中国の特許権侵害訴訟における損害賠償額の算定
はじめに
昨年の11月、日本ライセンス協会のご依頼で、「中国専利権侵害訴訟における損害賠償額の算定」というタイトルの論文を執筆致しましたので、こちらに張り付けておきます。
中国において、特許権・実用新案権・意匠権(これらの3つの権利を「専利権」と総称します。)の侵害訴訟の提起を考える日本企業の方のご参考になれば幸いです。
要旨
長いので、簡単にポイントをまとめておくと、
■専利法の規定上、①権利者損害、②侵害者利益、③ライセンス料の倍数をベースとする損害賠償請求が可能であるが、実務上、ほとんどのケースにおいて、これらの算定基準が用いられることはなく、裁判所の従来の相場観に従って賠償額が決定される(法定賠償)。
■中国の知的財産権訴訟の問題点として、①立証難、②低賠償、③執行難の3点がよく指摘されるが、②低賠償の直接の原因となっているのが、上述した法定賠償により賠償額が決定されるためである。そして、それは、①の立証難問題と、根本的な原因が共通しており、要するに、裁判所による証拠能力の認定と、証拠に基づく事実認定が厳しく行われるためである。(←この辺りは日本人弁護士から見て、日本とかなり感覚が異なるので、要注意。)
■2020年の法改正で導入された「懲罰的賠償制度」は、米中貿易戦争の文脈で説明されがちであるが、正確ではなく、どちらかというと、「製造強国」化などの純粋な国内政策の一環として位置づけられるものと考える。しかし、ここでも上述の「立証難」問題が障壁となり、専利権侵害訴訟において、懲罰的賠償制度が活用される事例は多くないと予想される。