大人気ない失態
とにかく並ぶのと待つのが嫌いなのは前からで、年のせいばかりじゃないけれど、拍車がかかっているかも知れない。
お昼時、どこも混むから何か買って帰って家で食べよう、と言う夫の提案を押し切って、うどん屋系のファミリーレストランに入った。
店先で名前と人数を記入したら前に二組しかいなかったので、わりとすぐに席につけた。
夫と同じものを注文して、先に来たので夫に譲った。
ところが、夫が半分食べ進んでも私の分が運ばれない。
いくらなんでももう来るだろうと思い、スマートフォンで空腹と苛立ちを紛らわせていると、すでに夫は食べ終わりそうな気配。
夫が、聞いてみたら?と言う。
いやよ。と私は言った。
あなたが食べ終わったら帰るわ。
もういらない。
そんなわけに行かないだろう、と夫。
待たされるにも程があるわ、いくらなんでも。
昼時なので混み合っている。
注文された料理が上がるたびに、厨房を切り回している男性の読み上げる声も聞こえている。
けっしてサボっているのでも、怠けているのでもない、運ぶ人は小走りだ。
駐車場の、天ぷらそば、とか、鍋焼きうどん、と書かれたノボリの間に、アルバイト・パート募集もあったのを思い出した。
この店の前はよく通るけれど、いつも募集している。
慢性的な人手不足なのだ。
日曜日の昼時、上げ膳据え膳してもらえるだけでありがたいのだ。
それはわかっている。
わかっているけれど、腹が立ってしまう。
一言、もうすぐ来ます、と声をかけてくれたらよいのに、と言えども、店の人は息つく間もなく駆け回っているのである。
腹を立てる自分が悪いと思うと、今度は自分が腹立たしい。
大人気ないので情けなくなる。
夫が、隣の席の二人連れの注文を取りに来た店員に
すいません、まだ来てないんですけど…と尋ねた。
店員は、はい、すみません、と立ち去る。
私と反対に、夫は年と共に穏やかになってきている。
夫が、まだですか?なんて店の人に尋ねたのは知り合ってから初めてだ。
こういう役目はずっと私が担ってきた。
私はまだ意地になっていて、
これから作るんじゃない?忘れていたんだったら許せない。と言った。
夫は、そんな事ないだろう、と慰めた。
夫がついに食べ終わると、私の注文が運ばれてきた。
お待たせしました、と店員が言った。
腹の底から搾り出すように
お世話さまです、ありがとう。と答えた。