今季のNBAで注目すべきテクノロジートレンドとは!? 〜NBAとベッティング(後編)
※本記事は、楽天NBAニュースサイト内の「特集ページ」にて執筆している記事をそのまま掲載しています。(楽天NBAニュースサイトでの記事はこちらを参照)
※前編はこちら
今、米国ではスポーツベッティングが熱い!
2018年5月に米国連邦最高裁判所が、これまでネバダ州のみでしか認めていなかったスポーツベッティングを全州で認める判決を下し、その後各州で早速スポーツベッティングを合法・商業化する動きが加速した(ニュージャージ州を皮切りに、ミシシッピ、フィラデルフィア、ウェストバージニア州等が合法化)。さらにこれまで、スポーツベッティングに対して否定的な考えだった米メジャー4大スポーツだったが、この判決を契機に各リーグ・チームはベッティング会社とパートナーを締結する方向に舵を切った。
結果、同年8月にNBAが公式ゲーミングパートナーとしてMGM(米国最大のカジノ・ホテルリゾート企業)とスポンサー契約を発表したのを皮切りに、NHL、ニューヨーク・ジェッツ(NFL)もMGMとのパートナーシップを締結、最近ではオークランド・レイダースがもう一つの巨大カジノリゾートを経営する「Caesars」とスポンサー契約。今後も同様の動きはますます活発になるのは間違いない。
ベッティングでも先を行くNBA!?
そんな米国メジャースポーツの中で、この分野でも他のメジャースポーツを圧倒的にリードしているのがNBA。スポーツベッティング解禁後のMGMとのスポンサー契約発表のスピードもさることながら、リーグとしてのベッティングに対する取り組みもいち早く実践。早速シーズン開幕前に「The NBA Pick’Em」という誰でも無料で参加可能なノーリスクのベッティング型ゲームを公式NBAサイト上にて実施した。
ルールは簡単かつシンプルで、NBA全30チームの勝利予想を当てるというもの。もう少し詳しく説明すると、
• サイト上に表示されている全30チームの2018/19シーズンの勝利予想数字が、シーズン終了後にそれを上回るか下回るかを予想。例えばゴールデンステイト・ウォリアーズだと「57.5勝予想」と表示されているが、シーズン後にその勝利数を上回ると予想する場合は“+”をクリック、下回ると予想した場合は“−”をクリックする。
• シーズン終了後にこの全30チームの「+」「−」勝利予想を当てた参加者には何と最大で「US$1,000,000(約1億1,000万円)」が当たる。25チーム以上を当てた参加者には100ドルのNBAストアギフトカードが貰えるというもの。18歳以上の米国居住者のみ、先着25万名のエントリーでシーズン開幕後の勝利予想修正は出来ないという条件だが、一般無料参加で賭け金無しで最大US$100万の賞金は、当然だが米メジャースポーツリーグの公式な取り組みとしてはこれまでに前例はない。
この取り組みは、どちらかと言うと、MGMのプロモーション、NBAの今後の一般ユーザー向けベッティング事業を本格化するためのマーケティング施策に近いが、複雑な競技ルールやスタッツ理解を必要としないゲームのため、ライト・カジュアルファン層にベッティングをより身近なものに感じさせ、参加のハードルを下げる意味合いも大きい。
NBAとMGM公式パートナーシップが意味するもの
前述の「The NBA Pick’Em」のスポンサーをしているのがMGM。そのMGMは、冒頭でも紹介した通りNBAの公式ベッティング(ゲーミングと呼んでいるが)パートナーだが、何故両社は連邦最高裁の判決後いち早く手を取り合ったのだろうか?
これまでも、スポーツベッティングが唯一合法だったネバダ州(ラスベガス)では、他のベッティング会社もNBAの公式放送局・配信社等から得られるデータ・スタッツを使ってNBAのベッティングを運用していた。MGMが公式ゲーミングパートナーになったからと言って、これからはNBAのベッティングがMGMのホテルのみでしか賭けられない、というような独占的な縛りも契約にはない。NBAもお金目当てで、この契約でMGMから破格の契約金を得ようと言う魂胆も正直見えない(事実、スポンサー契約金額は、NBAの公式スポンサーにしては低く、1年US$800万ドル(約9億円)の3年契約と言われている)。
では両者が手を組んだ理由はなにかというと、大きく2つ挙げられる。
一つは、NBAとしてMGMに公式パートナーのお墨付きを与える事で、MGMが唯一無二の「本物」になれる事。
これまでも、また今後も各州のスポーツベッティング合法化の流れに従い、数多の州で数多のベッティング会社がNBAを賭けの対象にしていくわけだが、ファンにとってはそもそもどこの会社が?どの州で?公式にNBAからライセンスされているのか分かり辛く、どのベッティング会社を使うべきか判断しづらい。
MGM以外のベッティング会社も、権利に抵触しない程度に「プロバスケットボール」と言うワードで実質NBAのベッティングを提供している(実際ネバダ州ではそうやってきた)が、MGMが公式にパートナーになった事でNBAのロゴや商標を使用できるだけでなく、NBA公式データ・スタッツを直接提供・使用でき、ファンへ公式感・本物感・信頼感を醸成させる事が出来る。これら3つをファンに提供することは、特に「ベッティング」という事業の性質上、非常に大事な点と言える。
二つ目は、上記にも挙げたがNBAの公式データ・スタッツに直接アクセスすることが出来る事。これは「インゲームベッティング」と呼ばれる、ライブで進行している試合中に賭ける手法と密接に関係する。
通常スポーツベッティングと聞くと、日本だとTOTOのような試合前にスコアや勝敗を予想する形式を想像しがちだが、実は、世界的にはスポーツベッティングは試合前より、試合後に行うこのインゲームベッティングの方が大きなお金が動いていると言われている。例えば欧州のサッカーでは圧倒的にキックオフ後・試合中の賭けが人気がある。このインゲームベッティングの賭け事の際に重要になってくるのが、時差なくタイムリーに提供されるデータ・スタッツだ。
これまでのベッティング会社はNBAの放送・配信局などから得られる間接的な方法でデータをユーザーに提供していたが、これだとどうしてもケーブルや衛星からの映像を基にするため、30〜40秒程度遅れてデータが反映されてくる。そうすると例えば、「このプレーでステフィン・カリーが3Pを決める」とか「レブロン・ジェームズはこのフリースローは外す」と言ったような、一瞬のプレーごとの賭けは成立しなくなってしまう。このため、これまでもネバダ州ではインゲームベッティングの手法はあったものの、プレーが止まるタイムアウトや、ハーフタイム中に賭けざるを得なかった。
それを、MGMはNBAから第3者からの情報を経ずに直接データ・スタッツフィードにアクセスする事ができるようになるので、ほぼ誤差なく超リアルタイムでのデータ提供が可能となり、この世界的人気ベッティング手法である「インゲームベッティング」を試合中の様々なシーンで実践する事ができるようになる。
NBAとしても世界的カジノリゾートであるMGMとこのようなインゲームベッティングを開発し、ゆくゆくは米国だけでなく世界に進出。後進だったスポーツベッティング分野でも米国が世界を席巻しリードする ‐‐NBAがそんな野望を抱いていたとしても全く不思議ではない。
まだまだ序章に過ぎない米国スポーツベッティング。今後のNBAの取り組みをウォッチし、定期的にアップデートしていくのでこれからも是非注目して欲しい。
金大鐘(Twitterはこちら)
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