方が力を持ち始めます。

考えてみればそりゃ当たり前の帰結ですが、潮目が変わったように感じていました。


Flash論争

Flashのもともと持っている問題(SEO、運用の難しさ)、ROI が重視されたこと、モバイルトラフィックの増加などの状況から、Flashってどうなの?という意見が強まります。

もともとiPhoneでFlashを読み込めなかったことから、AppleとAdobeの争い?という流れがありました。そしてこのあと、2010年1月、iPadが発売され、Appleは完全にFlashを否定します。

というより、ジョブズが強い言葉でボロクソに言ったということらしいのです。これがのちに言う、Flash論争に発展(当時は少し話題に)です。

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iOS(iPhone/iPad)サイドのAppleは、Flashを提供するAdobeのことを怠惰だといい、FlashがMacのクラッシュする原因になっているといい、Webに関してはHTML・CSS・JavascriptのオープンなWeb標準に従うことを明言しました。

その後もAppleは、Flashによるアプリ制作の締め出しを徹底的にやりました。PCでのプラグイン普及率90%以上を誇っていたFlashに対して強気に出ることができたのは、OS&ハードというソフトウェアの大本を抑えていたからだと思います。

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プラットフォームに乗っかって提供しているビジネスは、プラットフォーム側から足元をひっくり返される危険があるとも言えます。そういう勝負は得てして体力・収益力が強い会社が勝利します。

Android OSやNexusなどに取り組んでいるGoogleは、先見の明があったのではないでしょうか。

検索という新しいビジネスモデルで得た収益力を、検索のような技術に投資するだけでなく、ブラウザ→OS→ハードという違うレイヤーの道筋にも広げていきました。


クラウドサーバー戦争も勃発

今や当たり前になっているクラウドサーバーですが、2010年あたりからクラウド競争が激化していきます。

WWWの最初の方に触れましたが、Webサーバー、Webサイト、Webブラウザが揃ってはじめてWebが完成します。クラウドサーバーは、WebサイトやWebサービスのあり方に影響を与えることになりました。

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それまでは、共用サーバーとか専用サーバーとか自社内サーバーとかに、WebサイトやWebサービスのファイルの格納場所があり、DNSで場所を参照して、ブラウザがアクセスして読み取る、という流れでしたが、その元となるサーバーが進化します。

クラウドサーバー(XaaS)は、基本的にサービスの利用状況によって柔軟性があることが特徴です。一時的な負荷が上がるスパイク対策などにも対応していたり、ストレージが安かったりすることで、従来のサーバーよりもメリットが大きくなっていきました。インフラの領域の自由度が高まることで、サービスの柔軟性や自由度が上がり、高度かつ便利に利用できるようになっていきます。


クラウドサーバーは、Amazon Web Service(通称AWS)というAmazonが提供しているものが、市場をリードしていきましたが、そこへMicrosoftが、Azureというサービスを提供開始します。

現在は、AWSの1強+Azureという形になっています。ユーザーにとってサーバーは目に見えないのであまり関係ないと思われる部分ですが、サーバーの速度が速いだけでも、動作の俊敏さ・レスポンススピードに影響します。

つまり「めっちゃサクサクに見れる」or「めっちゃ重い」という話。特にモバイルではレスポンススピードがユーザー体験に重要な影響を与えています。


フロントエンドの変化

リーマンショックで起こった状況の変化は、Webサイトの作り方にも影響を与えます。

Flashは派手だし色々なメリットもあったけど、SEO=検索エンジン対策が難しい、モバイル対策が難しい、などの側面がある。実質的な成果を求められ始めると、そちらの側面における対応が弱いFlashサイトは少し陰りが見え始めます。

そこで、着目されていくのが、Flashのようなプラグインではなく、HTML / CSS / JS 、つまりWebの標準技術で作ること。ここを基本として、複雑なことを簡単に開発・実装できるようにしようという考え方です。

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その結果、jQuaryなどのJavaScriptフレームワークが流行り始めます。

さらに、CSSもSASSなどがリリースされるなど。Web標準をベースに発展させていく流れが強まります。FlashからWeb標準への流れは、かなり大きなものになりました。

Webのフロント体験が、一気に開放され、新しいムーブメントを起こしていったかのようになっていきます。

上記の図を見るとわかりますが、2000年代後半から一気にフロントエンド周りの技術が開発されていきます。特に2010年代にはかなりの戦国時代になります。この開発言語まわりのトレンドやチーム開発など、レガシーからモダンに変化していく必要が出てきます。


企業の担当はたいへんに

ちょっとむずかしい話が続いた感じですが、担当している人はやっぱりたいへんです。企業のウェブ担当にとっても、考えなければならないことが増えていきます。

Webの収益や効果を最大化するためには、広告を改善するべきか、CVRを上げるためにフォーム改善をするべきか、情報設計をやり直すべきか、魅力的なビジュアルデザインをするべきか、サーバーを見直すべきか、CMSを入れるべきか、マーケティングツールを入れるべきか、セキュリティを重視すべきか、社内のオペレーションを効率化すべきか、はたまた全てを丸投げするべきか……。

………………。

企業活動におけるWebは、マーケティングチーム、情報システムチーム、広報チーム、などに分散し複雑になり、企業活動におけるWebプロジェクトは社内調整も難しくなっていきます。

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リターン重視のWebの時代に突入とはいえ、クリエイティブが適当でいいということではありません。

当然、見栄えも使い勝手も、顧客体験が総合的に良いWebサイトを求められていました。上のあらゆる施策の中で、どこから手を付けるべきか?という課題は、Webサイト全体からすると、見た目や表現の一歩上というか一歩前に位置する論点です。こういった論点に関して必要とされる専門性も多岐にわたり複雑性を持つため、いわゆる俯瞰した議論や論点を整理する力を持つ人たちが活躍する領域になっていきます。

Webプロダクションは一部の突破力のあるスーパープレイヤーを残して、競争力を強く求められる時代、価格競争になってしまう時代に突入しました。単にいい感じのWebサイトを作れる”だけ” では、生き残ることが難しくなっていきます。


個人的な感想ですが、「振り切ったクリエイティブの熱量」と「ユーザーに与える価値」と「ビジネスの対価」が、相対的にマッチしていた時期が終わったんだなと思えました。

とはいえ、まだここからもしばらくFlashは使われることになります。すごい技術を使って派手なクリエイティブやコンテンツなども作られていく反面、それを冷ややかな目で見ているプレイヤーがいることも感じつつある時期でした。


FOURDIGITは、大きな賞を取ったり華やかな賞をガンガン取るような会社ではありません。それでもやっぱりこのヒストリーで挙げたようなWebクリエイティブのように、ワクワクするものを作りたい、見るものの印象に残るものを作りたい、っていう熱量はどこか持っていましたし、Flash全盛の時代は僕ものめり込んでやっていました。

デザインという言葉で語られるものが多様化していったり、広告的な表現の過渡期も感じながら、Webコンサルやクリエイティブの会社、いろいろな方々との出会い、いろいろなプロジェクトで新しいチャレンジを続けていたように思います。


次回予告

2010年代の突入。リーマンショックの影響から取り戻しつつあり、リッチよりリターンの傾向が強まる中、少しずつWebの作り方もCMSを利用した大規模化、アドテクノロジーの台頭、スマホの本格普及、などなどの影響を受けて業界構造も変わっていきます。そして、日本にはさらなる苦難が待ち受けているのでした……。

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