彼女たちのコズミック・イラ Phase04:命の重さ

短めな内容ですが投稿日がちょうど雛祭りとなりました。おそらくぴったりといった内容だと思います。

クライン博士の母性がマシマシなので、ほんわかした展開が続いております。おねショタの延長線上ですからね。

この雰囲気を味わえるのは次回辺りまでとなる予定です。それでは。


C.E.55:コロニー・メンデル

「あらあら、また元気に泣き始めちゃったわ。」
「あぁっ!もう……つられてこの子まで泣いちゃったじゃない。」

研究所の外。コロニー内でも緑が生い茂った区画で、アウラとクライン博士はそれぞれ、自らの子供を抱きかかえていた。

「赤ちゃんは泣くのがお仕事っていうくらいだもの。ラクスもオルフェもいっぱい泣いて、とっても元気な子に育ってほしいわ。」

自らの産んだ娘であるラクスを抱いてあやしながら、クライン博士はアウラが懸命にあやす息子のオルフェの顔も見つめる。血の繋がりはないものの、2人の赤子は同じ日、同じ場所で生まれ、強い絆と運命で結ばれた関係であった。

「こ、これが……赤ちゃん。」
「ギルは赤ちゃんを見るのは初めて?」
「うん、コロニーの中だと、子供はいるけどこんなに小さい子は見たことないから。」
「ふふっ……それじゃあ、ラクスのことを抱っこさせてあげようかしら。」

そう言ってクライン博士は、自らが抱きかかえていた娘をギルの手元へと差し出す。彼はその見るからに守る必要がありそうな、新たな命を丁寧に受け取る。

「あっ……意外と重いかも。」
「でしょ?産まれた時はもう少し軽かったんだけど、少しずつ赤ちゃんの身体は大きくなっていくのよ。」

博士から受け取った赤子を抱きかかえ、命の重さを実感するギル。その体験は彼に、それまで経験したことがない感情を芽生えさせるのであった。

「ほらギル。オルフェのことも抱っこしてみて。一応はあなたの息子なんだから。」
「い、一応って……」

やはり語弊のある言い方をしつつも、アウラもまた自らの子をギルに抱きかかえるよう促す。そして彼は、ラクスをクライン博士に返すと、アウラから男児の赤子を受け取るのであった。

「あまり……違わないかな?」
「それはそうでしょ。性別の違いはあっても、生まれてきた日は全く同じなんだから。」
「もう少し成長してくると、きっとオルフェのほうが大きくなってくるはずよ。」

2人目の命を抱きかかえ、自らがその出生に貢献出来たことに、ギルは喜びを感じていた。そして、それと同時にこの新たな命に対する責任も抱くのであった。

「それにしてもまさか、博士が無痛分娩じゃなくて正常分娩を選択して出産するとは思わなかったわ。」
「ええ。出来るだけこの子には、少しでも母親らしいことをしてあげたかったから。産んだ時の痛みは、この子には残らないけど私には残る。そうなりたいって、私が思ったから。」
「そう……痛み、ね。」

娘を抱きかかえるクライン博士の幸せな顔を見て、アウラは些か複雑な感情を抱くこととなる。そして自らはギルと、彼が抱きかかえる息子を見つめて逡巡をしていた。

「出産ってそんなに痛いものなの?」
「ええ。凄まじい痛みだったわ。今まで受けた痛みの中で一番痛いと思えるくらい。きっと、もうあんな痛みを経験することはないでしょうね。」
「男だったら死ぬんじゃないかって言われているわね。たぶん、私も耐えられないかも。」
「うっ……し、死ぬような痛み。」

ギルは下半身に得体の知れない恐怖を感じ。僅かに足を内股にしていた。そして、自らとは遺伝子上の繋がりを持った子供であるオルフェを見つめる。

「ん?ギル、どうかした?」
「……いや、僕の父さんや母さんも、こうして抱っこをしてくれていたのかな……って。」

以前は両親からの愛情に飢え、孤独を感じていた少年でもあったギル。しかし、自らがこうして成長し、赤子を抱き締めることが出来るようになるまで、少なからず自らが親の愛情を受けていたのかと考えるようになる。

「きっと……きっと誰かがあなたを愛してくれるわ。それはもうご両親じゃないかもしれない。でも、いずれ誰かがあなたを再び愛してくれるはずだから……ね。」

クライン博士の言葉を聞いたギルは、抱きかかえていたオルフェを少しだけ強く抱きしめる。そうした彼の姿を目の当たりにしたアウラは、心の中でこの平穏な日々が続くことを願っているのであった。

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