【プロローグ&1ループ目】23歳女発達障害、異世界救うまで帰れない!~それなんて死に覚えゲー?~
前略!
結構いい大学を卒業したけど新卒で入った会社で人間関係の構築失敗と連発するポカミス、部長のセクハラ発言に真顔でマジレスなどの蛮勇を発揮して3ヶ月で自主退職に追い込まれ、そこで一念発起して精神科のドアを叩いて諸検査の結果ばっちり発達障害(いわゆるASD、アスペルガー障害って言われてたやつと、ADHDってやつの併発らしいね!)と診断されて、診断書を持って障害者手帳を申請して、精神障害者手帳3級が発行されたのでコンビニで顔写真印刷してハサミは忘れたので市役所の窓口の人に切ってもらって、新品の障害者手帳を持って電車に乗ろうとしたところに!
いきなりぱぁっと体が光って気が遠くなって気付いたら何か宙に浮かんでいました!
「いやせめてお約束として轢かれてからにしてくれませんか!?」
「どう考えても轢かれそうにない場所にいたじゃないですかあなた」
「当たり前だ真ん中歩いてないとうっかりよそ見した時に落ちるかもしれないだろー! 私はそれで2回落ちました! 高校生の時に! 生きててよかった!」
「じゃあ生きてるしいいじゃないですか」
「良くないですそもそもここどこですか」
ちなみになんとなくギリシャ神話系統っぽい服を着て、包まれた光と同じほんのりパステルオレンジの後光を発していて私をちょっと見下ろす位置に浮かんでいるおねーさんと旧知の仲のように話していますが、完全なる初対面であることをここに宣言させていただきます。
誰だよ。そしてなんで私よりちょっと上にいるんだよ。小学校の時の校長先生だって子供と話す時にはしゃがんで視線合わせてくれたもんだぞ! その校長先生が近隣でも凄まじく評判が良くて学校経営の天才みたいな人だって後から知ったけど!
放課後のクラブ活動で私1人しか希望を出さなかった「調べ物クラブ」が当然設立されずに第二希望の読書クラブに流されるところだったのを、「校長先生と一緒にやってみようか」って言ってひたすら興味関心に付き合って国会図書館まで一緒に行ってくれたってのがあまりにも素晴らしい体験で恵まれすぎてたってことも後から知ったけど!
ありがとう校長先生。おかげで中学校の社会の先生の認識違いに思いっきりツッコミを入れて蛇蝎のように嫌われた私ですが、そんな自分が結構好きです。ちなみに職場の先輩にも「マニュアルに書いてないし公式の提出要項にも記載がないのに、わざわざ項目を50音順に並べ替える意味はないのでは?」ってツッコミを入れて、それ以降一度も話しかけても返事が帰ってこなかったけど、表計算ソフトで書類作ってるのにコピー&ペーストでわざわざ五十音順に並び替えするの面倒すぎたんで反省はしてないです。だいたい先輩のやったやつ普通に順番間違ってたよ。小鳥遊さんが明らかに「こ」の位置にいたよ。
「というわけなのですが……聞いてます?」
「あ、すみません最初からもう1回お願いします」
かと思ってたら後光出てるおねーさんに話しかけられていたようですね。話し始める前にちゃんと聞いてるか確認してくれると私も助かるしおねーさんも幸せだったと思うな!
「じゃあ最初からいきますね」
とはいえちょっとしか嫌な顔をせずに話し出してくれるのは大変助かります。私でも理解できるくらいに嫌な顔してたのを「ちょっと」と表現していいのかはわかりかねますけど!
そして続く言葉を聞いた私は、適当に「わかりましたー!」とか返事しなくて良かったと心から思ったのでした。聞き返せる雰囲気じゃなくても聞き返す、それが悲劇を事前に防ぐんだ。私が自主退職に追い込まれるという悲劇は全く防げなかったけど!
「私の管理する世界があと3日で滅びるので、あなたを召喚させてもらいました。どうかこの世界を救って下さい」
「待てや」
何だよその納期。そもそもなんでそんなになるまで放っておいたんだよ。
そう矢継ぎ早にツッコミを入れそうになったけど、「待てや」で済ませた私は割と偉いと思ったのでした。
光ってるおねーさんの説明は割と煩雑かつ私の余計な質問によって無駄に長引いたので、とりあえず要点だけを説明すると。
この世界はいわゆる私の知っている言葉で表現するところの「剣と魔法のファンタジー世界」というものであり、おねーさんはその管理者、すなわち最高神なる存在であり。
いわゆる「人間のように知性を持ち社会を作って生活している種族」が多種いるのですが、その中でオークと呼ばれるがっしりパワフルな肉体と少々人間と比較して「考えない」タイプの知性、そして基本的に略奪によって生計を立てているため人間と敵対する種族が存在し、その中に近年「超例外的に魔法の才能と非常に優れた知能を持ち、逆に身体的にはやや貧弱」である1個体が生まれたそうです。
オークの中でも蔑まれ、さらに人間や他の種族にはオークとしてしか扱われず迫害や駆除の対象となり、それでもひたすら古代遺跡とかに潜って独学で魔法の知識などを身に着けたその個体は、世界の歴史を学んだことでこの世界に生きる知的生物の愚かさに気が付き、さらに誰も己を受け入れようとしないことに絶望し、世界を滅ぼそうと考えて。
あと3日でその儀式が完成する段階まで来てしまったとのことです。
「いや滅びとけこんな世界」
おおっと! 世界を滅ぼしかけているオークのことを物凄く悪意を込めて語られたことでかえって共感してしまった私の口からつるっと本音が!
「ちょっと! この世界からの信仰心で私保ってるんで! それ私に死ねって言ってるんですか!」
「その通りです! 世界と一蓮托生しとけやこんちくしょー! 大卒のくせにこんなこともできないの、とか新人のくせにそんなことまでしなくていい、とか逆に新人の女の子はサラダ取り分けるのが飲み会の常識とか言われても知らねーんだよこっちは! 社会の常識だろうと私の非常識だっ! 理にかなっていないっ!」
くっ、たった3ヶ月でも心に受けてしまった矢傷が! 痛い! 全力でそのオークさん応援するぞ! 頑張れっ! 滅ぼせっ!
「……ですが断られないように1つ細工をしておきました」
「は?」
自分でもわかるくらいにひきつる口元。戸惑っているように見えるかもしれないが私の心には今もはや怒りという感情しかないぞ。
「どのような場合であれ『あなたが死んだ場合』、この私があなたを召喚した瞬間へと世界は巻き戻ります」
「待てやそれできるんなら自分で解決しろよ」
「無理なんですよ! 過去に起点を設置することはできないんです! 今設置して条件も設定して巻き戻すことしかできないんですよぉ!」
「最高神もっと権限ちゃんと持って!」
「多数の世界によって構成されてるから私より上がいるんですよ! あまり変なことするとすっごい怒られるんですよぉ!」
「私の方が今怒ってるんですが!?」
「あっちなみに解除条件は『今回の世界の危機を恒久的に解決する』にしといたのでよろしくお願いします! 3日後が4日後になった、とかじゃ駄目ですんで!」
「ひどい!! というか別に私じゃなくても良くないですかそれ!」
「だってなんかあいつちょっと変な魔力引っ張ってきてるらしくて『この世界で生まれた存在からは危害を受けない』とかそういう特性手に入れちゃったんですよ!」
「えっそれ私も欲しいな主に精神面に」
「なので外部から召喚して委託するしかなくって!」
「急に話が世知辛くなったな!」
「流石に急ぎなので被召喚適性を持つあなたを急いで召喚させてもらいました!」
「その適性はむしろいらなかったなー!! というか私普通に戦いとかできませんよ!」
「え? 剣術とかは?」
「ないない」
「魔法は?」
「うちの世界に存在してません」
「ええ……なんであなた召喚されちゃったんですか……」
「知らねえよ! アンタがその辺何も考えずに召喚しちゃったからでしょうが!」
「もう世界の巻き戻し条件設定しちゃったからこっちからも解除とかできないんですけど」
「私のせいじゃなかろーがぁぁあ!!」
とりあえず解除できないってなら仕方ないので条件を詰めました。はい。
・最高神の神殿に話は通しておいてくれる(神託で)
・記憶は巻き戻しがあっても保持
・身体能力等の向上も保持
・加齢停止の魔術があるのでそれを使って年は取らないようにする
・死んだ地点での肉体などの損傷は最高神が責任持って治癒する
・ループ解除時に私がどうするのかはその地点で再度相談
「これでいいですか?」
「はい一応あと変更あったら……まぁ死んだ時にどうせ会うんですよね」
「会いますね」
「その時に調整出来る分ならお願いします」
「わかりました。ではあなたを私の神殿へと転送します」
「なんかその表現、メールになったみたいで微妙だな……」
こうしてかのファンタジー世界に、なんか世界を救う勇者枠(納期3日)で送り込まれた私は。
「あっ」
着地を失敗して石段の角に足を引っ掛けてつるっと滑って頭から落っこちることで、無事に最初のゲームオーバーを迎えたのでした!
「早いんですけど!」
「知らん! 私運動神経とか悪いんでちゃんと平坦な場所に降ろしてください!」
よく言われてきた「そんなことすら言わなきゃわからないのか」と、言いたくなる気持ちがちょっとだけ、ほんのちょっとだけわかった気がしましたが。
「はぁ……そもそも落ちて死ぬとか人間、虚弱すぎません?」
言われたら気付いたりわかったりするだけどう考えても私のほうがマシだと思ったのでやっぱりわからないわその気持ち。
自分の常識が全てだと思ってる奴なんて!
たとえ神だろうと嫌いだああ!!
【continued......】
サポートエリアってテニスとかバスケットボールにありそうな気がしました。そのエリアからなら本出場とは別枠の選手がサポートしてもいいとか。