彼女たちのコズミック・イラ Phase05:ラクスとオルフェ
子育てパートです。子供たちがお腹を空かしますが、授乳シーンそのものはありません。
作中のコーディネイターにとっては、唯一にして最大の欠点を解決する研究実験の第2段階へと移行する展開です。
次回はラクスとオルフェの誕生後、メンデルで発生したとある出来事をアウラ視点で語る回となります。
ラクスとオルフェが誕生してすぐに、他の参加者たちの子供たちも次々と誕生、あるいは人工子宮内で成長していた。アウラの計画は概ね順調であり、彼女とクライン博士は次の段階へ移行する準備を進めていた。
「アウラ、これからこの計画はどうなるの?」
「ああ、今後はもうしばらく計画への参加者を増やして、原則は人工子宮による出産する子供も増やしていく予定だよ。」
「この子たちも含めて、今回生まれた子たちはこの施設で育てながら、精密な検査を進めていくの。」
アウラは仕事をしながら、ラクスとオルフェの世話をしながらクライン博士が、ギルに今後の予定を説明していく。さらにアウラは計画のおおまか流れを説明していく。
「今回の遺伝子改造はあくまでも第1世代コーディネイター同士の受精卵を中心とした実験なの。そして、生まれてきたラクスやオルフェは実質的に第2世代コーディネイターとなる。」
「実質?」
「そう。でも、この子たちの遺伝子を改良していることで、その出生率、つまり遺伝子の相性は第1世代コーディネイターと同程度になる。つまりは私やクライン博士、ギルと同程度の出生率を計測することが出来れば、実験は次の段階へ進むことになるわ。」
「次の段階って……まだ先があるの!?」
アウラが語る計画の膨大かつ先の長さに、ギルは驚きを隠せずにいた。それでもアウラはデスクに向かったまま、さらに計画の話を続ける。
「ラクスやオルフェといった遺伝改良を加えた子供たち。彼ら彼女たちが子を成した第3世代コーディネイター。その子たちの出生率が改善を見れば、この計画は初めて成功と言っていいでしょうね。」
「なんだか……本当に物凄く気が遠くなる話なんだけど。」
「そうね。きっと私やアウラがシワシワのおばあちゃんになる頃になって、やっと成功だと言えることになるでしょうね。」
ギルは改めて実感していた。彼女たちがコーディネイター、そして人類の未来を本当に考えているのだと。しかし、こうして共に彼女たちと過ごしている時間が、そうした未来に繋がっているという実感は未だにないのであった。
「問題は私たちの寿命よりも、この計画を円滑に進められる社会の安定よ。この子たちを育てるのに、このメンデルだけでは狭すぎるわ。」
「子供たちには出来るだけ広い世界を見せてあげたいわよね。そのためにも、より安定した世界を私たちが作っておく必要がある。」
アウラとクライン博士は、共にそうした社会土壌の形成にも関しても、遺伝子改良の計画と並行して計画を進めているのであった。
「それってつまり……世界が平和ならいいってこと?」
「ま、有り体に言ってしまえばそういうこと。私から見れば、ナチュラルもコーディネイターも大した差なんてないんだから、さっさとみんな一緒くたにまとまっちゃえばいいのよ。」
「それが難しいから、あれこれと社会構造を弄らないといけなくなっちゃうのよね。」
現在の社会に蔓延る問題に煩わしさを露わとするアウラ。しかし、彼女はその問題さえも自らが解決を試みるのであった。
「もしかしてアウラって……すごい人なんじゃ……」
「いまさらっ!?ちょっとギルっ!わたしはこれでもプラントの黄道同盟だけじゃなくて、地球上の国家からも援助を受けている超優秀な研究者なのよ!?」
「ふふっ……普段のアウラを見ているギルにとっては、そんな凄い人物には見えないでしょうね。」
生活感がなくずぼら、公私ともにクライン博士におんぶに抱っこなアウラを目の当たりにしていたギルにとって、彼女はそれほど大それた人間とは思えないのであった。
「あら?あらあら?ラクスもオルフェもまた泣き出しちゃって……おむつはさっき替えたばかりだから、お腹が空いたのかしら?」
そう言うとクライン博士は着ていた白衣に手を掛け、速やかに脱いで手近な場所に折りたたんで置いていく。そしてそのまま、自らの上に身に着けて衣服に手を掛けて脱ごうとするのであった。
「うわぁっ!ちょっ……は、博士ぇっ!」
「ん?ギル?どうかしたの?」
あっさりと上に着ていたものを脱ぎ払い、博士はギルの前で上半身にブラジャーのみを着けた姿となる。その姿を前に、ギルはただひたすらに慌てふためくだけであった。
「あの……僕がいる前でそんな……!」
「私は別に恥ずかしくないわよ。ここにはあなたとアウラしかいないんだから。」
公の場ではないからと言い、平然と下着姿となってしまうクライン博士。アウラはもちろんのこと、ギルにそのような姿を見せることに彼女は一切抵抗を持っていなかった。
「すぐにお乳を上げるから、もう少し我慢しててね。」
そうラクスとオルフェに語り掛けながら、博士はとうとうブラジャーも取り払おうとしてしまう。その光景を直視出来ずに、ついに顔を背けるギル。そして、その一部始終を見ていたアウラがやっと声を上げる。
「はぁ……ギル、顔を背けるくらいだったら、しばらく部屋から出ていきなさい。」
「わ、わかった……」
アウラに促され、ギルは足早に出ていく。その姿をクライン博士は不満そうに見ていた。
「あら、私は別にいてくれてもよかったのに。」
「博士、近いうちに所内の一部スペース改良して、そこで授乳が出来るようにしておく。きっと他の研究員も助かるでしょう。」
「うーん……そうね。私は気にしないけど、そうしたほうがいいのかもね。」
自らの代わりにオルフェへの授乳を行ってくれる博士に対して、アウラは強く言い出すことが出来なかった。そしてまた、ギルからの『告白』を聞いていた彼女は、彼のためにも施設を改造することを検討しているのであった。
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