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Photo by
kiyofico
ショートショート「無理ゲー」
駅前に到着したとたん、足がすくんだ。
なんだよこれ。人、多すぎだろ。
肩が触れるどころか、ぶつかりながら歩いてる。こんなの無理。無理無理無理。
引き返そうかと思ったが、ぐっと堪える。思い切って歩きだした。
恐怖に声が漏れそうになるのを堪えながら人波に飛び込み、改札を抜けた。ホームもまた隙間が見えないほどの人でごった返している。たしかにこれ、ハードモードだわ。
電車がホームに滑り込んでくる。車内はやはり人でいっぱい。ドアが開き、どっと出てくる。それをぎりぎりで避け、わずかに隙のできた車内に飛び込む。が、すぐに他の乗客が乗り込んできて、ぎゅうぎゅうと押し込まれた。思わず悲鳴をあげた。
「ぎゃあああああっ! 助けてくれえ!」
我慢できずにゴーグルを外す。
「駄目でしたか」
モニタに映ったキャストの女性がにっこりと微笑む。とたんに恥ずかしくなった。
「やっぱ無理でした。意気地なしだなあ俺」
「いえいえ、電車に乗り込まれただけでもすごいです。ほとんどの方が駅前の人込みを見た瞬間にでリタイアされますから。上出来ですよ」
慰められてしまった。すごすごとブースから出る。
振り返って、あらためて施設の名前を見た。
【最恐空間体験 平成ラッシュアワー!】
ほんとに怖いわ、これ。
新刊、もうすぐ発売です。