彼女たちのコズミック・イラ Phase40:自由のある未来

ラクス達がアウラ、ギル、そしてクライン博士ことラクスの母親の過去に触れる核心回となります。

シリアスな回なのですが、作中鈍感力ナンバーワンの駄犬をつれてきているので、シリアス成分が中和されている感じです。あいつ劇場版だとどの女性キャラよりもかわいいからな。

次回はラクスとヒルダの関係、そしてラクスの力が明るみとなります。


前回と同様にメンデル内部のアウラの研究所に辿り着いた調査隊。既に前回の調査で瓦礫の類は撤去されており、今回は訪れた4人全員が内部へと足を踏み入れていた。

「前回来た時に判明していたのですが、やはりアコードと呼ばれたアウラの子供たちは、幼少期をここで過ごしたのだと考えていいでしょう。」

シンとヒルダ前を歩き、その後ろをキラとラクスが周囲を見渡しながら進んでいく。ヒルダの説明を聞いたラクスは、複雑そうな表情を浮かべて声を上げる。

「そうであれば、やはりわたくしもここで生を受けたということは確かなようですね。」
「ラクスはここで過ごした記憶は、全然なかったりするの?」

キラの問いかけに対して小さく頷くラクス。そして、彼女は3人に対して歩きながら言葉を続ける。

「わたくしに物心がついた時、父や母の記憶で一番古いのはプラントにいた時のものです。ですから、生まれも育ちもプラントだと考えていました。」
「確かに僕も、このコロニーにいたっていう記憶はなかったし、ラクスも生まれてすぐにプラントへ移ったのかも。」
「ええ。そして……その時は間違いなく、わたくしは母の手に抱かれていたのだと思います。」

自らの母の足跡を辿るように、ラクスは一歩ずつ前と進む。そして彼女を含めた4人は、前回の調査で中断を余儀なくされた研究室に到着する。

「前回はこの中を調べていた時に、例の連合の艦隊が近付いてきた報告を受けて戻ったんです。」
「それじゃあ、シンもヒルダさんも、まだこの中をよく調べていないんだね。」

キラの言葉にシンとヒルダは深く頷き肯定の意を示す。そして、ラクスたちは意を決して、多くの事実が眠っているであろう室内に足を踏み入れるのであった。

「ここが……アウラ陛下とデュランダル前議長、そして……わたくしの母がデスティニープランを研究していた場所、ですか。」

多くの感情を胸に抱いたまま、アウラの研究室を見回していくラクス。そうしている彼女に対して、ヒルダは写真立てに入った一枚の写真を拾って差し出す。

「そしてこれが、この部屋に置かれていた写真です。」

ヒルダから差し出した写真を受け取るラクス。そこにはアウラとデュランダル、そしてラクスの母親が揃って、仲睦まじくしている姿が写し出されているのであった。

「やはり……そうでしたか。わたくしの母とアウラ陛下は……それに、彼もきっと……」
「えっ……議長がラクスさんのお母さんと?一体どういう……」

写真を見ながらそう声を上げるラクスに、シンが疑問の声を上げる。そうした中でヒルダはさらに、前回読み損ねていたアウラが書き残したであろうメッセージを示す。

「それからラクス様、ここに……おそらくはお母上に対して書いたものと思いますが。」

ヒルダに促され、ラクスは写真を手に持ったままアウラの記したメッセージに目を向け、その文言を確認する。

「“for you seeking Freedom(自由を求めるあなたへ)”……これが、アウラ陛下がわたくしの母へと送った言葉ですか。」

ラクスと共にメッセージを見ていたシンが、その一文を見て思った通りのことを口にする。

「なんだか、まるで別れの言葉みたいな書き方じゃ……」
「みたいじゃなくて、そういう意味で書いたんだろう。おそらく、この言葉を書いた時、ラクス様の母上はもういなかったんだよ。」
「えぇっ……!?じゃあ、あのアウラって女は、ラクスさんのお母さんが亡くなっていることも……」
「知っていた、だけではないのかもしれません。ですが、それ以上のことを知る者は、もはや誰もいなくなってしまった。わたくしの母が、どのように命を落としたのか。アウラ陛下はきっと、それも知っていたのでしょう。」

足跡が途絶えたことまで分かりつつも、肝心な理由までは分からないままであった。そうした中、ラクスたち共にアウラのメッセージを見ていたキラが、不意に3人に対して声を上げる。

「このメッセージって、本当にアウラがラクスのお母さんに残したものなのかな。」
「キラ?」
「隊長?」
「そりゃあ……これだけお母上の私物が置いてある中に書かれていたんだから、そう考えるべきなんじゃないかね。」

キラの言葉に対して、ヒルダが室内の状況から見て取れる要素に基づいた返答をする。しかしそれでも彼は、そのメッセージに込められた意味をさらに深く考えていた。

「確かにラクスのお母さんへ宛てたものでもあるのかもしれません。でも、このメッセージを実際に見た人が、絶対にもう一人はいるはずなんです。」
「もう一人って……デュランダル議長が……!?」

シンの上げた驚きの声に、キラは深く頷く。そしてその考えに、ラクスとヒルダもまた同意をせざるを得ないのであった。

「彼がアウラ陛下と袂を別った理由もまた、このメッセージに込められているのかもしれません。」
「でも、自由って……!デスティニープランってまだ全部よく分からないですけど、自由なんて言葉とは程遠い内容だったんじゃないんですか!?」
「ああ、シンの言う通りだ。でも……あの人は最後まで自由を求めていたのだと思う。」
「議長……自身が?」

キラが目にした、ギルバート・デュランダルという男の最期の姿。キラにとっては終生忘れ得ぬであろうその男と交わした言葉、そして最期の姿は、今でも脳裏に焼き付いているのであった。

「シン、僕とアスランが最後に議長と会った時のことは話したよね。」
「はい。確か……議長がレイに撃たれて、なぜかそこにグラディス艦長も入ってきて……」
「そうだ。彼は……レイは僕を撃ちに来たのか、それとも議長を守りに来たのか。でも、彼が撃ったのは議長だった。ただ、グラディス艦長はどうして来たんだと思う?」
「えっ……?うーん、そりゃあ……グラディス艦長はザフトでも優秀な指揮官だったし、レイと一緒で議長を助けるために駆け付けたんじゃ……ないんですか?」

キラの問いに対するシンの答えを聞き、笑みを浮かべるラクスと呆れ顔をとなるヒルダ。シンのまだ幼くも純真な答えを前に、キラも僅かに苦笑いを浮かべていた。

「だったらグラディス艦長は、ミネルバのクルーを放り出して男のところなんかには行かないだろ。一人の軍人としてよりも、優先しないといけないことがあったんだよ。」
「ミネルバよりも優先って……それが、議長のところ?なんでそうまでして、あの人は議長のところに……」
「デュランダル議長とグラディス艦長が、“そういう関係”だったってことだよ、シン。」
「そういう関係って……ええっと……それはつまり……」

キラが言葉を濁しつつシンに伝えると、彼も薄々とその意味を理解し始める。そして、それまで沈黙を貫いたラクスが、直截な表現でシンに答えを示す。

「男女の関係、ということですわ。婚姻統制の敷かれたプラントにおいては、決して珍しくない話です。法律、そして遺伝子の相性によって引き裂かれたカップル。わたくしたちコーディネイターの限界を指し示す、愚かとも言うべき制度のことです。」
「男女の関係って……うぅぅぅ……!?」

ラクスによる直接的な表現を聞き、シンは顔を赤くして俯き、咄嗟にヒルダのほうを見てしまう。そうしたシンの反応に、ヒルダもまた顔を逸らしてばつの悪い表情を浮かべるのであった。

「きっとあの人がデスティニープランを強引に推し進めようとしたのは、グラディス艦長との関係があったからだ。でも、それは全ての始まりだったわけじゃない。」
「ええ……おそらく、デスティニープランを最初に考えたのは彼ではなくアウラ陛下、そして……」

そう言いながらラクスは、アウラと幼い頃のデュランダル議長と共に写る自らの母親を見つめる。アコード事変の最中にアウラから突き付けられた事実、それが真実である確証を得て、彼女は自らと瓜二つの母親の顔を見つめていた。

「ラクス、やっぱりアウラは君のお母さんのことを……」
「そういうことなのでしょう。そしてデュランダル議長もまた、わたくしの母に対してはきっと……」
「ええっ!?議長が……!?いや、それはともかく、あの女王様が一体どうして……あっ。」

シンはおおよそ理解し難いことを述べるラクスに驚きの声を上げる。しかし、彼はラクスに思い馳せる女性の存在を知っており、今この瞬間、自身の傍にいることにも気づいたのであった。

「ヒルダ隊長。あなたであれば、アウラ陛下の母に対する気持ちが理解出来るかもしれないのですが……いかがですか?」
「……ラクス様には隠していたつもりでしたが……やはり、お気づきでしたか。」

ヒルダのラクスを慕う心は、この場いる全員が分かっていることであった。シンも、キラも、そしてラクス自身も。しかし、ヒルダは自らの思いをラクスへと伝えることを避け続けていたのであった。

「女王アウラがラクス様のお母上に、どれほどの思いを抱いていたのかは理解しかねます。ですが、私と同じ悩みや苦しみを抱いていたのかと思うと、決して他人事とは思えない気持ちになってしまうものです。」

同性に好意を抱いてしまった人間として、ヒルダはアウラの抱いていた想いを理解出来てしまう。だが、それをラクスに知られることを彼女はひたすらに恐れていた。

「思いを言葉にして伝えることは、とても大事なことです。それによって自分が傷付いても、相手を傷付けてしまっても。伝えられることに意味があるのですから。」
「ラクス様……!」

長らくヒルダの心に圧し掛かっていた重たい感情が、ラクスの言葉を聞くことによって軽くなっていく。自ら思いが伝わった喜びは、彼女に一つの区切りを迎えさせようとしていた。

「ですが、わたくしが愛しているのはキラだけなのです。例えヒルダ隊長がわたくしにどのようの思いを向けてくださっても、それに応えることが出来ないと……分かっていただけますか?」
「はい……!承知していました……!私の思いは……決してラクス様には伝えないと、そう覚悟をしていましたから……!この思いを伝えられただけで……私はもう……!」

万感の思いを込めてラクスに言葉を紡ぐヒルダ。自ら思いを正面から受け止めてくれたラクスを前に、彼女はただひたすらに感謝の意を示すのであった。

「えーっと……それじゃあ、これがヒルダ隊長にとっては、初めての失恋……ってことなるんですか?」
「あぐぅっ……!」
「っ……!シンっ!そういうことをはっきり言うのは……いや、僕が何かを言える立場じゃないんだけど……!」

思ったことをそのまま口へと出したシンの一言が、ヒルダの心に深々と突き刺さる。そんな彼をキラは窘めようとするが、そのキラ自身がヒルダの心をかき乱す存在である以上は強く言い出すことが出来ずにいた。

「人を好きになること、愛することは人それぞれの自由です。それを運命という言葉で遮り、否定することを誰も望みはしないでしょう。わたくしたちが目指す世界には、そうした自由が当たり前に存在しなければならないのです。」

人の心が縛り付けられることをラクスは誰よりも忌避していた。誰かを認めることが出来、誰かを否定することなく、互いを認め合うことが出来る世界。

決して容易ではないことは承知であった。しかし、それでも彼女は自らの想い人と共に、そうなれる明日を目指すのであった。

C.E.53:コロニーメンデル

「ほら!ギルもアウラも早くこっちに来てっ!」

緑の溢れた公園で、クライン博士は一人はしゃぎながらギルとアウラを呼び寄せる。そして、旧時代から然程形状が変わることがないカメラ機器を操作して、3人で写る写真を撮影しようとしていた。

「別に写真なんていつでも撮れるでしょ。どうしてこんな忙しい時に……」
「だって、これから子供たちが増えてきたら、私たちだけで記念写真なんて撮る暇がないでしょ。ね、ギルもそう思うでしょ。」
「う、うん……」

渋々といった様子を見せるアウラと、博士に促されて肯定の返事をするギル。根っからの研究者であるアウラと、未だ内向的であったギルは、そうした博士の女性らしさについていけずにいた。

「ここに立っていればいいんでしょ。ほら、ギルも私の隣に……」
「うん……それじゃあ、クライン博士は僕の隣で……」
「だーめ。そんなにお行儀よく写っただけじゃあ、面白くない……でしょ!?」

そう言いながらクライン博士は左右の手でアウラとギルを抱き寄せると、お互いの身体を密着させるようにしてカメラのレンズへと収まる。その行為にギルとアウラは困惑して、堪らず声を上げてしまう。

「博士……いくらなんでもくっ付き過ぎじゃ……!」
「ちょっとっ!あなた自分が既婚者だって自覚あるの!?」
「えー、好きだったり仲良しだったりすれば、これくらいぎゅぅぅってくっ付くのは当然でしょ。」
「す、好きって……!」
「勘違いしちゃダメよギル。この博士の言う好きってのは、恋愛感情なんてものは一切ない言葉だから……あぐぅぅ!ちょっ……く、くるしいぃぃ……!」

アウラとギルの双方に胸が押し当てていることも気にせず、クライン博士はカメラ写りを最優先として密着していた。

「ほら、もうシャッターが切られるわよ。連射だからヘンな顔でも写っちゃうかも。」
「だったら……少しは離れなさいよ……んぐぅぅっ!!!」
「は、博士……!僕にも色々と当たってるからっ……あうぅぅっ!」

自由奔放なクライン博士に振り回されるアウラとギル。しかし、2人は確かに幸せを噛みしめてもいた。この幸せがいつまでも続くようにと。決して運命が狂うことなく、家族が増えてもより良い明日を迎えられることを。彼女たちはいつまでも願い続けているのであった。

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