野手が飛球をお手玉した場合のタッチアップ
野手が飛球をお手玉した場合、走者がタッチアップのスタートをして塁を離れてよいのは、いつか。それは、野手が最初に飛球に触れた時であって、最終的に捕球した時ではない、という解説に接しました。
調べてみると、「相互に矛盾する規定が、離れた2か所に置かれている、という規則を整理するトレーニング」となる好適な素材のようであることが分かりました。少し細かくなりますが、調べた結果を野球法小ネタとして書き残します。
上記の解説のもとになったプレーは、次のとおりです。
上記の高校野球のプレーでは、走者のタッチアップスタートがあったわけではないようです。これを機に、一般論として、いつタッチアップスタートしてよいかが話題になった、ということだと理解しています。
上記の、走者がスタートしてよいのは野手が最初に飛球に触れた時、というのが、公認野球規則の条文でどのように表現されているのか、調べてみました。
「走者アウト」に関する公認野球規則5.09bの(5)には、次のように書かれています。
飛球が「正規に捕らえられた後」、「走者が帰塁するまでに」タッチしたら走者アウト、というわけですから、走者は、飛球のタッチアップでは、「正規に捕らえられ」た後、タッチアップスタート(離塁)してよいことになります。
ここには、野手が最初に触れた時、ということは、明示的には、書かれていません。
そうすると、「正規に捕らえられた」とは、どういう意味か、ということが、問題となります。
多分、それは、「打者アウト」に関する公認野球規則5.09aに書かれているだろう、ということで、5.09a(1)を見てみます。
つまり、「正規に捕らえられた」という概念は、打者をアウトにするための概念として厳格に観念されており、お手玉の最中であるのではダメで、「しっかりと受け止め、かつそれを確実につかむ」までは打者はアウトにならない、というわけです。
(この、「正規に捕らえられた」の考え方が、俗に、「完全捕球」などと呼ばれているようです。)
そして、この「正規に捕らえられた」という同じ文言が、走者のタッチアップスタート(離塁)に関する5.09bでも、使われているわけです。
ところが、上記の引用部分をよく見ると、原注2で、「走者は、最初の野手が飛球に触れた瞬間から、塁を離れてさしつかえない。」とも書かれています。
冒頭で紹介した解説の、走者がタッチアップのスタートをして塁を離れてよいのは、野手が最初に飛球に触れた時であって、最終的に捕球した時ではない、という基準は、多分、ここから来ているのでしょう。
他方で、「走者アウト」に関する5.09b(5)では、ずっと上のほうで引用したように、「[飛球が]正規に捕らえられた後、走者が帰塁するまでに、野手に身体またはその塁に触球された場合」と規定されています。「正規に捕らえられた」という、「打者アウト」と同じ文言が用いられている以上、この「正規に捕らえられた」は、「手またはグラブでしっかりと受け止め、かつそれを確実につかむ行為」と考えるのが素直でしょう。
そして、それを否定する原注2の記述が、走者に関する5.09bでなく、打者に関する5.09aのほうに、置かれているのですね。
もし、野球ルール界で受け入れられている原注2の記述が正しいのだとしても、そのような記述は、打者には関係がなく、走者に関することであるわけですから、5.09bのほうに移すべきではないか、と考えました。
もっというと、飛球に野手が触れたらタッチアップスタートしてよいという基準を採用するのであるなら、そもそも、「野手に正規に捕らえられた場合」という基準が、5.09bに書かれていることがそもそもおかしい、ということになりそうです。「野手に正規に捕らえられた場合」という厳格な基準は、「打者アウト」かどうかとの関係で意味を持つものなのであって、「走者アウト」かどうかという問題には、無関係だからです。不要な記述であり、かつ、誤っている、ということになるように思われます。
そうであるとすると、走者に関する5.09bでは、例えば、次のように規定するほうが、美しく、必要十分である、ということになります。
(上記の改善案は、2024-08-10に、更に改善しました。)
以上のことを、スライドにまとめてみると、次のようになります。
公認野球規則が、米国で原版が作られているものであることは、承知しております。原文も、見ております。
ここでは、法的な頭のトレーニングの材料として良いかも、と思って、小ネタとして書きました。
冒頭の写真は、難しい話には関係のない、エスコンの餃子です。
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