彼女たちのコズミック・イラ Phase11:青のイレギュラー
幼少期のオルフェ、そして相方のイングリットが登場する回です。ブラックナイトの中では同年代の2人であったりも。
本編中ではほとんど掘り下げられなかったので、多分こうだったんじゃないかなぁ、という考察的な側面が強いです。
次回は精神に変調をきたしたアウラが、肉体的にも危険な状態となります。
「こちらが今回の測定データとなります。」
「想像以上に良い数値が出ているわね。やっぱり、あの子たちの潜在能力は計り知れないわ。」
オルフェを始めとした、計画に参画した子供たちの脳波測定結果を確認するアウラ。部下である研究員に提示されたデータに、彼女は大いに満足をしていた。
「将来的には脳波による通信だけなく、周辺機器の遠隔操作なども可能になるかと。」
「あらゆる分野で必要な人手を削減出来そうね……あ、もちろんあなたたちがいらなくなることはないわ。」
「恐れ入りますアウラ様。我々としても、アウラ様が進める計画の一助となれて幸いです。」
彼ら彼女たちは、アウラが進める計画の信奉者ともいえる人間であった。彼女との付き合いはギル以上の長さであり、クライン博士とも変わらず、アウラは全幅の信頼を置いて子供たちの世話も任せていた。
「一つ気になるのは……この脳波干渉が成長するにつれて低くなることかしらね。」
「どういうことでしょうか?」
「ほら、よく言うでしょ。子供の時のほうが霊感とかが感性が鋭くなるって。いくら専用の機器を作っても、肝心な使う人間がいなくなったら意味がないでしょ。」
「そう……ですね。そればかりは経過を見なければなんとも……」
子供たちが有する人々の未来を作る強大な力は、その成長と引き替えに失われる可能性があった。アウラはその懸念を払拭するべく、既に方策を考えてはいるのであった。
「外的な要因によっても、脳波干渉の力は影響が大きいかもしれません。この子たちの多くはまだメンデルから出たことがないので、そちらに関しても不明な点が多すぎるのが現状です。」
「メンデルの外……ね。」
施設内のスペースで無邪気に遊び回る子供たち。その幸せそうな光景を目の当たりにしながらも、アウラは失ったものに思いを馳せていた。
「母上!」
研究員と話し込んでいる最中に聞こえてくる声。その幼くも利発さを感じさせ、アウラを母と呼ぶ声のほうに彼女は顔を向ける。
「元気そうね、オルフェ。ちゃんと良い子にしてる?研究スタッフには迷惑を掛けてない?」
「はいっ!僕は良い子にしてますよ。」
そうして近付いてきたアウラの息子、オルフェの頭を彼女は優しく撫でる。そして、その傍らには青い髪が美しい、オルフェたちと同世代の少女が大人しそうに立っていた。
「あ、あの……アウラ様、お久しぶりです。」
「いつもオルフェと一緒に遊んでくれてありがと。この子もあなたが一緒で、退屈をしていないと思うわ。」
「はい……ありがとうございます。」
不思議とオルフェは、この青髪の少女と共にいる機会が多くなっていた。決して他の子供たちとも不仲ではなかったものの、特にオルフェの傍にはこの少女がおり、彼自身も煩わしくする様子を見せはしないのであった。
「ねぇ母上、ラクスはいつになったら帰ってくるんですか?」
「えっ!?そ、そう……ね。まだ連絡がないから……私もはっきりとしたことはいえないのだけど……」
純粋な瞳でアウラを見つめるオルフェの問いに、彼女は言葉を詰まらせる。子供を相手に嘘を付くわけにもいかず、咄嗟に目を逸らしてみると、そこには青髪の少女が寂しそうな表情を浮かべてオルフェを見ているのであった。
「今はまだ、ラクスがいなくても寂しくないでしょ。でも大丈夫、あの子とは必ずいつか会えるから。安心してちょうだい。」
「はい!僕はずっと待っています。」
アウラの言葉を理解して、一切の不平も不満も見せる様子がないオルフェ。自らの運命を知っている子供は、その瞳に一点の曇りもないのであった。
「まだ私は仕事が残っているから、また今度ゆっくりお話をしましょ。」
「分かりました。いこっ、イング!」
「あっ……待ってよオルフェ!」
そう言いながら他の子供たちが遊んでいた場所に、青髪の少女を連れて駆け足で戻るオルフェ。そんな2人の背中を、アウラは複雑な表情で見つめていた。
「イング……ええっと、確かあの子は……」
「イングリット・トラドールです。生まれたのはオルフェ様とほぼ同時期。しかし、子供たちの中では唯一、件のブルーコスモス襲撃事件の後、メンデルの外から退避していました。」
青髪の少女、イングリットは生まれこそオルフェや他の子供と同じ時期だったものの、物心がついてからメンデルで過ごすようになったのは大分後となっていた。
そのため、他の子供たちに溶け込めない場面も見受けられたのだが、そうした彼女の手を取り、共に仲間として率先して受け容れようとしたのはオルフェなのであった。
「オルフェとはずいぶんと仲が良さそうね。」
「そうですね。脳波干渉の同調率も、また遺伝子上の相性についても、子供たちの中では群を抜いています。とはいえ、後者についてはクライン博士の娘、ラクス様には遠く及びませんが。」
研究員の言葉を聞く中で、アウラの中には一抹の不安が過っていた。どれほど僅かな時間であっても、外の世界を見てしまった子供が、どのような感情を得て戻ってきたのか。そして、もうここには当分戻って来ないであろうクライン博士の娘、ラクスがどのように育っていくのかを。不確かな未来が増えることほど、彼女の心を不安にさせるものはなかった。
「アウラ様、どうされました?顔色が悪く見えますが。」
「……なんでもないわ。それよりも、近いうちにまたギルバートが戻ってくると思うから、その時もしっかりと説明をお願いするわ。」
「はい、かしこまりました。アウラ様。」
そう研究員に伝えると、アウラは踵を返して研究室へと戻っていく。しかしその足取りは重く、全身を支配するような悪寒に苛まれているのであった。
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