筑波大学教授インタビュー企画 vol.1〜筑波大学 生命環境系 藏滿司夢先生編〜
生物学と芸術の出会い
…今年の芸術祭のテーマは『爆゛』。
様々な学問分野に爆散的に関与する芸術の様相を捉えるべく、広報企画の一環として芸術専門学群以外の学問分野の教授に、普段の先生の研究や芸術に対するイメージなどを聞いてきました!
筑波大学 生命環境系
藏滿司夢先生
今回伺ったのは生命環境系の藏滿司夢先生。芸専の学生が受講するサイエンスビジュアリゼーションの授業を担当されている先生のお一人ということでアポを取らせていただいたところ、快く引き受けてくださいました。
―本日はよろしくお願いいたします。
早速ですが、普段はどのような研究をされているのですか。
「寄生バチの生態と行動について研究しています。」
「寄生バチは他の昆虫の体内に卵を産みつけます。例えばこれはイモムシに卵を産みつける寄生バチなんですけど、面白いのは、この卵を産み付けられたイモムシは、しばらくの間は何事もなかったかのように普通に植物の葉を食べて成長していきます。その間体の中では100匹くらいのハチの幼虫がイモムシの体液を吸いながら成長していて、この時に神経系をか消化管とかを食べちゃうとイモムシが死んじゃうからそういうところは食べずに、脂肪とか血球を食べている。産卵後10日ぐらいすると100匹ぐらいが同時にイモムシからハチの幼虫が出てきます。」
「サイエンスビジュアリゼーションの授業では芸専の人たちにもハチの幼虫が出てくるところ見てもらいましたね。オンラインだったんでどういう反応かは見えなかったですけど。」
ー人間には寄生しないって聞いたことがあります。
「今のところ。」
ー今のところ!?
「(笑)。今のところ知られてるのは昆虫やクモ、マダニみたいな節足動物にしか寄生しないとされています。」
ー日本にもいるんですか。
「4000種くらい。しかも毎年新種が10種類くらい見つかってます。4000種全てに寄生できる相手の昆虫の種類が決まっています。つくば市で高校生が見つけた未記載種の寄生バチとかもいますね。」
「このハチ何が面白いかっていうと、ほぼ全ての昆虫に対応する寄生バチがいるんです。昔からよく寄生バチが研究されている理由として、こいつらが害虫を抑えてくれる役割をするんだよね。だから寄生バチをたくさん増やして放すことによって、農薬を減らすことができるっていう考えのもと研究されています。日本でも農業用に寄生バチのサナギが売られていて、トマトとかの葉っぱにダメージを与える蝿は葉っぱに潜っちゃうから農薬が効きにくいんだよね。それに寄生してもらって倒してもらおうっていう商品があって。100匹のサナギで5000円だからまぁまぁ高いよね。一回放してうまく行けばそのまま増えてくれて長期的に使えるけど。
こういうの生物農薬って言うんだけど、こういうのもモチベーションの一つで。
こういう安全な害虫管理の方法として寄生バチを応用したいんですよ、というのを建前とした方が研究費がとりやすくて。
こういう安全な外注管理の方法として規制バチを応用したいんですよ、というアプローチをしつつ、自分の研究のモチベーションは進化の方にも向いてるみたいな。そういう研究をしています。」
ー先生の個人的な芸術に対するイメージをお聞かせください。
「私の人生の中で芸術の接点てなかなか無かったような気がしてて。
私は鹿児島県の奄美大島出身なんですけど、同級生が5人のすごく小さな学校出身なんです。だから美術の授業はあるけどちゃんとした美術の先生がいたことは一回もなくて。だから学問としての美術にちゃんと関わってきたことはあんまり無かったなと。
でも好きな画家はいて。田中一村さんっていうんですけど。
関東出身の方なんだけど奄美大島に移住されて、奄美大島の自然の絵を描かれていて。子供の頃に美術館で田中一村さんの作品をみた時に、自分が住んでる島の風景がたくさん描かれていて。こんな景色本当にあるのかなってぐらいすごく綺麗で。だけどその絵をみた後意識して日常生活の中で探してみると、彼が描いた世界っていうのが身近なところにあって。絵をみて初めて現実にある景色に気づくことがあるんだなっていうのを、中学生くらいの時にすごく感じたのは印象的ですね。
奄美大島は亜熱帯なので、この辺とはまた自然の景色がありますね。いいところなので機会があればぜひ訪れてください。」
―芸専の授業で黄金比が結構生物の中で現れると聞いたんですが、研究の中で生物の身体が芸術的に綺麗、などと感じることはありますか。
「綺麗というか、進化的には違う系統でも、結果的に同じような形が結果として進化するということがあって。例えばオケラっているじゃないですか。オケラの手って苞の中に潜るために、引っ掛けるような構造になってるんですけど、この構造がモグラの手とすごい似てるんですよ。哺乳類のモグラと昆虫のオケラ、全く違う進化を辿ってきたんですけど最終的に似たような構造を持っていて。これを収斂進化って言うんですけど。そういうふうに異なる系統の生き物が、まるで誰かがデザインしたかのような同じような形を備えているのに気づく瞬間というのは、生命現象としても面白いと思うし、芸術を知らない私にとってはすごく芸術っぽく感じます。」
「黄金比とかフラクタル構造とかも、我々は見て綺麗だなとかって感じるけど、綺麗だなんて感じること自体もたぶん何かしらの我々人間の進化じゃないですか。感じなくても良かったはずなのに。そこになにか、そういう自分達がなんで綺麗だって感じるのかなという進化、そこの理由みたいなのも興味があります。」
ー今後筑波大学でやってみたいことなどはありますか。
「筑波大学の中で見れる生き物のリストとか。ここに行けばこれが見れるみたいな。芸専の学生と協力してマップが作れたらいいですよね。こんな花が見れるとか。」
ーそれやってみたいですね!
ー最後に、筑波大生にメッセージをお願いします。
「やっぱり自分は昆虫についてやってるから、筑波大学にはいろんな昆虫がいるのでぜひ目を向けてほしい。」
ーやっぱり嫌がってちゃダメですよね。
「いや、嫌がるのもさっきの話じゃないけど正常な反応じゃないですかね。知らないものに対して拒否反応を示すのって正常なので。」
「何か知っていて嫌うのとわからなくて嫌うっていう2種類があると思う。わからないから嫌う、だと、もしかしたらなにか面白い世界を見過ごすことになっているかもしれない。知ってみることは大事かもしれないですね。」
ー構内でここがアツい、みたいなエリアってありますか。
「一番観察しやすいのはやっぱり、一の矢の方の植物見本園ですかね。誰でも入って大丈夫です。面白いと思います。」
専門の寄生バチをはじめ、専門でない芸術関連についてもたくさんお話しいただいた藏滿先生。インタビュー後には寄生バチなど、研究室で飼育している昆虫をたくさん見せてくださいました。
生物学と芸術、一見共通点はあまりなさそうですが、黄金比やフラクタル構造などの「美しさ」に通ずる視点は生き物にもみられますよね。
専門分野の垣根を越えて、学内生き物マップが完成するというプロジェクトもぜひ実現させたい……!
芸術から、芸術以外の分野に爆発していく。
型にハマらない芸術祭の姿お届けできたでしょうか。
教授インタビューはまだまだ続きます!
お楽しみに。
ちなみに、インタビュー中に藏滿先生がお話しされていた田中一村。
現在東京都美術館で田中一村展が開催されています。
ご興味のある方はぜひ訪れてはいかがでしょうか。
https://www.tobikan.jp/exhibition/2024_issontanaka.html