写る日
11月のある日。私の住む街にトナカイさんがやってきた。(会話が上手でない私に対して穏やかに耳を傾けてくれる優しい人。)
撮影してもらうことは数人にだけ話した。
12月の今日はコートに加えてマフラーと手袋が必須の寒さだが、この日はまだコートなしで歩けるくもりの日だった。
大きな公園の周りにある小さな森がある道を散歩しながらカメラを構えてくれた。
カメラの前で笑わなくていいというのはどこかで読んだのか聞いたのか。意識して表情を作る必要はなかった。
気付かないうちに曲がっていた背筋を伸ばして、目を開いてその場に立つ時間。
小さな植物園の春夏を思わせるほどの鮮やかな花の色が印象的だった。
先日の夜、トナカイさんから写真のデータが納品された。
その時化粧を落とそうと洗面所にいて、クレンジングジェルを流す間も惜しくメールを開いた。
人から撮ってもらうと普段と違う顔をしているように見えるが、受け取った写真に写る自分はどれも、見覚えのある顔をしていた。
母に見せたら、いつものたえこの表情だね、と言っていた。
素の表情が残るなんて、どれだけあるものだろう。少なくとも不安そうには見えなくて安心した。
その夜何周も自分の写真を眺めた。
2年前にトタンで初めて撮影してもらった日を思う。
深く呼吸をしてゆるまる日々を。
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