八村塁の現在地 〜アメリカでの評価と今後の展望〜
(トップ画像:https://the-ans.jp/news/37634/より引用)
先日のFIBAワールドカップ予選で、崖っぷちに追い込まれた日本の救世主として大活躍した八村塁。ゴンザガ大3年目の今季終了後にも、アーリーエントリーでNBA入りが確実視されているのは承知の通り。しかし実際八村は米国でどのように評価さているのか?「NBA入り確実」「来年のドラフトで上位指名」など、日本のメディアでは夢のような文字が踊っているが、米国での評価やNBAでの展望なども含めて、勝手に分析してみた。
最新のESPNモックドラフト(ドラフト予想)では14位指名
8月に発表したESPNの最新NBA2019ドラフト予想
アメリカ人はドラフト予想が大好きで、とにかく色んなメディアがモックドラフトと言って、2年先くらいまでのNBAドラフト順位予想を発表する。現在の八村の指名順位は、直近で先月Forbesが行った2019NBAモックドラフトでは1巡目10位とかなりの高評価で、8月末にESPNが公表したモックドラフトでも1巡目14位。前回の2018NBAドラフト時ですら、NCAAトーナメントでの活躍がスカウトの目に止まり、「1巡目後半での指名もあり得る」という評価だっただけに、来年のドラフトでトップ15位以内での指名という評価は当然かもしれない。
今季はゴンザガ大のエースとして大きな責任と役割が期待されているだけに、出場時間は昨季から大幅にアップし、それに伴い成績も飛躍することは間違いない(ちなみに昨年の成績でも36分出場に換算した際のスタッツは、平均20.1点、8.2リバウンドとドラフト上位級のスタッツ)。
しかも今季のNCAAバスケットボールの公式イヤーブックの表紙5選手に、ぶっちぎり2019ドラフト1位指名候補のデューク大のRJ・バレットと並んで八村が選ばれるなど、「周囲の声は全く気にしない」という本人のクールぶりとは反対にメディア、関係者、ファンの評価・期待度は並々ならぬもの。大きな怪我さえなく、安定した出場時間さえ確保できれば、今季終了時に更なる高評価(トップ10以内?)を得たとしても不思議でない。
スカウトの評価
上記のように、すでに米国のカレッジバスケシーンではかなり高評価を得ており、今シーズンの更なる活躍への期待度は相当高い。しかし実際にスカウト陣は八村のプレー面やNBAでの活躍予想をどのように評価しているのだろうか?モックドラフトなどの記事で知られるDraftexpressやESPN、その他のソースから得る八村の現時点での評価は大きくは以下の通り。
強み:
1. 身体的特徴:高い身体能力/身体の強さ/長いリーチ/手の大きさ
2. プレースタイル:機動力・速さ・強さを併せ持つプレー/リング周辺での強さ・得点力の高さ/
激しいディフェンス、ブロック力も並以上
3. 性格:競争力溢れるハードワーカー
弱み:
1. ポジション:3番か4番の間でどっちつかず/インサイドでプレーするにはサイズがなく、
ペリメーター(ウィング)でプレーするにはシュート力やハンドリングが課題
2. プレースタイル:シュート力・精度が課題/NBAでプレーするには3Pを習得する必要あり/
ハンドリング力は並、ドリブルプレーは縦しかない/パッシング能力が課題/コートビジョンが狭い
3. その他:安定感に欠ける/たまに消極的なプレー・姿勢を見せる
実は上記の通り、スカウトの八村に対する評価はまだまだ「発展途上」で、克服しなければいけない課題の方が強みよりも圧倒的に多い。しかも、8月にLAで行われた「Nike Basketball Academy」(ドラフト上位指名候補のカレッジ、及び選抜されたトップ高校生のみが参加するバスケキャンプ)での5対5の試合形式練習ではミスや消極姿勢を連発し、「トップレベルでプレーするにはまだ時間がかかる」という印象を与えてしまった。
モックドラフトでは高評価を得ているものの、これらプレー面の弱みが改善されなければNBAでは通用しない。しかし八村のバスケプレー歴の浅さ(中学生から始めたのでまだ8年程)、また1年生時はほぼレッドシャツ(試合に出場しない選手)、2年生時も平均20分足らずの出場時間でまだまだトップレベルでのプレー経験も少ない事を考えれば、八村の成長カーブは同年齢の選手たちのそれを遥かに凌駕する。加えてこれらの弱みが霞んでしまう程のずば抜けた身体能力と爆発力は、魅力的でNBA向き。だからこそ、これだけの弱みがあるにも関わらずトップ15位以内に入る評価を得てしまうのだから、それだけスカウト陣も八村の伸び代に期待しているという事。
コートの端から端までドリブルで持ち込んでダンクまで決めてしまうアスレチック能力が八村の一番の魅力。
NBAのスカウト陣は、ドラフトする際にその選手の潜在性・伸び代を重要なリクルートポイントにすると言われており、そういう意味ではゴンザガ入学から1年ごとに火を見るより明らかに成長を遂げている八村のポテンシャルを持ってすれば、これら指摘されている弱みは時間が解決してくれるだろう。
比較されるNBA選手
米国のあるスポーツサイトでは、「八村は日本版グリーク・フリーク?(ヤニス・アンテトクンボ)」と書かれた記事があったが、確かにプレースタイルや爆発力、伸び代など類似点はいくつか挙げられるが、サイズや身体能力の面でNBAでもトップクラスのアンテトクンボと比較するのは少し酷。個人的には、リム周辺を好むプレーやサイズ感も含めてどちらかというと、ジャバリ・パーカー(現シカゴ・ブルズ/203センチ・113キロ)に似ているのではないかと思う。
ジャバリ・パーカーはプレースタイル、サイズやポジションなど八村と類似する選手
パーカーは大きな膝の怪我でここ数年長期離脱を余儀無くされていたが、元々は5スターリクルートでデューク大1年時にJウッデン賞(カレッジの年間最優秀選手)も取った2014年ドラフト2位指名の逸材。そこまでサイズがある訳ではないが、フィジカルの強さと身体能力の高さで主に4番のポジションでプレーし、2016-17シーズン(ミルウォーキー・バックス)には平均20点超えも記録。そのシーズンから外角シュートも覚えプレーの幅も広がった。八村がNBAでプレーする上で、参考になる選手と言っていいだろう。
展望
早くも来季のNBAで八村と渡邉が対戦する姿が観られるかもしれない!?
(写真:FIBA.basketballサイトより)
大きな怪我がなければ間違いなく来ドラフトの1巡目10位から20位の間で指名される事は確実で、今季の活躍次第では評価を上げて10位以内の指名もあり得るかもしれない。
ただ本当に怖いのは怪我だけ。高校時に「2018ドラフトで1位指名選手」とまで言われていたマイケル・ポーターJrは、慢性的な背中の怪我の影響でスカウト陣の評価が急降下し、結局指名は14位までに落ち、今シーズンもいつプレーできるのか目処が立っていないほどだ。
八村はこれまで大きな怪我をした事がない上に、身体が強く怪我に対する耐性もあるように見える。怪我に気をつけて今季を乗り切れば、史上3人目のNBAプレーヤーとして、来季NBAで早速渡邊雄太との日本人対決が見られるだろう。
また昨今のNBAは、スモールサイズ化しており(ウォリアーズやロケッツに代表されるように)、上記のような弱みを指摘されているものの、八村のサイズ(203センチ/106キロ)は、あれほどの身体能力があれば4番でも十分にやっていける。そこに時間をかけて外角シュートを身につけ、プレーの幅・選択肢を増やし、現代のNBAで最も必要とされる「外も中も守って攻めれる」バーサタイル(Versatile)プレーヤーに変貌を遂げれば、長きに渡ってNBAの一線でプレーする事ができるだろう。
間違いなく素材は一級品で、それは米国でも皆が認めているところ。周囲の声や同世代のレベルの高さに惑わされず、時間をかけてじっくり素材を磨いて行けば、数年後にNBAでコンスタントに活躍する姿が観れるだろう。
<参照>
https://www.forbes.com/sites/tommybeer/2018/09/12/early-2019-nba-mock-draft/#ceb96ea19eb1
http://www.nbadraftroom.com/p/rui-hachimura.html
http://www.draftexpress.com/profile/Rui-Hachimura-76691/
https://www.nbascoutinglive.com/rui-hachimura-scouting-report
http://www.spokesman.com/stories/2018/aug/15/gonzagas-rui-hachimura-makes-blue-ribbons-all-amer/
https://clutchpoints.com/is-this-the-japanese-giannis-antetokounmpo/