彼女たちのコズミック・イラ Phase01:ハイバル研究所

Introduction

C.E.51。コロニー・メンデルの研究者、アウラ・マハ・ハイバルは施設周辺にいた一人の少年と出会う。ギルと名乗る少年はアウラの招きに応じて、彼女の研究所へと足を踏み入れる。

ギルはその研究所で、アウラのサポートをするクライン博士を交えた3人の奇妙な交流を始める。そして、彼と彼女たちの研究は、静かに世界を動かし始めるのであった。

note初投稿となります。本作は機動戦士ガンダムSEEDFREEDOM、及びシリーズ作品の考察を多分に含んだSSとなります。作品のネタバレも含みますのでご了承ください。


C.E.51:コロニー・メンデル
 
一人の女が気晴らしに研究所の周囲を散策していた。妙齢で顔立ちは整っており、金髪が美しい女。しかし、身に着けている白衣は皺だらけであり、美しく輝く金髪も手入れを怠っているためか、とても男を惹き付ける様相ではなかった。
 
「はぁ……あのパトリックって男も、ずいぶんと簡単に言ってくれるものね。」
 
自らの知識や頭脳には相応の自信は持っていたものの、顧客である依頼人からの要求は難題なものであった。
 
「案件が案件だけに、大っぴらに出来ないってのがまた面倒だし。まぁ、予算だけはたんまり貰っているから、今さら断るわけにも、出来ないなんて言うことも無理っていうのがまた……」
 
施設の外を歩いても解決はしそうにない問題。しかし、研究室の中に閉じこもっているよりは遥かに精神衛生上も好ましいといえた。そして、何よりも室内では得られない発見に期待が出来るのであった。
 
「ん?あれは……」
 
そうして女がほっつき歩いていると、行く先に小さな人影を見つける。施設前の看板モニュメントに腰を掛け、その周囲をつまらなそうに見渡していた。
 
「ずいぶんと退屈そうね。何か面白いことでも探したらどうなのよ。」
「………」
 
女はその人影、あどけなさが残る少年のもとへと歩み寄り声を掛ける。しかし、少年が彼女の問いかけに応じる気配はなく、虚無感を滲ませたままコロニーの空を見上げていた。
 
「一応ここは関係者以外入っちゃダメなんだけど。ねぇ、聞いてんの?」
 
先程よりも大きな声で少年に声を掛ける女。その呼び掛けにようやく少年は腰を掛けていたモニュメントから飛び降り、彼女の傍に来るのであった。
 
「坊や、名前は?ママとパパはどうしたの?」
「……人に名前を聞くんだったら。先に名乗るべきじゃないの?」
「くぅぅ……まぁ、そういうものよね。」
 
生意気だと思いながらも、女は自らの非礼を正すと、改めて少年に対して口を開く。
 
「私はアウラ。そこの施設で研究をしている所長よ。それで、君は?ママとパパはどうしているの?」
「僕はギル。親は……ずっと仕事をしているから、いつも一人。勉強しても面白くないし。外で遊ぶのも……あまり面白くない。」
 
10歳から12歳程度の背丈であり、まだまだ幼さが残る少年。施設内には同年代の子供は少なく、仮にいたとしても秘匿性の高い場所に隔離されていることがほとんどであった。
 
「ふーん……ギルは勉強がつまらないと感じているんだ。ま、やりたくもない勉強をやらされたら、面白いと思うほうが不思議よね。」
 
アウラはギルの言葉に共感して納得してみせる。その上で彼女は彼を説くような言葉で誘おうとする。
 
「それじゃあ、私のところで面白いものでも見つけてみる?もしかすると、勉強をする気になるかもしれないよ」
「オバさんのところで?」
「うぐっ……お、おばさんって……!私はまだギリギリ20代……いや、あんたくらいの子からすれば、もうおばさんって言われてもおかしくないわよね。」
 
ギルの悪意のない言葉が突き刺さるアウラ。どうにか気を取り直し、彼女は幼い少年に手を差し伸べ、改めて自らの研究施設へと招待をする。
 
「面白いかつまらないかは分からない。でも、一人でいるよりは退屈はしないと思うわ。」
「……うん。」
 
無表情だった少年の口元が僅かに綻びを見せる。妙齢な女が見せる打算のない笑顔を前に、彼は少しだけ心を開く。そして、彼女が差し伸べた手をしっかりと握るのであった。
 
 

 
 
「お帰りなさいアウラ。気分転換は出来たかし……あら?」
 
アウラがギルを連れて研究室に戻ってくると、明るい声の女が2人を出迎える。アウラと同等かそれ以上に整った顔立ち、何よりも鮮やかなピンク色長髪が際立つ彼女は、アウラの連れてきた少年に視線を向ける。
 
「どうしたのその子?もしかして、あなたの息子?」
「そんなわけないでしょ。うちの施設前でつまらなそうにしていたから拾って来たのよ。」
「ひ、拾ってきたって……」
 
アウラの些か語弊のある言い方に困惑するギル。しかし、彼は自分の意思でここへ来たため、彼女に悪意がないことだけは理解していた。
 
「へぇ……ずいぶんと可愛い子ね。初めまして、私はドクター・クライン。クライン博士って呼んでちょうだい。」
「えっと……ギルです。よ、よろしくお願いします、クライン博士。」
 
アウラとは正反対で、化粧をしっかりとして髪も整っており、着用している白衣にも乱れがないクライン博士。そんな彼女にギルは大人の魅力を感じ、アウラと出会った時とは異なる感情を抱いていた。
 
「おーい博士、そんな子供まで誘惑しようとするな。」
「そんなことしてないわよ。大体アウラだって、ちゃんと身なりを整えればどんな男性だって放っておかないのよ。」
「私は別にいいのよ。男になんてモテたくないし。今は研究が恋人みたいなものよ。」
 
飾り気のない、悪くいってしまえば生々しい女同士の会話を前に言葉が出ないギル。それでも彼の好奇心は刺激され、彼女たちへと問いかける。
 
「ここは一体、何を研究している場所なの?」
「よく聞いてくれたわね、ギル。ここは私たちコーディネイターの未来を作るための研究所。近い将来、私たちが抱える問題を根本的に解決するための研究をしているのよ。」
「えっ……なんだか、凄いことを言っているのは分かるけど……」
 
突然大袈裟なことを言われ、やはり困惑をしてしまうギル。しかし、そんなクライン博士の言葉を訂正するように、椅子に腰を掛けたアウラが声を上げる。
 
「違うわよ博士。コーディネイターの未来だけじゃない。ナチュラルもコーディネイターも関係ない。全ての人類に役立つための研究をしていると言ってちょうだい。」
 
アウラが述べる言葉は、博士の大言壮語に輪を掛けたかのように壮大であった。そうした夢を語るかのように溌剌とした2人の女性を前に、ギルは言葉を奪われるほどに引き込まれようとしていた。
 
「まぁ……そんなこと言っているけど、現状は詰みに詰んでいるような状態でお手上げなのよね。」
「そうでもないわよ博士。ちょうど今日、少年とはいえ男というサンプルを採取することが出来たのだから、これは進展が期待出来るかもしれないわ。」
「さ、サンプル……採取って……」
 
“拾ってきた”よりもさらに語弊のある物言いのアウラ。それでもギルは、彼女の言った通り退屈はしていなかった。一人ではないこの場所が、幼い少年にとっては新しい遊び場となるのであった。


Afterword

初めまして、劇場版SEEDに脳を焼かれたコズミック・イラおじさんです。宇宙世紀おじさんの後釜としてSEED世代に付けられつつある渾名ですが、あの倫理観ガバガバ世界の紀元を付けられること自体が中々に不名誉な気がしたりも。

それはさておき、劇場版の内容を踏まえたSSとなります。前半は若い頃のデュランダル議長、そして劇場版に登場した粛清☆ロリ神レクイエムことアウラ女王をメインとしたオリジナル展開です。

一応はコズミック・イラの年表に沿った展開となりますので、原作から大きく逸脱した展開にはなりません。どのような展開かは察していただければと。

それでは、本作をよろしくお願いします。

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