noteのたいとる

【2ループ目】23歳女発達障害、異世界救うまで帰れない!~それなんて死に覚えゲー?~

 というわけで何とか(物理的に)無事に降り立ちました剣と魔法のファンタジー世界。

 ほんとまず地面に足をつけるところから失敗する可能性があるとか想定の範囲外だった。転ぶのは慣れてるんですけど流石に石畳に転落は死ぬかと思ったよね。死んだけど。

 ちなみに私以外のこの世界にいる人の記憶は、基本的にはループのたびにリセットされるようです。神様から呼び出された勇者が次の瞬間死んでました、なんてトラウマ経験を植え付けなくて済んで本当に良かった。

 だいたい現代社会でもはみ出してた私がファンタジーな世界を救うとか、合計何日……いや、何年かかるかわからないもんな!

「あ、あの……すみません」

「あっいえこっちこそすみません! 邪魔でしたか!?」

「いっいえいえいえとんでもない!」

 思案に耽っていたら突然声をかけられて、私は振り向くより前に反射的に謝っていました。いやちょっとこう、よく「とりあえず邪魔なところにいる」率が高すぎて、良くて注意、悪いと舌打ちとかどかされたりとかよくあるもんで。

 なので謝ったらむしろ謝り返してくれるとか、それだけで私の好感度は顔を見る前から急上昇。そして慌てて振り向いた私は、目の前にいた3人に――

「えっあっわかりやすっ助かるっ」

「あ、ええと、どうしましたか?」

「いえ何でもないです!すみません派遣されてきた高野紗代子ですが!」

 あっ普通に名乗っちゃったけどいいのかなこれ。いえ、つい出迎えてくれたのが『長く尖った耳を持つ長い金髪でやや長身のお兄さん』『私の胸あたりまでの身長で薄ピンクの髪を複雑に編み込んだ母くらいの年齢かなっていう女の人』『青い髪をおかっぱにした多分人間っぽいおそらく女性』の3人だったので。

 これはありがたい。人の顔を覚えるのがひたっすらに苦手な私でも、これだけ要素があればかなりの確率で個人が識別できるぞ! 多種族ってこういう利点があるんですねファンタジー世界よありがとう。現実にもエルフとかドワーフとかあと髪の色のバリエーションとかもっとあってもいいと思いますね!

「タカノサヨコ様……我らが神より神託を受けております」

 真ん中に立っていた長耳金髪のお兄さんにとても丁重に一礼されて割と焦ったし、ついでに言うとこの発音は名字と名前まるっと1つの単語として認識されたな。

「あっその、紗代子で大丈夫です」

 あとそういえば打ち合わせでど忘れしてましたが、ちゃんと言葉を通じるようにしておいてくれてよかった。ここで異文化コミュニケーションスタートとか言われたら最高神に交渉ねじ込むためにまた飛び降りかましてるとこでした。流石に必要とはいえ無駄には死にたくないからなー!

「わかりました、サヨコ様。世界の危機を救うためにこことは異なる世界より召命に応えてくださったとのこと、本当に感謝いたします」

 中央の男性に合わせて、左右のピンクと青の髪がさらりと流れて一礼。うーん、つい『いいグラフィックだな』って思っちゃうな……いやその、ファンタジーは結構好きでゲームとかもやってるんで……つい……。

 まぁ実際は応えたとかそういうあれじゃなくて、普通に何も聞かずに突然召喚されて話を進められたんですが、曖昧に微笑んで一礼し返すくらいの社会性(社会人歴3ヶ月)を発揮しておくことにしました。

 そういえば3人とも同じようなゆるっとした薄オレンジ色の服を着ているんで、多分この神殿の神官とか……かな?

「私達に出来る限りのお手伝いはさせていただきますので、何でもお申し付け下さいませ」

「あっではすみませんがまず、この世界について教えて下さい」

「はい、それではこの世界で伝えられている神話からになりますが……」

 えっ待って無理無理! ちょっと口述で覚えるとかは! 無理!

「あっすみませんその、メモ取らせて下さい」

「あ、気が利きませんでしたね。ではそうですね、ミオスは教導師を務めておりますので、こちらから説明させましょう。ミオス、サヨコ様を図書館にご案内して、お教えさしあげてください」

 ……!!

 な、なんだとっ! 「メモなんてあるから覚えられない」とか「言われないとメモも取れない」とか言われないのかっ! しかもわざわざ人員割いて図書館まで行って教えてくれるのかっ! 研修がしっかりしてる……!

 ほ、ホワイトファンタジー世界だー!! いやそんなのあるか知らないけれど! きっとそう!

「はい、それではご案内させていただきます」

「よっよろしくお願いしますっ!」

 だからミオスさんと呼ばれてた青髪のお姉さんに思わず一目惚れでもしたみたいな上擦った声で返事しちゃったのも、仕方ないのだと思います。

 いやーもう心が躍るな!


「これでこの国における主要な都市とそれぞれの特色については説明させていただきましたが……質問などございますか?」

「あ、ええとここの……シートールコロナ、ですか。ここの都市機能としては隣のオークによって支配されている土地からの防衛とそれに関する物資の確保に特化している、と考えていいですか?」

「その通りです、物資の確保に関しても基本的には交易によるものであり、現在のシートールコロナの住民は兵士と、希望するその家族に限られていますね」

「ありがとうございます!」

 というわけでこの世界に降り立ってから、今日で3日目。

 1日目の朝からひたすらこの世界の成り立ちとか信仰やら魔法やら謎の天候やら要は現代日本と違う部分、あととりあえずはこの国についてひたすらミオスさんに講義を受けていた私です。

 いやーこういうのはいいなー。自力で文字も読めるといいんだけど、どうも識字率はそんなに高くない世界っぽくて読めなかったのが残念です。次のループ前に読めるようにしてもらおっと。

 今回のループの目的は2つ。1つはまず、この世界に関する基礎知識を得ること。まずは知らないとどうしようもないし、あとは『自分がどうやって世界の危機を何とかするか』の手段に使えるものがあるかもしれないし。

 例えば戦いにでもなるとして、もし魔法が使えるとしたらそれだけで有利だし、いわゆるマジックアイテムなるものがあれば魔法が使えなくても上手くアイテムを選べば戦いやすいかもしれないし。あとテレポートとか高速移動の魔法がなければ、出現位置を調整しないと3日でどう足掻いても解決できなくなるし。

 魔法の系統についてはいろいろ教えてもらったんで、次あたりのループで素質があるか試してみるか……ちなみに精霊魔法はまず私に精霊とかいうやつが見えてないし、神聖魔法は信仰心が必須らしいし(あの最高神への信仰? うーんちょっと難しいな尊敬の意がちょっとなー抱けなくてなー)、この辺りは諦めた方が良さそうですが、言霊魔法とか占術魔法とかそういうのはまだもしかしたらやってみたらいけるかもしれないので。

 あとは技術レベルも知っておかないと、戦略の1つも立てられないですからね。いや実際戦いになるのかとかよく知らないけど!

 ――そして、もう1つの目的は。

「他に、知りたいことはありますか? 必要でしたら他の国などにつきましても……」

「あっ、今は大丈夫です、もしかしたら後でお願いするかもなんですけど」

「わかりました。では……」

 そうミオスさんが言いかけた瞬間、ごご、と嫌な地鳴りを響かせて地面が思いっきり揺れました。

「な、何が!?」

 うーん震度7あるなーこれは、と妙に冷静な頭で、慌てるミオスさんを机の下に引っ張り込む私。いや実際にそんなことが有効なのかはわかりませんが。これから起こされるはずの『世界の滅亡』とやらに対して。

 そう。今回はあえて『世界の滅亡』を迎えることで、それがどんな形で引き起こされるのかを確認する。3日間ひたすら講義してもらったのは、それまでの時間の有効活用です。ぼーっとしてても勿体ないし、記憶は引き継ぎできますしね!

 とりあえず教科書通りに机の足を引っ掴む私。怯えた顔で、それでも防御か何かの魔法を掛けてくれたっぽいミオスさん。激しくなっていく揺れ。そろそろ夕焼けの近づいた窓の向こうでも、喧騒が酷くなって、鳥の群れやらワイバーンやら巨鳥やらあとどうやら人影やらが凄まじい勢いで空へと逃れ――


「なぁああああ!?」

 突如として炸裂する床、いやそれより下の――地面!

 何かばーって白く光って吹っ飛んで熱っこれちょっと焼けっはぁああ!?

 ――それが、最後の記憶でした。


「ちょっと世界滅びちゃったじゃないですか」

「でも私も死んだから巻き戻ったでしょ?」

「そうですけど!」

 ぷんぷん怒っている最高神の後光はまだ目に優しかったんだなぁ、と思いつつ、私はまた彼女の前にいました。

「てかあれ一体何が起きてたんだかわかります?」

 とりあえずなんか爆発した、くらいしか私にはわからなかったんですけど。

「あれは――『世界そのものを爆発へと変えた』と思われます」

「はい?」

「この世界は球形であり、その表面に自然環境などがあって、全ての生物は表面、もしくは地底の浅い部分に暮らしているはずなんですけど」

「あ、うんそれはなんか教わりました」

「この『球の部分』がまるっとエネルギーになって」

「なんて?」

「まぁそうなったら爆発するしかないわけですよ」

「は?」

「わかりますよね」

「わかるけどわかりませんね」

「手段とかですか?」

「うんまぁだいたいそれですね!」

 ――いや、まぁ、これ3日で解決できるんですかね。既にセッティング済みだったりとかしない? 大丈夫?

 まぁそこら辺もトライアンドエラーで調べたりしてみるしかないか……。

「それではまた同じ場所に転送しますけど」

「あっすみません待って下さい」

「これ以上詳しいことは私にもわかりませんけど」

「そうじゃなくて」

 転送される前に急いで口を挟んで、私はぴしっと人差し指を立てました。

「とりあえず私が、この世界にある言語全部、読み書きもできるようにしといてください。あと会話も」

 いやーちょっとあまりに力技な世界滅亡のせいで忘れるとこだった。

 思い出してよかったですほんと。


【to be continued......】

サポートエリアってテニスとかバスケットボールにありそうな気がしました。そのエリアからなら本出場とは別枠の選手がサポートしてもいいとか。