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薄氷を踏むように。~『命』が、指の隙間をすり抜けるようで~

いろんな人に、いろんなことが、日々、いろんなふうに、ある。
みんな、大切。
誰の命も、大切。
そして日々、お父さんの命も、揺らいでは凪ぐ。
心も、身体も、いっぱい動く。

みんなが、 日々、 何かを抱え、 何かを拾い、 何かを手放す。

大切な、 人たちが、 日々、 今日も何かを抱え、 今日も何かを拾い、 今日も、 何かを手放しながら、 自分の『 命』に、 大切な 人の『命』に、 1mm 単位で 向き合っている。

私は、 その都度その都度、 涙を抱え、 どうしたらいいかは分からないけど、 出てくる言葉を発し、 声では笑う。

そして 後で、 一人でこっそり泣く。

私が抱えられるのは、 隣にいるお父さん 1人だ。

お父さんの命も、 日々、薄氷を踏むようで、 ちょっとしたことですぐ、 揺らぐ。

私は、 その都度その都度、 こっそり 眠らず、 お父さんの 唇の色を見ながら、 バイタルの測定 ばかり、 時間ごとに ノートに記す。

気がつけば、 眠りこけていて、 訪問看護師さんに 明るく話す お父さんの声が聞こえ、 慌てて起きて行って、 伝えるべきことを伝え、 判断を 仰ぎ、 ちょっとホッとして また眠る。

日々、 誰かの命が、 揺らいでいて、 それは本当に 薄氷を踏むように、 そして 日々、 今日は誰かの命が、 幸いなことに凪いでいる。

1日1日が足りない。

あの人もこの人も、 その人も どの人も。

「 今、 声を聞かなくては」

1日1日が、 一瞬のようだ。

今 ザックバランに 笑い合っている、 この 友人も、 ご飯を 口から飲み込めない 体だ。

そんな風に、 大切な 人が、 たくさん、 今日の命 と 明日、 見えない明日、 ただ 闇雲にやってくる明日に向かって、 見えない夜を過ごす。

過ごしている。

どうしたらいいのかわからない。

私が不安になってしまってはだめだろう、 そう思うから、 泣くのは1人の時だけ、 声では笑い、 もしくはしっかりと、 何をしていいのかわからないから、 伝えたいことだけを、 下手くそな言葉でしゃべる。

生きているうちに、 欲しいもの。
言葉。
声。
もしくは 手紙。

いつも 私は言葉が下手くそだ。

聞いた言葉、 聞いた 単語、 それに なんとか 泣かないように、 うんと 飲み込んで、 できることを探す。

できることなど、見つからない時もある。

そういう時は、 ただ、 泣かないように努める。

何かがしたい、 でも できない。

話し声を、 言葉を、 うーんと 自分の内に引き入れて、 うーんと 刻み込む。

これが、 この人との、 全部。

これが、 あの人との、 全部。

命はなんで、 こんなに揺らぐんだろう。

揺らいでは、凪いで。

なんでこんなに 時間は、 待ったなしで 容赦してくれないんだろう。

指の隙間から、 吹き抜けて すり抜けていくように、 あの人もこの人も、 その人も どの人も、『 今』 という瞬間 ばかり 抱えて、 いなくなろうとする。

そしてどの人も、 誰かの『 今』 という瞬間に、 向き合って いて、 立ち会っている。

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卯月妙子
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