彼女たちのコズミック・イラ Phase35:報復の連鎖
コズミック・イラの悪いところを煮詰めたようなシーンとなります。じゃあいいところは?とは言われて書ける要素もないんですけどね。
キラの戦い方については独自の設定が含まれています。劇場版で久方ぶりにパイロットを手に掛けましたから、たぶんあれはやめたのかと。
次回は戦闘後のやり取りです。帰還したアグネスの描写もあります。
既に奇襲部隊を構成していた特装艦3隻のうち、一隻は轟沈していた。そして残る2隻のもとに、キラの駆るフリーダムとアグネスのジャスティスが接近を試みる。
「投降してください!あなたたちの作戦は失敗に終わっているんだ!」
特装艦へと向かい通信を繋げ、投降を促すキラ。しかし、その返答は決して彼が求めるものではなかった。
『何を言っているのだ。我らの目的は既に達成されている!今度こそ、貴様らコンパスと憎きコーディネイターを討ち滅ぼすのだ!』
「達成されている……!?一体どういう……くぅっ!?」
投降の意思がないことを、言葉以上に攻撃行動で示してくる奇襲部隊の残存兵力。通信回線を開いたままであったフリーダムのコックピットには、そうした彼らの言葉と叫びが届く。
『ファウンデーションのやつらに、俺の家族はみんな殺されたんだぞ!』
「くぅぅっ……!」
『あいつらはコーディネイターだったんだ!プラントの奴らと一緒に俺たちを根絶やしにしようとしてたんだろ!』
「うぅぅっ……クソっ!」
堪らず通信回線を閉ざし、襲い来る敵機を迎撃するキラ。しかし、憎悪と怨嗟が滲み出た者たちの言葉は、キラの中に反響して拡大を見せる。
“人々に救いの手を差し伸べたデュランダルがどうして兄さんを殺したんだよ!?”
“月基地にいた妻と娘はパトリック・ザラに手によって焼かれてしまったんだ!”
“血のバレンタインの報復だからって、あんなことをして許されると思うなぁっ!”
「あがぁっ!」
集中力を欠いたキラは回避を怠り、フリーダムに被弾を許してしまう。そうした彼を援護するように、アグネスが駆るジャスティスは容赦なく敵機を撃墜していく。
「ちょっと!あんな威勢のこと言っといて何ボーっとしているのよ!?」
「アグネス……!すまないっ……でも、大丈夫だからっ……!」
アグネスの無頓着さに溢れた言葉を聞き、煩悶を振り払うキラ。そして彼は、襲い来る敵機のコックピットを撃ち抜いて敵機を破壊するのであった。
「えっ……!?ヤマト……隊長……!」
「そうだ……僕はもう、恐れない。誰かを傷付けることも、自分が傷付くことも……!そうじゃないと、前に進むことが出来ないから!」
どのような敵であろうと、命を奪うことを躊躇っていたキラ・ヤマト。いわゆる不殺と呼ばれる戦場においては愚行、矛盾を孕んだ行為は敵味方双方から賛否の声が上がり、彼を彼とたらしめているものであった。
しかし、アグネスと共に戦う彼は、敵機を容赦なく宇宙の塵芥へと変えていた。迷いを捨て、決意を示すかのように。そして、彼女との通信だけでなく、再び敵艦との通信を開くと、彼は最後通告を突きつける。
「投降しろ!次にかける言葉はない!」
『お前たちのような生温いやつらに我らを止める術などない!真の平和は我ら地球人(ナチュラル)の手で勝ち取るのだ!』
それが、特装艦からの通信で響き渡る最後の言葉であった。フリーダムはその発信源である艦船、及びその周囲の機体に照準を定める。そして、搭載された火器の全てを解き放ち、二隻の艦と無数のモビルスーツを撃ち貫く。
『ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!』
フリーダムとジャスティスのコックピット内に響き渡る無数の断末魔。その数だけ散った命があることを、キラとアグネスは全身で感じていた。アグネスは恐怖で身体をすくませる一方、キラは苦々しい表情を浮かべたまま、アグネスに言葉を掛ける。
「行こうアグネス!シンとルナマリアのもとへ!まだ彼らの目論見は潰えていないみたいだ。」
『えっ……!?りょ、了解!』
キラの言葉を聞き、アグネスの震えは止まっていた。その苛烈ともいえる彼の行動と言葉に彼女は戸惑い続ける。しかし、そうした覚悟が決まったキラを前に対して、アグネスの心は捉えられていた。
◇
C.E.75:L5宙域ザフト軍警戒網
「支援物資だと?コンパス経由のものか?」
『先方はそう言ってるぜ。船籍はどれも民間船ものだが、大西洋連邦の登録は済ませてあるってよ。』
プラント内での大規模クーデターを鎮圧し、その事後処理に追われていたジュール隊。哨戒にあたっていたモビルスーツ隊の隊長、ディアッカ・エルスマンから、ナスカ級戦艦ボルテールにいたイザーク・ジュールは報告を受けていた。
『どうするんだイザーク。一応停船指示を出して、コンパスの連中に聞いておくか?』
「無論だ。事前報告なしで好き勝手に動こうとするのは、あのバカ一人で十分だ。」
混乱は収まりつつあったものの、プラント外部からの来訪を容易に許可出来るような状況でもなく、イザークは責任者として神経を尖らせていた。
「おい艦長、周辺に他の艦影は。」
「今のところ確認は出来ません。ステルス偽装も考慮しての索敵を行いますか?」
「そうだな……いやそれよりも、あの輸送艦の動きから目を離すな。」
イザークからの命令により、プラントに接近していた輸送艦に停船指示が送られる。その指示通りに輸送艦は宇宙空間で停止をしたものの、その挙動にイザークは眉を顰める。
「ずいぶんと制動距離が長いな。余程重たいものでも積んでいるのか?」
「操舵手の腕がよろしくないのではないでしょうか?」
「いや、単なる物資を積んだ輸送艦にしては、乗り手の腕に関係なく挙動があまりにも……」
イザークの疑念が確信へと変わろうとした矢先、ボルテールの管制官が声を上げる。
「コンパス総司令より緊急の通信です!」
「……っ!?ディアッカ!その輸送艦を沈めろ!全部だ!」
『ああっ!?おい、いくら警戒中とはいえ民間船なんて撃っちまったらお前……』
「構わん!その時は俺とお前の首が飛ぶだけだ!」
『俺もかよ!?ったく……ああもうっ!』
親友であり上官の命を受け、ディアッカは自らが搭乗していたバスターの砲口を停止した輸送艦に向け、そのトリガーを引く。そして、撃ち放った砲火が直撃をすると、輸送艦のものとは思えぬ大爆発を起こすのであった。
『こいつは……!?全員後退しろ!あの爆発に巻き込まれたら死ぬぞ!』
「これはまさか……!?」
「ハーネンフース隊を出撃させろ!俺も出る!これよりプラントに近付くものは全て撃ち落とせ!」
艦橋での指揮命令が決して肌に合わないイザーク。彼は僚機部隊を引き連れて急ぎモビルスーツでの出撃準備へと入る。
『冗談じゃねぇぞ!こっちはわざわざ核エンジンからバッテリーに換装したってのによぉっ……!』
大規模な爆発から逃れたディアッカのバスターは、即座に残る輸送艦へと向かう。その艦船からは、核ミサイルを抱えた無数のモビルアーマー、メビウスが放たれるのであった。