彼女たちのコズミック・イラ Phase34:熾天使の戦女神
サブタイトルはセルフオマージュ、そして唯一のオリジナル設定メカの登場となります。
たぶん3番艦は建造されていると思うんですよね。ただそれがドミニオンのように
大西洋連邦の独自建造か、またオーブの地下で出来上がるか微妙なところな気がしたり。
あとついでにキラとアグネスが再会します。劇場版本編で後ろから襲い掛かって以来の再会です。
「ミレニアム左舷へ敵特装艦接近!」
「上げ舵20。ゴットフリート照準。目標、敵特装艦ガーティー・ルー級。」
ミレニアムの右舷に陣取って支援砲撃をしていたアークエンジェル級3番艦セラフィムは、急速に舵を上げて3隻のガーティー・ルー級の視界に突如として姿を現す。そして
「てぇぇぇぇぇぇっ!!!」
艦前方に搭載された二門の連装主砲が放たれ、その全てが一隻の敵艦に直撃する。ミレニアムの横腹を叩こうとした艦隊は、突然の出来事に指揮を乱し始めるのであった。
「お久しぶりですコノエ艦長。長らく連絡を絶ってしまい、心配をおかけしたと思いますが。」
『いえ、心配なんてそんな。ラミアス艦長たちが拘束されたと聞いた時から、みなさんがいつ帰ってくるかと考えていたものです。まぁ、少々驚いてはおりますけどね。』
大西洋連邦で秘密裏に建造をされていたアークエンジェル級3番艦、セラフィム。アコード事変への投入は間に合わなかったものの、コンパスの活動再開に際して同国は本艦の運用をコンパスへと一任し、その乗員たちもまた密かに招集していたのであった。
「ミレニアムの被害状況は?」
『本艦自体に被害はありません。しかしジャスティスが敵陣深くに孤立しているので、速やかに救援を行えればという状況です。』
「了解しました。そちらに関してましては先行した機体が辿り着いている頃かと。シンくんとルナマリアさんのほうにも、こちらの艦載機を援護に向かわせています。」
『それはまぁ……もうお頼みすることはほとんど残ってなさそうですね。』
そうしてミレニアムとのコンタクトを取ったセラフィムは、艦首を並べて前方に展開する敵艦と相対する。
「フラガ大佐は核攻撃隊の撃破を優先、本艦はミレニアムと共に敵主力艦隊を撃滅します。」
『りょーかい。それじゃ、補給が終わったお嬢さんと一緒に行くとしようかね。』
「………」
艦内に通信が届いているのを理解しながら、フラガ大佐はラミアス艦長にヒルダと共にシンとルナマリアの救援に向かうと口にする。その軽口を叩きながら、年下の女性であるヒルダをエスコートするような態度に、ラミアス艦長は露骨に不機嫌な表情をしているのであった。
「あ、あの……艦長。命令を……」
「ローエングリン1番2番起動。目標、敵旗艦アガメムノン級母艦。」
「ちょっ……艦長!?」
「キラくんとアグネスさんは離脱済みでしょ。だったら、さっさと終わらせてしまいましょう。」
フラガ大佐との関係が倦怠期に入ったのか、あるいは自身以外の女性に現を抜かそうとしたからなのか、ラミアス艦長の不機嫌さは敵対する者たちへ向かい、その激情を静かに叩き付けようとしていた。
◇
敵艦隊の奥深くで孤立し、撃墜の危機に瀕していたアグネスが搭乗するジャスティス。しかし、撃破される寸前に現れたフリーダムによって、彼女は生き長らえていた。
「何よ……こんなところに来て。わたしところなんかに何しに来たのよ……!?」
涙や小水は既に出し尽くし、アグネスは放心しながら駆け付けた機体のパイロットへ声を荒げていた。
『とにかく君はミレニアムに退却を。あとは僕とマリューさんたちでどうにかするから……!』
「っ……!ちょっと!待ちなさいよっ!」
自らを一方的に助け、そしてまた一方的に指示を出してその場を離れようとするフリーダムのパイロット、キラ・ヤマト。アグネスは彼に言いたいことが山ほどあったにも関わらず、ただ引き止める声を上げるだけで精一杯となっていた。
「どうして私のことなんか助けているのよ……!だって私……あんたのことを……!」
『死なせたくないから。君を守れないと、悲しむ人がいるかもしれないから。それだけじゃダメ、かな。』
キラはアグネスに見向きしていなかった。そして、それは今も同じであった。だが、それでも彼は彼女を助けていた。それがキラ・ヤマトという人間の本質。自らの都合と勝手、そして自由を行使して他者を救うために彼は戦っていた。
「何よそれ……!バカっ、ホントバカっ!意味わかんない!何よ死なせたくないって!?守りたいから!?ふざけてるの!?それが自分を殺そうとしたやつに言えるセリフ?どこまでお人好しなら気が済むのよっ!?」
感情を剥き出しとしながら、コックピット越しにキラを罵り続けるアグネス。自らの思い通りなるか否かに関わらず、彼女がこうして男に声を荒げて罵声を浴びせるのは初めてであった。
『アグネス。』
「な、何よ……言いたいことがあるなら、あんたもはっきり言えばいいじゃない……!」
『ジャスティスの残弾とエネルギーは、まだ残ってる?』
「え、ええ……半分くらいは、まだ……」
自らが罵った以上の言葉を受ける覚悟は出来ていたアグネス。しかし、キラから掛けれた言葉は、彼女が本当に求めているものであった。
『それじゃあ僕についてきて。この周辺の敵よりも、今は側面に展開した奇襲部隊を倒さないとダメだから。』
「はぁっ……!?どうしてわたしと一緒になんて……!」
『無理なようだったら別に構わない。でも、敵部隊の中を通るのだけはダメだ。セラフィムの攻撃の邪魔になるから。』
「む、無理なわけないでしょ!?ついていくわよ!や、ヤマト隊長の命令に従うわよっ!」
顔を赤くしてキラの要請を受け入れるアグネス。胸の鼓動が高鳴る感覚と、下半身に広がっていた失禁による不快感が下腹部の疼きに変わる心地良さ。自らに対して見向きもしなかった男に対して、彼女は改めて拘りを見せようとしていた。
『行こうアグネス!敵艦はもう近付いているみたいだ!』
「あっ!待ちなさいよ!ジャスティスのほうが前衛向きの機体なんだからぁっ!」
そうしてフリーダム、ジャスティスの2機はモビルアーマー形態に移行すると、最大速度で奇襲部隊のもとへと向かう。その直後に、アグネスが躍起となって沈めようとしていた敵の大型母艦は、遠方から襲い来る6本の禍々しい破城砲の光に包まれ、飛び立つ2機の背後で盛大に爆ぜるのであった。