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The Jackson 5 , I saw Mommy kissing Santa Claus/呪いが解けた瞬間

クリスマスが近づくと思い出す。

次男が小学二年生(八歳)末の子が四歳くらいだったかしら。
長男が参加していないから、長男が中学に上がった年の冬だったろうか…

12月に入りなんとなく気忙しく落ち着かない気分だった。
その頃は仕事をしていなかったので、時間に追われるようなことはないのだけれど、

あの日は朝から子どもたちが家にいたので、土曜日か祭日だったと思う。
夫がいなかったので、日曜日でも平日でもない。

台所で用事をしていると、次男の、クリスマスツリーを出そうと弟を誘う声が聞こえた。

樹脂製のクリスマスツリーは組み立て式で、使わない時には幹と枝とがパーツに分解されて、長さ1メートルくらいの箱に入っている。
箱の中には、キラキラしたモールや、プラスチックの小さなサンタ人形や、銀紙を貼り付けたボールや星の形の飾り物や、雪に見立てたワタや電飾が同梱してある。

その箱は、客間の押し入れの下段の、ストーブの収納箱の上に乗せてあったと思う。
押入れに奥行きがあるので、ストーブの収納箱を奥の壁に合わせ、手前の襖側に頂き物の清酒の一升瓶を置いていた。

夫は晩酌をするが日本酒は飲まないので、もったいないが専ら料理用に使った。

調味料なのだから台所に置くべきだろうが、清酒の一升瓶は新築の棟上げや、祭事の寄付のお礼、何か頼まれごとをされた際に頂くので、はじめは客間の床の間に置く。
その流れで、嵩張りもするし、そのまま客間の押し入れのちょこっと空いたスペースに潜り込ませていたのである。

台所を片付けようとシンク下の中身を床に広げて大取組みをしているところに、次男が駆け込んできた。

見ていなかったので状況はわからないが、クリスマスツリーの箱を取り出そうとして、酒瓶を倒してしまったらしい。

駆けつけると、酒瓶は割れて中身が押入れの床板と畳に広がっていた。
酔っぱらいそうな匂いが部屋中に充満している。

とっさに、怪我をしていないか、二人の子どもの様子を見た。
身体のどこにも赤いものは見当たらなかった。

おかあさん、ごめんなさい、

と言いながら、割れた瓶のかけらを拾おうと次男がかがんだ。

危ないから触らないで!

と大きな声を出した。

子どもたちをその場から離れさせ、無言でかけらを拾い、無言で酒を吸った畳を拭いた。
何度も何度も拭いたけれど、酒の匂いはきつく
畳の薄茶色のシミは除けなかった。

それから、何を言ったのかよく覚えていないが、ものすごい勢いで次男を怒った。

こんな忙しい時に、面倒な仕事を増やして、

とそんなようなことも言った気がする。

言って直ぐに後悔した。
あんなに怒ることはなかったのだ。
怪我もしなかったのだし、悪戯をしようという悪気もなかった。

○○○、クリスマスツリー作ろうぜ!

弟を誘う、嬉しそうな次男の声が蘇った。
本当にかわいそうなことをしたと思った。

クリスマスツリーを、あのあとどうしたのか覚えていない。
ただ覚えているのは、あれ以来子どもたちでクリスマスツリーを飾らなくなった、と言うことだけだ。
学校に行っている平日の昼間に私が一人で組み立てた。
一人で組み立て、一人で片付けた。

✳︎

次男が三十歳を過ぎた頃に、二人でいろいろ話をしていて、不意にあのクリスマスツリー事件を思い出した。

ねえ、三年生くらいの時、クリスマスツリーを作ろうとして、お酒の瓶割っちゃったの覚えてる?

ああ、あったねえ、そんなこと…
覚えてるよ。

あの時さあ、すごい怒ったよね…

ああ、なんかめっちゃ怒られた。

やっぱり覚えてるんだ。
あんなに怒ることなかったのにね。
悪かったね。

まあしょうがないっしょ、悪いことしたんだから。

クリスマスツリーをつくる楽しい気持ちが台無しになったよね。
こういう悲しい思い出が親への恨みになったりするのかなあ…

?それは逆でしょ。
怒られたのもかず知れないけど、楽しいこともたくさんあったし、その中の一部で。
もともと親子関係が悪いから、恨みつらみに繋がるんじゃね?

あ、そうか。
逆か。

四半世紀に渡る呪いの解けた瞬間であった。


クリスマスの最も好きな歌
The Jackson 5 , I saw Mommy kissing Santa Claus

勤め先の百貨店で、年末商戦真っ只中、店内BGMに流れるこの歌に励まされた。
幼いマイケルの声が可愛いね。



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